見出し画像

アートと商業主義と万博/中世主義 :英国コートルードの美術史講座【3日目】

イギリス・ロンドンのコートルード美術館・研究所のサマースクール受講。講座のテーマはラファエル前派を中心とする19世紀イギリス美術です。3日目のレクチャー動画のテーマは次の2つでした。

Lecture 5: Art and Commerce: The Great Exhibition and South Kensington
Lecture 6: Medievalism and Modernity: From Pugin to Morris

万博は商業主義か?

Great Exhibitionって何かと思ったら、1851年にロンドンで開催された万博(万国博覧会)のことでした。ジョセフ・パクストンがデザインした、有名な水晶宮(クリスタル・パレス)の話も出てきました。

万博の入場料とそれを現在の基準に換算した価格のデータなどが面白かったです。万博には中国人も訪れたとして中国服姿で絵に描かれているのだそう。

万博の収入でサイエンス・ミュージアム(科学博物館)などが建造されたらしい。

Chartism(チャーティスト運動、チャーティズム)という言葉も登場し、昔、学校の歴史の授業で習ったのかもしれませんが、完全に頭から抜け落ちていました・・・。イギリスで教育を受けた人にとっては当然の知識なのかもしれません。

中世への懐古主義と近代

19世紀イギリスで起こったゴシック・リバイバルやアーツ&クラフツ運動には、中世への憧れを建築や家具などで表現したという側面がありました。

美術評論家のジョン・ラスキンがゴシックを賛美しています。

この文脈では、オーガスタス・ピュージンという建築家、言わずと知れたウィリアム・モリス、イラストやデザインを手掛けたウォルター・クレインなどが紹介されました。

ディスカッション・トピック

Zoomでのディスカッション・セッションの前に共有されていたトピックは次の2つです。

• Were the motivations behind the organisation of the Great Exhibition and the founding of the South Kensington museum idealistic or utilitarian?
• Can ‘style’ in art and architecture be considered political?

・万博開催とサイエンス・ミュージアム設立の動機は理想主義か功利主義か?
・美術や建築の「スタイル」は政治的と見なし得るか?

utilitarianは「功利主義の」という意味。知らなかった!

当然、金もうけだし政治的でしょ、と思ったのですが、いざディスカッションが始まってみると、芸術と政治を明確に分けたがるのは日本における現代アートの見方だけではなかったようで・・・。

中世風の家具に思想性はあるか?

ディスカッション・セッションで講師は、ピュージンが中世美術を模した家具を作ったのは、単に中世のアートの形式を模倣しただけでなく、理想化された中世の価値観、つまり騎士道への憧憬といったものを、ヴィクトリア朝の家庭に植え付けようとした意図がある、と話していました。

また、モリスは労働者、職人の仕事を重んじていた一方で、その家具などを入手できるのは裕福な家庭に限られていたとも言っていました(たぶん)。

しかし、参加者の2人は「そんな政治的な思惑はなかったのではないか。アートの形式はそれだけのこと」といった意見を提示していた模様。

それに対し、モリスの絵柄パターンに、「捕らわれの身、自由と不自由」という「政治的」なテーマを見いだした人もいました。

モリスのデザインは現代では凡庸な文様に

日本でもモリスがデザインしたパターンはハンカチやブックカバーや服などになっていますが、それはもちろんイギリスなどでも同じです(というかイギリスの製品が日本に輸入されているのかな)。

講師は、壁紙やファストファッションに取り入れられて、モリスが文様を制作した当時の意味合いが失われてしまっている製品の写真を示しました。モリスのパターンを自身の作品に取り込んでいる現代アーティストもいるそうです。

こうしたものは、アートの商業化の顕著な例です。

万博の政治性には触れず?

万博といえば、ロンドンではなくパリが悪名高いですが「人間動物園」という負の側面もあります。しかし、今回の講座では触れられていなかったと思います。

Black Lives Matter(BLM)の運動の高まりなどを考えれば、言及されてしかるべきという気もしますが、講座の内容と関連がなかったと考えられたのかもしれません。

「人間動物園」に関わる植民地主義についても特に触れられずじまい。ただ、インド、中東、中国の人たちで表現された「アジア」という彫刻における「ステレオタイプ」についてはちらっと語られていました。

今日はZoom疲れ?

今日はチャットでも発言できず、言い訳ですが、この講座のセッションの前にも(日本語ですが)ほかのオンライン(Zoom)講座2つに参加していて、オーバーヒート気味だったかもしれません。

英語がいつにも増して頭に入ってこないことがありました。知識のない事柄がテーマだったせいもあるとは思いますが、反省点が満載です。

4日目の明日は、ホイッスラーが登場。この画家に関する事前資料は長くてまだ読み終えていません。明日、少しは読めるかな・・・。

▼続く

▼コートルード美術館・研究所の講座のこれまでの受講体験記


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?