1枚の年賀状に、思いを託した
10月だ。早い人はもう、年賀状のデザインを考えているんじゃないだろうか。私もそのひとり。
今は印刷に頼りきっているが、学生の頃はすべて手作りしていた。中でも一番記憶に残っているものがある。高校3年生の時に作った「しかけ付き」の年賀状だ。
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当時の私はあまり学校に行っていなかった。受験の年、みんな熱心に勉強をしていた。その雰囲気にいたたまれなくなったのだ。
必死に勉強して入った高校は進学校だった。高校でも頑張るぞ!と意気込んでいたのだが、授業内容があまりに広すぎたため、段々ついていけなくなっていた。気づけば私は落ちこぼれになっていた。
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同じクラスにNちゃんとTちゃんいう友人がいた。お弁当はいつも、隣のクラスの友人も誘って、誰もいない教室に移動して食べていた。
文化祭も終わり、本格的に受験シーズンに入ったある日のこと。いつものように教室を出て隣のクラスに友人を迎えに行った。移動中はいつもNちゃんとおしゃべりしていたので、今日もそうかな、と思っていたのだが、その日は違った。
Nちゃんは別の友人のもとへさっと駆け寄り、ふたりで歩いて行ってしまったのだ。「まぁ、そんな日もあるかな」と思ってその時はあまり気にしないでいた。
しかし、その日だけではなかった。別の日も、また別の日も。心がざわざわしてきた。思い切ってNちゃんに話しかけてみた。
「ねぇねぇ」
こちらに顔を向けてはくれたが、つーんとした態度だった。そんなNちゃんに、私はそれ以上なにも言えなかった。
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「Nちゃん、なんか怒ってる?私なにかしたのかな?」
Tちゃんに相談してみたが「わかんない。私と喋るときはいつも通りだけどね」と言われた。
母にも相談してみた。
「リコがあんまり学校行かないからじゃない?」
どういう意味?
「Nちゃんも勉強頑張ってるんでしょ、でもリコは学校行かずに逃げてるから、それに腹をたてているんじゃない?」
母の言っていることは当たっているだろうと思った。Nちゃんは皆勤賞を狙うくらいまじめな子だったから。休みがちな私のことが許せなかったのだろう。
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10月に入り、私は年賀状の構想を練り始めた。相変わらず、私は学校を休みがちで、Nちゃんはそっけないままだった。
年賀状はいつも「デザインはすべて同じ。メッセージはそれぞれ個別で。」というスタイルで作っていた。今年はNちゃんになんと書けばいいのか、言葉が浮かばなかった。
メッセージをデザインの中に埋めるのはどうだろう。受験生だし、合格祈願になるようなものがいい。なにかいい言葉はないだろうか。
私の通っていた高校は、学校名に”桜”がついていることもあり、敷地内にはたくさんの桜が植わっていた。そうだ、サクラだ。サクラがいい。
「サクラ咲け」なんていいんじゃないか?
メッセージは決まった。次はそれをどう見せるかだ。ただ絵を描くだけじゃつまらない。仕掛けのあるものはどうだろうか。
こどもの頃に読んでいたクリスマスの本、横に引っ張ると絵が変わるものがあった。あれ、作れないかな。
棚から本を取り出した。手の平に乗るくらいの小さい本だ。サンタさんが袋をぶら下げてニッコリ笑っている。
ページをめくる。すべてのページに同じ仕掛けがあった。横に引っ張ると、上の絵がスライドして下の絵が見える。どんな構造になっているのだろう。可哀そうだが背に腹は代えられない。本を切り開いてみた。
作りはわかったので、さっそく試作してみた。まずは普通の紙で。1枚目には蝶を描き、「謹賀新年」と書いた。スライドさせたときに見える2枚目には桜を描き、「サクラ咲け」と書いた。
紙を切り貼りして動かしてみる。動くには動くが、強度が足りない。上は画用紙にしよう。下の絵は普通の紙でもいいか。
画用紙を買ってきて、再度作ってみた。うん、これなら大丈夫そうだ。引っ張りやすいし、強度もばっちり。これでいこう。
印刷した下絵に色鉛筆で色を塗った。それを画用紙にペタペタ貼り、カッターで切った。スライドしたときに絵がきれいに出るように調整して貼りつけた。手についたボンドを指でこすり取っては、次の年賀状に手をつけた。
*
正月休みが明け、学校が始まった。久しぶりに会うクラスメイト。その中に、Nちゃんもいた。私に気づき、近づいてきた。
「ね、あれ、どうやって作ったん?年賀状。」
「え?」
「びっくりしたよ。引っ張ったら絵が変わるんやもん。」
興奮したようにNちゃんが話している。
「仕掛け絵本みながら作ってん。」
「すごいじ。絵もキレイやったし、めっちゃ良かったよ。」
Tちゃんもやってきて、話に加わる。「仲直りできてよかったね」目でそう言っているのがわかった。
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Nちゃんは無事に、希望する大学への進学を決めた。わたしもどうにか、大学への切符を手にいれた。
あのときなぜ怒っていたのかは、結局聞けなかった。いまとなってはそれでよかったと思っている。
試しに作ってみたスライドの仕掛け、とっておけばよかったなぁ。
今、「もう一度作れ」と言われても絶対作れないと思うから。
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