ウォッカの要素を持った男
〇〇な男というより、「ウォッカの要素を持った男」が正しい気がする。
シングルモルトな男にも、バーボンな男にも、焼酎な男にも、持ちうる要素。私を苛立たせ、中毒にさせる要素。具体的に言えば、「ウォッカの要素を持ったシングルモルトな男」がどうにも好きだ。
ウォッカは透明のスピリッツ。ジン、ウォッカ、テキーラ、ラムが世界の4大スピリッツと言われる。ジンとウォッカは無色透明で似ているが、ジンは薬草成分が感じられる「足された」酒であるのに対し、ウォッカは白樺で濾過することで、「引かれた」酒だ。
私にとって、ウォッカは知性の象徴だ。可能な限り濾過して、余計なものを排除し、純度を徹底的に上げた思考。無駄を無慈悲に無感情に排除した思考。私にはあまりにも美しすぎて、一目見るとメデューサに睨まれるが如く石となり、涙だけ流して身動きが取れなくなる。
すごくずるいの、ウォッカな男は。「僕は水ですよ」と偽りながら、平気で人の心の中に侵入する。気がつかないうちに美しい言葉で酔いが回り、「あなたは水じゃなかったのね?」と気が付いた時点で、心が酩酊状態となっている。
酔わせるならずっと酔わせて。中毒になっても。
そう願うのに、気まぐれに姿をくらまし、またふわりと現れる。「濾過の前の要素をやっと見つけたわ」と報告しても、「そんなこともあったかもしれないけど、もうその要素はないよ」とかわす。捕まえても、捕まえても、するりと抜け出すくせに、また不意に現れる。
イライラする。馬鹿にされているように感じる。「そんなもので俺は縛られない」と嘲笑う。ただでさえ夏場は暑くてイライラするのに、汗も一切かかず、涼しげな表情に笑みをたたえ、私を見下ろす。なのに、愚かな私は、涼を求め、あなたの言葉を欲してしまうのだ。
まあいい。確かにあなたの毒は私に回った。ただ、私とたった一度でも混じり合えば、毒は又あなたに戻り、毒性が増したそれはあなたを駆け巡る。私に毒がないとでも思ってた?自惚れがすぎるわ。「ウィルスなんて、人間にそもそもあったものが戻ってきただけ」って教えてくれたあなたに、ぴったりの仕返しでしょうよ。
私には、あなたのような知性はない。それに類する知識もない。ただね、その知性を見つけだし、最大限に引き出したうえで、堪能する力は私にはある。全ての女が持つわけではない能力よ。わかってたでしょうね、だから無意識のように引き寄せられたのよね。時間に方向性はない。あなたは私に、私はあなたに、砂鉄が磁石にくっつくように、どんな時でも必然的にくっつくの。
毒はゆっくりと回る。じわりじわりと。
解毒の方法があるのなら、それは私しか知らないはずだ。
やはり、支配しているのは私だ。
という私を、私が決して手が届かないところから笑うのは、やはりあなた。
イライラするわ。
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