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放送記者がLINEに転職して校閲者になった話。3年目の感想を現場からお伝えします

こんにちは。LINE校閲チームの澤田と申します。
2019年に3年間勤めたテレビ局を退職し、転職して今年で3年目の校閲者です。

なぜLINEの校閲チームに入ろうと思ったのか、実際に業務にあたってどのようなことを感じているのか、振り返りたいと思います。

これまで何をしていた?

前職ではテレビ局で記者をしていました。神奈川県を持ち場に、小田原市や箱根町などの県西地域、一部湘南地域を担当する1人支局勤務でした。

神奈川県地図

神奈川県内の市町村(神奈川県)

報道機関では警察、県政など取材先で担当が分けられることが多いですが、支局記者は管内で起こるすべての事象が取材対象の「何でも屋」です。事件事故や災害発生の一報を聞きつければ真っ先に現場へ向かいます。

大きな事件では所属局から応援の記者やカメラマンが投入されることもありますが、到着には時間を要するので現場に近い支局記者が初動取材にあたります。一報映像の撮影、目撃者探しとインタビューなどいち早く放送に繋げるために、原稿を書く時間や映像を送る時間を逆算しながら必要な情報を全力で集めます。

画像2

※映像取材をする筆者

事件事故や災害などの「発生モノ」以外にも、市政や選挙、地域の話題を取り上げる「街ダネ」も大切な取材です。そのほか、関心があるテーマを深堀りするなど少し長いスパンで取材する企画も作っていました。

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※継続取材していたパラリンピックの話題を、転職後にLINE NEWSで掲載していただきました。

放送記者がなぜLINEで校閲者に?

喜ばれる取材ばかりではありません。相手が隠したい事実をさまざまな方法で聞き出したり、想像もできないような辛い経験に何時間も耳を傾けたりすることもあります。

取材ノート、メモ2

多くの新人が経験するように、私も「自分にこの仕事は向いていないのではないか」と毎日のように悩みました。それでも、当時の上司や同僚、他社の先輩に恵まれ、アドバイスをもらったり、時には取材先から励まされたりして、悩みと手応えを繰り返しながら時間が過ぎていきました。

転職を考える1つのきっかけは家族の介護を経験したことでした。それまでは「全国どこで働いてもいいし、休みの日の呼び出しも当たり前」と考えていましたが、働き方や働く場所を見つめ直すようになりました。

悩んでいる時にたまたま目にしたのが「LINEが校閲部門を立ち上げた」という記事でした。

テレビ局に在籍していた当時は、正直に言ってネットメディアに対してあまりよい印象を持っていませんでした。PVが第一で記事の品質は二の次、という偏見が少なからずあったからです。

2018年時点の記事によると、多くのネットメディアでは専属の校正・校閲担当者がおらず、編集者やライター自身が記事をチェックしているといいます。「ウェブも含めて校正需要自体は高まっているのではないか」という声がある一方で、新聞・出版業界では、コスト削減で人員が絞られている―。そのような中、LINEが校正・校閲部門を新設したという内容は前向きな驚きで、強い興味を持ちました。

転職を後押しした言葉

それまでの取材で言葉にこだわる重要性を学んだことも、転職の後押しになりました。生活保護に関する問題を取材した際、慶応大学の井手英策教授に聞いた話がとても印象に残っています。「生活保護受給者」「生活保護からの脱却」という表現についてです。

生活保護制度_厚労省

生活保護制度(厚生労働省)

「当たり前に使われているけど、どうして『受給者』なんでしょうね。生活保護は憲法25条で保障されている制度なのだから、施されるものではなく、私たちの権利として選択できるもの。お金をもらうことが強調される"受給者"ではなく、僕はフラットな"利用者"という言葉を使っています。これは元『利用者』さんの教えでもあるんです」

「『生活保護からの脱却』という表現にも違和感があります。生活保護の利用を"良くないもの"とする潜在意識がある。だから"脱落したところから抜け出す"という『脱却』の表現になるのではないでしょうか」

脱却-好ましくない態度や、古くから離れられないでいた思想や慣行からすっかりぬけ出すこと。(新明解国語辞典第8版より)

普段何気なく使い、違和感なく触れている言葉でも、知らず知らずのうちに当事者を傷つけたり窮屈にさせたりする表現がたくさんあるのでは、と気づかされた瞬間でした。

その後も事故の遺族やいじめ被害者、障害がある人など、さまざまな立場の人に取材をするたびに言葉や表現が気になるようになりました。中には、過去に書かれた記事の表現に苦しむ人もいました。LINE NEWSなどニュースプラットフォームとして影響力が増すLINEで、校閲者として役割の一翼を担いたいと考え最終的に転職を決めました。

