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HIPHOP思考 ①digる

こんにちは、「道具へのカンシャ」が芽生える体験を届けるライフスタイルブランドlilo(リロ)のデザインを担当している古谷です。

私が心から愛しているHIPHOPには独特の思考やカルチャーが存在し、それらは日常生活やビジネスのシーンにおいて非常に大きなヒントを与えてくれます。これを”HIPHOP思考” と題し、様々な切り口からシリーズで取り上げます。

記念すべき第一回目は”digる”カルチャーについて考察していきます。

その前に、HIPHOPってなんだ?

本題に入る前に、HIPHOPカルチャーとはどのようなものなのか、その起源をさらっとなぞっていきます。1970年台初頭。アメリカはニューヨークの黒人系貧困層が多く住む街サウス・ブロンクス地区。
当時大流行していたディスコに遊びに行けない黒人の若者たちが、街の一角に家からレコードプレーヤーを持ち出し、街灯のコンセントに差し込んで音楽を流しながらダンスやグラフィティーアート(建物や電車へ絵を描く行為)や即興でラップを披露したりして楽しんでいました。
後で詳しく掘り下げていくのですが、ここでカリスマDJと呼ばれる人たちが出現し、このカルチャーは独自の音楽性を獲得しそのムーブメントが大きくなっていきます。

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引用:https://jhiphop-search.com/post-304/

1970年代のブロンクスでの一枚。DJがレコードを流し楽しんでいます。

時は流れ1979年。ディスコブームが陰りを見せ、新たなヒット音楽を探していた音楽業界の人々はHIPHOPに目をつけ、HIPHOP音楽が初めてレコードデビューを飾ります。

その曲がこちら。

シュガーヒルギャング-ラッパーズ・ディライト

この曲が当時の全米チャートの36位、イギリスで3位、カナダでなんと1位を獲得します。HIPHOP音楽が世間に鮮烈なデビューを飾った瞬間でした。

今回のHIPHOPってなんだ?はHIPHOPの起源についてみていきました(勝手にシリーズ化するつもりです)。

そう、HIPHOPはレゲエやカントリーなどと比べて、初めてレコードで流通が始まってからまだ40年あまりと非常に若いカルチャーなのが特徴です。
現代では、その独特の楽曲制作過程においてストリーミングでの音楽視聴との相性が良く、2017年にはロックを抜いて最も聞かれている音楽ジャンルの栄冠を手にしました。この辺りも非常に面白いので今後触れていきます。

HIPHOP黎明期のDJたち。

さて、ざっくりとHIPHOPの起源について触れましたが、HIPHOPカルチャーをより独特の音楽形態にした黎明期のDJたちの存在に触れていきましょう。
先に、家からターンテーブルを持ち出し、街灯のコンセントに繋いで音楽を流していたと書いたように、根本は貧しく、遊びにいくことのできないディスコへの憧れが根底にありました。なので、基本はディスコミュージックがプレイされていたのですが、ここに歴史を動かす変わり者が現れます。

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引用:http://www.electrospectivemusic.com/dj-kool-herc-born-1955/

DJクール・ハークです。彼は流行のディスコミュージックをかけず、古いファンクやソウルをかけ、聴衆を盛り上げていました。ここで、彼は大きな気づきを得ます。
ファンクやソウルなどの古い黒人音楽には必ずブレイクという間奏が存在しており、ここが一番盛り上がることを発見しました。そして、ターンテーブルを2つ持ち出し同じ曲をかけ、その間奏をなるべく長く保とうとしました。これこそが、現代につながるDJの基本スタイルの誕生の瞬間です。
ちなみに、HIPHOP好きな人のことをB-BOYと言いますが、このBはブレイク(ビーツ)の頭文字をとっています。

これにより、人の声が入っていない間奏が音楽のメインとなり、そこに自由に言葉を乗せるラップや即興でダンスをするブレイクダンスが誕生します。

その後彼に影響を受けた若いDJたちがこぞって独自のスタイルを追求していきます。
一人の変わり者の功績で、HIPHOPカルチャーは猛スピードで発展を遂げたのでした。

DJ達から始まった”digる”

ここまで、HIPHOPの起源とレジェンドDJクール・ハークの功績からHIPHOPの独特なカルチャーについて確認してきました。
今でこそHIPHOP=ラッパーといったイメージがありますが、HIPHOP黎明期の花形はDJたちで、独自のスタイルを追求し毎晩のように集まった人々を盛り上げていたのでした。

彼らの作り出すブレイクビーツからはラップやブレイクダンスなどが生まれ、そのカルチャーが爆発的なスピードで進化を遂げました。

そんなHIPHOPカルチャーですが、HIPHOP5大要素と呼ばれるものが存在します。

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引用:https://followrap.com/poczytaj/publicystyka/5-element-hip-hopu-wiedza/

①DJ②MC(ラップ)③ブレイクダンス④グラフィティそして⑤知識です。
①から④に関しては起源の部分で触れてきましたが、5つ目の要素である知識こそHIPHOPの面白いところで、今回取り上げる”digる”というカルチャーと関係が深いのものです。

DJたちは独自のスタイルを追求すべく、足繁くレコード屋へ通っていました。そこで人気の曲をいち早くゲットするのではなく、まだ誰も聞いたことのない音楽を”掘って”いったのです。これがdigるの語源となった行為です。

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引用:https://www.amazon.co.jp/Endtroducing-DJ-Shadow/dp/B01IQK2FR6

