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束の間の癒しを求めて


今日も疲れた。

夕陽を浴びながら電車に揺られること数分。

今日は家にまっすぐに帰るわけではなく、とある場所へと向かう。


駅から歩いて少し、オレンジの光で照らされた、小さな木製の看板を見つけた。

ここだ。

ゆっくりとドアを開けると、受付には子綺麗な女性。

「お待ちしておりました。」

中に入り、ソファへ案内される。

「ご記入をお願いいたします。」


受付票に、気になる部位として首、肩、腕を記入。

デスクワーク続きで、運動不足な旨も、しっかりと。

そう、今日は束の間の癒しを求め、マッサージに来たのだ。


疲れた身体と心に癒しを求め、月に一度かそのぐらいのペースでマッサージを受けに行く。

ただ、今まで、再来したお店は、残念ながらない。

本当に効き目のあるマッサージはあるのだろうか、毎月通っておきながら、日々疑問に思っている。


用紙への記入が終わると、小部屋に案内される。

小部屋には、筋肉質で清潔感のある、少し年上と思われる男性。

顔が整って見えるのは、マスクをしているせいだろうか。

診察台としての長椅子に座るように促され、そこで先ほど記入した紙を元に質問が始まる。


デスクワークはどのぐらいの時間ですか?

肩こりはいつごろからですか?

運動はしていますか?

食事はされましたか?

家族構成は?ご結婚されてますか?

お付き合いしてる人はいますか?



一通り会話が終わり、触診に入る。

背骨が曲がってますね、骨盤も左右の高さが違います。


うつ伏せになり、足首から施術が始まってゆく。

足首をぐるぐると回し、一通り足、そして腰を指圧していく。

仰向けになると、内臓の触診。

お腹の上の方から押してゆき、下腹部は差し掛かる。

そこは子宮の位置。

念入りに指で押しながら、顔がくぐもる。

「子宮の辺りがだいぶ張ってますね。検査したことありますか?」

「少しプライベートな話かも知れませんが、エッチの時、出血したりしませんか?」

そういえば、最近はずっとそんな行為をしていなあ。

夫との関係は、表面上良好であるが、それは老夫婦のような落ち着きを纏っており、ときめきや恋からはかけ離れたものであった。

これからますます、そんな行為は少なくなっていくのだろうか。

そんな状況に、少しだけ寂しさを感じた。


その後も質問や施術を繰り返し、束の間の癒しの時間はあっという間に過ぎ去った。

「それでは以上です。次回の予約はどうされますか?」

考えることなく、その場で次回の予約をいれていた。


「それでは、またお待ちしていますね。」

マスクの男性に見送られながら、紺色へと表情を変えた空のもと、現実へと帰ってゆく。

次回の施術を待ち遠しく思いながら。




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