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Co. Ruri Mito『TOUCH -ふれる-#1』公開クリエーション:接触が恐れられる時代のダンス

ダンサーの三東瑠璃、森山未來、大植真太郎の3人が、踊りながらダンスを創作していく過程を公開した公演(パフォーマンス)。

各日14~20時(各会場の最終日は短縮)に行われ、鑑賞者の入場時間が区切られている。80分チケット(4000円)、3時間チケット(5000円)、フルタイムチケット(6000円)がある。80分にしたが、3時間でも6時間でも見ていられるダンスだったかもしれない。(ダンサーたちはおそらく1人ずつところどころで短い休憩を取っていた)

創作の現場

東京・墨田と神奈川・横浜で開催され、私は横浜会場で見た。

靴の上から覆うように履くビニール袋のカバーを渡され、それを装着してから、入場時間になると、横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホールに入る。座席はなく、中央部分がダンスエリアになっていて、観客はその周囲を歩き回りながら鑑賞する。

床にいくつか、背丈の2倍近くある黒い直方体が置かれている。横幅は人が数人並べるくらい。天井からは、巨大な半透明のビニールがカーテンのように何枚か掛かっている。直方体もビニール袋も、時折スタッフ(黒子)が動かして、鑑賞客の視界をさえぎったり開けさせたりする。

ビニールがそよそよと音を立て、風が吹いているよう。サウンドを作る人が会場の端にいて、音を奏でている。途中で駅のアナウンス音声のような音も流れる。音楽担当者が歩きながら笙(?)も吹いていた。途中で森山さんが裸足から靴になると、歩いたときにコツコツと音が響いた。

楽器の演奏者もダンサーたちも皆、髪を後ろで1本にして1つ輪っかを作る、おそろいの髪型をしていた。簡素な(しかしおしゃれな)、四角をつなぎ合わせたような衣装を着ていたと思う。

服を作る人が使うトルソーのようなものが1つ立っている。

暗い中、天井や床にある照明が切り替えられ、光の強さや方向が変わる。

記録撮影者が移動しながらカメラで動画を撮っている。

空間を体験する

ダンスパフォーマンスというと動きを目で追いがちだが、この公演は、空間の中に入っていく感覚があった。

振付が決められているダンスも、本来は生成的だ。踊りは瞬間瞬間に生まれ消えていく。生き物、微生物のように。今回のパフォーマンスでは事前にどの程度まで構成や動きが決められていたかはわからないが、ゆっくりと今ここで踊りが生み出されているように見えた。

直方体やビニールを設置することで、全体を見渡せないようにあえてしているのだろう。3人のダンサーの様子を同時に完全に見ることは難しい場面が多い。その分、目で見るだけでなく、気配が入ってくる。ふと何かを感じて目を向けると、新たな動きが始まっている。見るのに熱中していると、気付かぬ間に別のダンサーがすぐ横に立っていたりする(接近し過ぎてはいけないので、驚いて少し離れる)。気配に敏感になったり鈍感になったりする。

接触する身体

タイトルにあるように、「ふれる」がテーマ。もともと日本は他人同士の身体接触が少ない文化だが、今では衛生上タブー視に近くなった。ダンスでは、自分以外のダンサーの身体に触れずに踊ることもあり得るが、この作品では「ふれる」を探っていく。

三東さんの踊りは圧巻で、そこにいるだけで存在感がすごい。自分の脚を手で引き寄せては放り出したり、大植さんの皮膚を押したりつねったりして迫っていったりする。

三東さんが開脚して股を大植さんの腰に密着させる体勢を取り、両脚をもぞもぞ動かして離れる、という(セックスを少し思わせるような)場面もあった。三東さんはほかの公演でもそうした身体の生々しさをためらわずに(と見える)見せる。

