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「誰のための」イルカウォッチング。

はじめに

2022年1月30日(日)
JWDC 日本クジラ・イルカウォッチング協議会
第3回オンラインシンポジウムに参加したのでその備忘録。

4年前の2018年に東京都内で現地開催されたシンポジウムにも参加したので、今回で2回目。今回も御蔵島の小木さんからお声かけいただき運営の手伝いとして参加させていただいた。

シンポのプログラムとしては、午前中にJWDCに登録している7地域に加えて未登録の7地域が、それぞれの地域の特徴や最新のイルカ・クジラウォッチング(以降、まとめてWWと略記)状況を発表。午後からは水口博也氏による基調講演と、登録7地域によるパネルディスカッション、その後任意の参加者で懇親会。

  • JWDC登録地域

    • 北海道(室蘭、羅臼)

    • 能登島

    • 御蔵島

    • 小笠原諸島

    • 黒潮町(高知県)

    • 奄美大島

    • 座間味島

  • 登録外からの発表地域

    • 網走

    • 銚子

    • 利島

    • 八丈島

    • 宇佐(高知県)

    • 錦江湾(鹿児島県)

    • 沖縄本島中南部

各WW地域からの報告

どの地域も短い時間ながらギュッと内容が凝縮されていてとても面白かったし、しっかり準備されていたんだなというのが伝わってきて良かった。
残念ながらまだ半分以上訪れたことがない地域なので、より一層興味が湧いてきました。全国で色んな野生の海棲哺乳類が観察できる日本、やっぱ素敵だな〜。

やはり羅臼には死ぬまでに行っておきたい。未だに北海道に行ったことがないの自分でもびっくり。そして小笠原にも必ずもう一度行こうと感じたのでした。

少し残念だったのは視聴者からの質問が想定よりだいぶ少なかったこと。
とはいえリレー形式でタッタカ地域が変わり、時間が短いのでどうしても表面的なPRが多かったため、質問しやすい環境じゃなかったのかもなとも思う。
「一人質問し出したら後から続くパターン」起こるか!?と思って自分で口火切ってみたけど全く変わらなかった笑笑

水口氏の基調講演の骨子

世界では、ホエールウォッチングの先進国で1970年頃からウォッチングが盛んになりはじめた頃に、船が接近したときにクジラがどう行動するか、船の距離と水中の騒音はどうか等が調べられ、さらに客の満足度も勘案されて、現在世界の多くの地域で共有されているような接近距離を100ヤード(90m)と考えることや接近方法などが、ひとつの推奨ルールとして用いられている。

これは、アメリカやカナダなどでは、50-60年にわたって適用され、ビジネスとしてのウォッチングも安定的に行われるとともに、対象となってきた各種のクジラが個体数を増やしてきたことを考えれば、妥当なものと考えられる。

一方,日本を含むホエールウォッチングの新興国,新興地ではしっかりしたルールがなかったり、保護よりも観光産業に重点をおいたルールによって、スイミングを含めてクジラにインパクトを与えるものが多い。(小笠原だけは、ホエールウォッチングがはじまった当初、アメリカやカナダの研究者を招聘して調査しルールづくりがされた。これは世界のなかでも肩を並べることができるものだが、あくまで自主ルールなので守られていない例もあると聞く。)

こうしたウォッチング、スイミングがもたらす影響については、世界の各地で調べられているが、日本ではそうした研究がほとんどなく、紹介もされていないことが、日本を“ガラパゴス”状態にしている。

たとえばスリランカでは、頻発する”搾取的な“ホエールウォッチング、スイミングがクジラに圧力をかけていて、クジラがより沖合に移動することで船舶との衝突事故や、それにともなうストランディングが急激にふえている。

IWCの科学委員会でもホエールスイムには相当に懸念を表し、とくにスリランカの状況はもっと改善されるべきと提案。ただし、こうした懸念や提案は、研究があるからできることで、残念ながら日本ではそうした研究はほとんどない。

またドルフィンスイムやホエールスイムで、イルカやクジラが人に近寄ってくる、一見“親和的”に見える場面も少なくないが、ニュージーランドのある場所の研究では、親イルカが人と過ごすことが多くなったために、子どもの世話が手薄になり、子イルカの生育率が低下、個体数が激減した例があり、そこでのスイムが禁止になっている。

クジラスイムでも、繁殖域で船や人が接近したときにシンガーが歌うのをやめたり、授乳が中断されたり、休息時間が短くなる例が頻発している。したがって、一見“親和的”に見える行動があったとしても、彼らの生態に与える長期的な影響は常に懸念される。

長期的な影響がなかったことが確かめられているウォッチングもある。ひとつは、アメリカ東海岸、ニューイングランド地方(マサチューセッツ州やメイン州)でのホエールウォッチングで、世界でももっとも歴史をもち、毎年大勢の観光客が訪れる。ここは、上記のルールがしっかり守られていることと同時に、クジラにとって採餌海域にあたることも大きい。一方、繁殖海域でのウォッチングはより慎重になるべき。

とくにホエールスイムの問題は、温かい繁殖海域で行われることが多く、その時期の母親は採餌することなく授乳をつづけなければならない。そのために最大限エネルギーを節約したい状況にあるが、船や人の接近によって休息が中断されたり、ふつうよりスピードアップしたり、必要以上に潜ったりする余分なエネルギー消費は相当に懸念されている。