1996年にリリースされたDJシャドウの超名盤「endtroducing」のジャケットです。digをしている様子がジャケットに採用されています。HIPHOP好きなら手元に置いておきたい一枚です。

ディスコブームのメインストリームのように誰もが知っているヒット曲をかけるのではなく、レコードの山の中から隠れた曲を探し、それを独自の解釈で披露する。これこそがHIPHOPの独自性獲得のキーであるdigるカルチャーなのです。それを続けていくと、DJ独自の知識形態を形成し、それがDJのパーソナリティーとなり多くの人を惹きつける魅力となっていきます。

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引用:https://www.sonymusic.co.jp/artist/DjCam/discography/ESCA-8143

私の好きなDJの一人にDJ CAMという人がいます。彼はフュージョンジャズへの深い造詣があり、HIPHOPとうまくmixさせた耳障りの良いトラックが特徴です。ブードゥー教にインスパイアされたLoa Projectというアルバムをリリースするなど音楽のみならず様々なジャンルをdigり倒しています。とても格好いいのでぜひチェックしてみてください。

digること=全体性を知覚すること。

ここまで、HIPHOPの起源からDJ達の存在。そして、HIPHOPの独自性獲得のキーとなるdigるカルチャーについて紹介しました。
ここからはそんなdigることが何故、日常生活やビジネスシーンにおいて重要なヒントとなってくれるのか。私の考えを書いていきます。

DJ達は日夜様々な音楽を掘り探っていきましたが、それは彼らの音楽の全体性を知覚する旅でもあったわけです。

彼らはHIPHOPのカルチャーに浸かりながらもHIPHOPのルーツであるファンクやジャズ、ブルースなどを掘り進めていきました。面白いことに、HIPHOPが好きであればあるほどHIPHOP以外の音楽への造詣も深くなっていくのです。
非常に長くなってしまうのでざっくりと紹介しますが、HIPHOPのルーツは黒人の労働者階級の音楽だったブルースです。そして、よく比較対象とされるロック音楽もまた、ブルースから発出しています。

現代に置き換えて考えてみると、ONE OK ROCKとラッパーZeebraのやっている音楽は全く違いますが、ルーツで繋がっているということです。
この、全体性の知覚こそがHIPHOP思考が教えてくれる大事なことだと私は考えます。

HIPHOPとロックのルーツでのつながりを知ると、音楽としての全体性を認識できます。つながりを知る前だとその二つは分断された状態なので、HIPHOPなんて不良の音楽じゃないか。とかロックなんてやかましい音楽だ。などと自分の好きなジャンルに原理主義的になってしまいます。

しかし、digをすることにより互いのつながりを知り分断がなくなる。そうすることで今までよりも非常に広い視点で音楽を捉えることができます。
その結果、リスナーとしては原理主義的な認知では気づき得なかったアーティストのより細やかな表現に気づけたり、音楽制作の場面においては遠い領域の音楽同士をルーツでのつながりを意識した上で掛け合わせることができるため、非常に深みを持った楽曲を作ることができます。

この思考をビジネスのシーンに置き換えて考えてみます。

例えば、インフルエンサーマーケティングにおいて現在はテレビタレントなどのトップインフルエンサーではなくマイクロインフルエンサー(フォロワーが比較的少なく、距離感の近いインフルエンサー)がトレンドとなっていますが、原理主義的に考えてしまうと、トップインフルエンサーに依頼するなんて古臭い!マイクロインフルエンサーに依頼しよう!となりその施策決定の要因の深度が薄い状態で走り出してしまいます。

しかし、インフルエンサーマーケティングをdigっていくと2000年代前半に活躍していたアルファブロガーの存在が見えてきます。もっと掘り進むとテレビCMやチラシ広告が全てだったインターネット黎明期のテレビタレント達の存在に行き着きます。
ここまで掘り進めてからトップ・マイクロインフルエンサーの違いを見返してみると、ルーツでつながっていて、全体性を知覚できます。
そうなると、今まで古臭いと突き放していたトップインフルエンサーへの深い理解をすることができ、両者のいいところを高次元で実現する新しいインフルエンサーマーケティング施策を 作ることができるというイメージです。
これは、戦略を打つ側の例でしたが、受け取る側の立場に立った時も、よくdigっていると細かい意図に気づくことができ、他社の戦略の意図を理解することにもつながります。

まとめ

HIPHOP思考、1回目は”digる”を取り上げました。
不良や攻撃的とイメージづけられやすいHIPHOPですが、中を覗くとそのカルチャーが大好きなオタク気質な人々の集まりであることに気づきます。そして、深い部分までdigをしている人ほど、他のカルチャーを否定せず受け入れ理解しようとする寛容さを持ち合わせています。
ここには世間で持たれているような攻撃的な面はどこにも存在せず、貪欲な知識欲とそれを披露し共有しあう柔らかい世界が広がっています。
このnoteを通じて一人でも多くの方にHIPHOPの魅力をお伝えし、その独特のカルチャーから有益な情報を提供できればと願っています。

HIPHOP思考、2回目はHIPHOP独特の作曲手法である”サンプリング”を取り上げ、世の中に新たなものを生み出すためのヒントを探っていきます。


そんな私がデザインを担当しているliloは滋賀県信楽町で生まれた道具ブランドです。日本中にある素晴らしい手仕事をdigり、私たちの感覚とmixし、日常生活で生き生きと使われる道具を生み出します。そしてその道具を通じて人間と道具の正しい関係を提案し、真にサステナブルな世界の実現を目指します。

下記のリンクから、私達のフィロソフィーをもう少し詳しく知っていただけるととても嬉しいです。


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