レセプション

中に入ってちょっとビックリしたこと

LINEに入って驚いたことは大小いろいろとありますが、小さなところでは自席に電話がなかったこと、でしょうか。もちろん、所属部署や担当業務によって違いはありますが、報道の現場では電話を使う頻度がかなり高かったのでカルチャーショックでした……。

いまだに社内の人に電話をかけたことは一度もありません。代わりに使うメインツールのビジネスチャットは作業を中断させないので、業務を進めやすいです。電話ではニュアンスを汲んでもらうような曖昧な表現をすることがありましたが、テキストでは簡潔で明確な言葉選びが必要なので、正確さとスピードが求められる現場では有効だと感じます。当事者間でのクローズドなやりとりにならず、ログも残るので認識の共有も同時にできて効率的です。

職場の机

※会社の机。現在は多くのメンバーが在宅勤務中

同僚が若いことも驚きでした。未経験者でも一から学べる研修体制が整っているので間口が広く、スキルアッププランも用意されているのでじっくりと腰を据えて校閲力を高めることができます。各人の指摘を蓄積し事例共有する場もあり、属人化しがちな知識の共有に努めている点も印象的でした。

紙での簡単な校正経験はありましたが、独自開発している校閲システムに初めて触れ、その便利さや最適化を追求する地道で緻密な開発過程にも驚きました。「品質は二の次」という偏見はすぐに覆されました。

記者と校閲者の共通点

業務については、記者の仕事と通じているなあと思うことがあります。

例えば、"知らない人"の視点を持つ大切さです。記者になってすぐの原稿で、専門家に聞いた説明を専門用語のまま書いてデスクに指摘されたことがありました。取材をしていると、ある一定の知識がついて自分だけ理解したつもりで原稿を書きがちです。子どもでもお年寄りでも話題を知らない人でも、誰が聞いても理解できるような伝わりやすい言葉に落とし込むことが必要です。

校閲にも同じことが言えると思います。スポーツに明るい校閲者が大衆に向けたスポーツ原稿を校閲するよりも、スポーツに疎いと自覚している校閲者のほうが指摘を拾えることがあります。知識に頼って調べることを疎かにすると、覚えた時点と意味が変わっていたり、単純な誤字脱字に気づかなかったり、思いもよらないミスに繋がります。知識があるに越したことはありませんが、慢心することなく、時間が許す限り一つひとつ繰り返し、地道に、丁寧に、調べていくしかありません。記者と同様、読む人を想像することが大事だと感じます。

辞書

コミュニケーション力が必須、という点も共通点かと思います。校閲者はひたすら文字とにらめっこしているイメージがありましたが、指摘箇所があっても勝手に直すことはできないので、執筆者や編集者に必ず確認をとります。その際の「指摘の伝え方」も研修に組み込まれているのが興味深かったです。誤読の可能性や不安な要素はないかなど、さまざまな「可能性」を常に考えながら、判断に必要なソースを提示します。都度、確認・検討してもらえるように「伝える」ことが大切です。

校閲の仕事って

校閲者になって3年目に入りましたが、校閲システムの使い方や作業手順に慣れることはあっても、校閲自体に慣れることはありません。

校閲は必ずしも正誤の判断がつくものばかりではなく、同僚の指摘の視点に感心して真似をしてみたり、毎日新聞さんが運営する毎日ことばなど他社の校閲者の見解から学んだりすることも多いです。自分の無知を痛感し、何か落としているところがないか疑心暗鬼になったり肝を冷やしたりしながら、それでも言葉に携わる仕事は面白いです。

周りの校閲者を見て思うことは、指摘に問題意識や物の見方が投影されていることです。記者の経験に限らず、いろいろな仕事や趣味、日常の経験が役に立つ仕事だと思います。些細な表現にも敏感なので、周囲の変化によく気づく心根の優しい人が多い職場だなとも忖度なしに思います。

まだまだ、足を踏み入れたばかりの未熟者ですが、「何でも屋」として経験したいろいろが役に立つことを信じて、読む人を想像しながら目の前の言葉に向き合っていきたいです。

プロフィール

-澤田恵理(さわだ・えり)-
2019年5月入社。LINE株式会社編集局校閲チーム所属。
玩具メーカー営業、新聞社でのイベント情報欄担当を経たのち、テレビ局で報道記者を経験。実家は元魚屋。小田原で獲れるアジとクロシビカマス(通称:スミヤキ)が好き。


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