懸念されるひとつの例として、(世界のザトウクジラは幸い継続的に個体数を増やしているが)長くスイムが行われているトンガを繁殖期に含む系群の回復率が芳しくないーーこれはさらに注意をもって見守る必要がある。

こうした科学的な根拠をふまえて、世界のホエールウォッチング先進国はスイムは基本的に禁止しており、世界のさまざまな機関、研究者も反対の立場をとっている。そのなかで、科学的根拠なしに「影響がない」と唱えつづけることは不誠実といえる。

こうしたときの反論は「近くでクジラを見たときに得た感動が自然への畏怖や敬意を抱くうえで貢献する」というもの。では、クジラを間近で見たときに抱いた思い、水中で近くで見たときの思い(それは楽しかったには違いない)が、自己満足を超えて、環境なり対象となる動物の状況をどうプラスの方向に働かせるうえで役だったか。

もし「ほんとうにクジラやイルカを愛する」というのであれば、彼らに影響を与える可能性のある行為を、ほかの誰よりも先んじて避けたいと思いませんか、ということ。

多くの人がご存知のように、ハワイではハシナガイルカのスイムが規制され、カナダ、チャーチルでは以前は可能であったベルーガとのスイムは禁止になっている。スイミングがイルカの生態に大きな影響を与えたことは、これまでも多くの論文や報告が伝えていた。

自然や動物に対する倫理感は、科学が明らかにするものとともに変わっていくもので、世界では「ドルフィンスイムをまだやっているのか」という時代がそこまで来ている。あらゆる意味で、野生動物と人間との関わりは、転換点をむかえていることを認識すべき。

いま気候変動やプラスチックゴミの問題で、クジラやイルカの世界に、急にどんな変化が起こるかもしれない危惧がある。そのとき、環境モニター機能としてのホエールウォッチング、ドルフィンウォッチングが果たす役割は大きい。そのためにも穏やかなウォッチングが求められるが、現在世界で推奨されている100ヤードルールでの観察なら、この役割は十分に果たしうる。

海外を含む旅行についての環境的な負荷も深く議論したいところだが、時間があまりなかった。

せっかくホエールウォッチングができる場所であるなら、「影響」だけでなくクジラのさまざまな生態や社会についても深く研究されるべきで、ウォッチング料や乗船料の一部、あるいは上積分を研究への助成にできないか。

以上

高橋の個人的な感想

総じて、重要な視点は「誰のための」WWなのか。これに尽きるし、ここを徹底することでひとつの方向性が見えてくるのではないかなと思った。「人のため」にWWをしてしまうから過激・過剰になる。「イルカ・クジラのため」であることを大前提にしたら、自ずとルールや環境が整っていくのではないだろうか。

問題なのは人間のビジネスや私利私欲のために重心を置きすぎているWWを取り巻く現状ではないかと思う。とはいえ誰もがイルクジファーストになるとは現実的に考えにくい。どうしても人間の活動な訳だから。じゃあどうするか。

自分が思うこれからのWW

当然答えは出ていないし完璧な正解がないタイプの話題だと思っている。これからもいろんな情報に触れながら考え続けるだろう。ただ全く禁止にしなくとも上手な距離感を保ちながらの野生動物の観察は可能だろうし、調査・研究のためには必要不可欠な行為だと思う。
ひとつ、生き物や環境の保全に関心がない層を無意識的に巻き込む方法があるとすれば、ツアー料金の一部を調査・研究・保全活動に利用させてもらうことであり、そのロールモデルができている御蔵島はやはりすごいなと感じた。

出典:御蔵島イルカ調査HPより(画像クリックで別ページ飛べます)


動物が写った写真が持つマイナス効果について

講演の中で、「それは周囲の人間にもっと迫力のある写真を撮ろうと思わせてしまうことだ」とおっしゃっていた。これも自分にとってはかなり印象的だった。恐らく、自分もそれに当てはまったから刺さったんだろうなと思う。少なくとも一度はそういう感情になった心当たりがある。そしてそういった写真を誰でも気軽に挙げられ、拡散できる場所が個人のSNS。特に昨今のInstagramは自己顕示欲の塊というか、他人への自慢をまとめる場所として使われている節があると個人的には考えている。それを理解した上で自分も利用しているし。

その写真の影響力にSNSの手軽さと拡散力が合わさることでより過激になっていくのはではないかなと思った。一旦拡散されると歯止めが効かないという話は、他海域の関係者も懇親会で話していた。水口さんは、そんな巨大すぎる相手SNSに対して、利用の仕方や方向性を変えるような決定打を放てるとは思ってないけれども、最近アップする画像はなるべく上述したような他人を刺激してしまう力を与えないもの(近接したド迫力写真ではなく、遠景で周囲の風景と溶け込んだようなものなど)にするよう心がけているとおっしゃっていた。自分もできるだけそうしたいなと思う。

終わりに

世界中1隻でも多くのWW船が「イルカ・クジラ」のために事業を行なってもらえるように、皆様も良いアイデアがあれば教えてください。
そして本当に野生鯨類のことを想うのであれば取るべき行動は何か、あなたにできることは何か、それを考え、行動に移すキッカケになれば幸いです。

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