憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の四十七
其の四十六からの続きです。気軽にお付き合いください。
藤咲が会いに行くと言っていた若葉水菜が、ここ、私の地元の石館高校にいるのか? だって、たしか石館高校には……。
「あ、あのさ、藤咲。本当に今日、琴音先生や水菜が、石館高校にいるのか?」
まだ半信半疑だが、私は少し呼吸を乱す。4人で校門前に並んで礼をする。藤咲は地元道場の先生から水菜の存在を教えてもらったらしく、間違いはないと言う。道場までの道がわからないので、光が近くにいた陸上部員に道を聞く。
「すみませーん! 剣道道場で審判講習会に参加する者ですけど、道場まではどうやって行けば良いですか?」
私はトントンと胸を軽く叩き、これ以上は悟られないように大きく息を吐いた。ちょうど道案内をしてくれた陸上部員と目が合う。
「そこの道を行ってー、右に行けば、すぐ見えてきますよー! ……って、アレ?」
そして、なんか彼女のこと、見たことある。
「雪代、だよね? 石館中の剣道部だった?」
名前を呼ばれるも、私は彼女のことを強く認識していたわけではない。瞬間的に名前が出てこない。
「あ~、うん。ごめん。え~と……」
これはこれで、後で読者様に怒られてしまうのではないか? 名前を忘れるなど。
「多屋だよ! 多屋野乃花! あ~んもぅ~、私も石館中三羽烏でちょっとは有名だと自負してたんだけどなー! まぁ、石館中無敵の剣士、雪代響子には敵わないか!」
ニコッとした笑顔が特徴的だった。
「え~! 雪代さんの知り合い? やっぱり凄かったんだね! 中学時代の雪代さん」
光が驚き、そして、自分のことのように喜ぶ。
「い、いや。別に……」
今はあまり思い出したくない。お礼を言って道場へと向かう。言われた通りの道を進むと武道館らしき建物が見えてきた。
「凄げぇな! 都立高校なのに。立派な道場じゃん」
宗介が建物を見渡し、私も少し呆気に取られる。
「審判講習会参加の方~、こちらで所属高校とお名前をお書き下さい~」
なんだか可愛いらしい声がするので寄っていくと。
「水菜!!!」
藤咲が声を上げる。名前を呼ばれて彼女は反応する。
「あれ!? ひょっとして、莉桜ちゃん? 柳新町道場の」
り、莉桜ちゃん!? なんともそんな呼び方をする人がいるとは。これには驚き、怒るだろうなぁと、思っていると。
「やっぱりそうだな。小学生の頃の面影があるぞ。久しぶりだな」
えっ? 怒んないの? 藤咲。光と宗介と顔を合わせる。
「わぁ~、やっぱり莉桜ちゃんだぁ。嬉し~。小学生の時以来だね~」
し、自然だ。あのおっかない藤咲と自然に会話をしている。しかも、あの藤咲が、少し笑顔だぞ。
「……な、なんか。思ってた人と違うね。もっと好戦的な人かと思ったけど」
私も光も実のところ知ってはいるものの、ほとんど面識がない。いわゆる完全ユルフワな感じの可愛い女の子だ。
「お、おい。大丈夫か? あの藤咲が笑顔だぞ? 雪でも振るんじゃないか?」
宗介の意見には同意だ。藤咲が小学生の時に1回しか勝てなかった相手。若葉水菜が、可愛らしい女の子だったなど想像もつかなかった。てっきり、会ったら「首を取る」とか言いそうな、あの藤咲が。
「莉桜ちゃん。後ろの方はお友達? そっかぁ~、莉桜ちゃんも友達できたんだね!」
うぇぇ。そこまで言っちゃう? 光と宗介はとうとう口を開けたまま固まり、私は呆然とモノクロにされた気分で立ち尽くす。
「あれれ? 3人共、固まっちゃったよ? 莉桜ちゃん?」
「友達ではない」の一言だけは聞こえたが、私はようやく色のついた人間に戻れた。
「私立の総武学園高校に進学したんだね! あそこの先生、さっき受付したけど凄い美人な先生だね~」
ダメだ……。初っぱなからペースを乱された。こんな強者が登場してくるとは。剣道の実力もさぞかし、この手だと軟派だろう。
「……水菜。道場の先生から聞いたぞ。お前、その、胸」
胸? いやいや、藤咲に限ってハラスメント的な意味ではないと思うが。まぁ、普通ぐらいか、ちょっと小さいか?
「なにをジロジロと水菜の胸を見てるのだ! お前たち3人は!」
ここで、私たちの存在を思い出したように振り返る。水菜は胸に手を当て、光は宗介を軽く小突く。
「……うん。大丈夫だよ。ありがとう。莉桜ちゃん。……でも、私はもう剣道はできないんだ」
笑顔が一転、少し影を落としたような表情へと変わる。
「……そうか」
藤咲もわかっていたかのように答える。しばし、沈黙が続き、夏の熱風が私たちの体を覆う。
「でもね。辞めたくないの。剣道は。だから、こうしてマネージャーやってるの」
ニコッとした笑顔は光に負けないぐらい眩しい。藤咲が受付を済まし、道場へ入ろうとすると。
「みずみず~! まぁだ~!」
「ウチらだけじゃ中の方が回んないよー」
「早く手伝ってよ~」
「マネージャーでしょ!」
4人の部員が中から出てきた。この4人の顔を見た私は、顔から血の気が引いた。
続く
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