ほんの少し触れるだけでもさまざまな思惑が交錯し感情を生じ得る「身体接触」。動きの実験、情愛、攻撃、衛生・医療的、など、さまざまな意味合いを持つ。

私がこのパフォーマンスで目撃した接触は何なのか?おそらく単に「ダンス」というだけではなく、何かの拍子にほかのものに移行してしまいそうになるもの。そうした緊張感をすべての瞬間が秘めていた。

三東さんと大植さんが接触した後、大植さんが脱いだ衣服に三東さんが触れる。服をかぶせたトルソーにも触れる。服もトルソーも、無機質な物体ではなく、人の身体の気配を帯びた存在になっている。人との接触は身体に直接行われるものとは限らないのかもしれない。

感染防止のためには、着た服も洗濯や消毒が求められる。しかしそう処理した後でも、身に着けたものには身に着けた人の感触が残るのではないか。物を介して人とつながることもあるかもしれない。しかし、そこにはやはり身体のぬくもりはなく、相手との「ふれ合い」も生じないだろう。いや、それとも、生じ得るのだろうか?

三東瑠璃の身体言語

三東さんの身体とダンスの何があんなに特別なのか、まだ自分の言葉で表現することができない。

今はただあの肉体が永遠に滅びないでほしいと願うだけ。しかし、滅びるから尊く美しいのだろう。

入場後80分たつと、スタッフが無言で「時間になりましたので、80分チケットの方はご退場ください」といった文言が書かれたプラカードを掲げて会場内を歩き出した。それに気付いた客から退場していく。会場が薄暗いので、文字は読みづらい。ただ、自分でそろそろ時間だなと思っていたのと、人々が出口に向かい出したので、退場すべきタイミングなのだとわかった。

配布物

入場時に渡されるA5くらいのサイズの紙は8枚あった。半透明の薄い紙もある。紙を収納するための封筒もくれた。

1. 注意事項、三東さんのあいさつ、公演クレジット、Co. Ruri Mitoの今後の予定
2. 「costume」(衣装)という言葉と、布(?)の写真
3. 「lighting」(照明)という言葉と、3つ1セットらしい数字の羅列
4. 「scenography」(舞台デザイン)という言葉と、正方形、長方形、対角線で構成された図形
5. 「music」(音楽)という言葉と、楕円上に配置された音を表す英単語
6. 「dance-A」という言葉と、曲線
7. 「dance-B」という言葉と、曲線
8. 「dance-C」という言葉と、曲線

公演情報

【東京公演】
2022年2月11日(金)〜15日(火)
<開館時間>午後2時〜8時 ※最終入場時間:午後7時半
★最終日2月15日(火)のみ午後2時〜7時 ※最終入場時間:午後6時半
<場所>すみだパークギャラリーささや

【横浜会場】
2022年2月18日(金)〜20日(日)
<開館時間>午後2時〜8時 ※最終入場時間:午後7時半
★最終日2月20日(日)のみ午後1時〜5時半 ※最終入場時間:午後5時
<場所>横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホール

チケット:
・80分 4000円
・3時間フリーパス(入場時間から3時間出入り自由) 5000円
・1日フリーパス(開館時間中いつでも出入り自由) 6000円
★U-25チケット(入場時要確認証提示)500円引き
※別途、クラウドファンディング限定チケットあり

振付・演出・出演:三東瑠璃、森山未來、大植真太郎
音楽:FUJI|||||||||||TA
セノグラフィー:ULTRA STUDIO
衣装:YANTOR
キュレーター:髙木遊
クリエーションメンバー:青柳万智子、安心院かな、金愛珠、斉藤稚紗冬
照明:Yann Becker

舞台監督:筒井昭善
音響:株式会社ホワイトライト
写真・記録映像:Matron
デザイン:岡﨑真理子+澤田育久(撮影)

制作:Co. Ruri Mito
制作協力:西原栄
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団。アーツカウンシル東京(東京公演)、公益財団法人セゾン文化財団 芸術文化振興基金
共催:横浜赤レンガ倉庫1号館[公益財団法人横浜市芸術文化振興財団](横浜公演)
主催:Co. Ruri Mito


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