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何故ワクチンには皮内投与デバイスの開発が必要なのか?

ワクチンの注射方法は大きく分けて3種類。①筋肉注射、②皮下注射、③皮内注射

前回の記事では、弊社にはパンデミック禍とともに開発を進めてきたウイルスとの闘いの歴史があること、そしてだからこそ、パンデミック禍で生まれた世界初「蚊の針」を世界のパンデミックを撲滅する熱意に燃えていることを語らせていただきました。

現在、弊社は「蚊の針」成形技術を応用して、次世代型ワクチン投与デバイスの開発を進めています。

しかし次世代型のワクチン投与デバイスといっても、どのようなメカニズムを以て次世代型と銘打っているのでしょうか。

結論から申しますと、弊社は簡便・低コスト・自己投与可能なワクチン皮内投与デバイスの開発を目指しています。

では、弊社が推している皮内投与とは一体何者なのでしょうか。

これにお答えするためには、まずワクチンの注射方法が大きく分けて「筋肉注射」、「皮下注射」、「皮内投与」の三種類の注射法に分けられることをご説明しなければなりません。

皮膚の構造と三種類のワクチン注射方法

① 筋肉注射

筋肉注射。皮下深くの筋肉まで注射する方法です。

筋肉注射は、ワクチンの注射として世界で最もスタンダードな注射方法として採用されています。

皮膚へ90°となるよう垂直に針を穿刺し、筋肉深くまでワクチンを投与する方法です。
簡便なため医療従事者に特別な訓練が必要無く、手技の精度によるバラツキが少ないため、疫学的に非常に優れた注射方法です。

デメリットとしては、筋肉組織には多くの毛細血管が走っているためワクチンが血管内に移行して循環しやすく副反応が全身性の症状として現われやすい点、また神経も豊富に走っているため神経への刺激に起因する痛み等が出やすい点が挙げられます。

② 皮下注射

皮下注射。筋肉よりは浅く皮下組織まで注射する方法です。

皮下注射は、筋肉よりは浅い皮下脂肪内に投与する方法です。
日本国内ではワクチンの投与方法として主流ですが、意外なことに諸外国ではほぼ採用されておらず、実はやや特殊な注射方法です。

皮膚へ45°となるように注射針に角度を付けることで皮下組織に投与する方法です。

ワクチンの効果としては筋肉注射の方が高いことが知られているのですが、日本では皮下注射が主流となったのには歴史的な理由があります。

こちらは矢野 晴美 教授(筑波大学医学医療系教授/水戸協同病院グローバルヘルスセンター感染症科)が寄稿されたこちらの記事が詳しいです。

なぜ,日本では,不活化ワクチンは皮下注射が主流となり,筋肉注射されないのか。これについては,日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会が公式文書で説明している8)。日本では,1970年代に解熱薬や抗菌薬が筋肉注射され,大腿四頭筋拘縮症の患者が約3600人報告された9)。それ以降,筋肉注射による医薬品の投与は避けられる傾向となり,ワクチン接種経路にもその影響が及んでいる状況である8)。その後40年以上経過した現在も,新しく承認された数個のワクチンを除き,小児においては皮下注射が主流となっている。

出典:医学会新聞 不活化ワクチンの皮下注射を再考する(矢野晴美, 2016)
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2016/PA03162_02

今後は日本国内でも世界的にスタンダードな筋肉注射に移行していくよう各学会からも提言が出されていること、コロナワクチンで筋肉注射が導入されたことなどから、今後他のワクチンでも動向に注目が集まります。

③ 皮内投与

皮内注射。表皮から1-2 mm程度のごく浅い部分へ注射する職人業です。

最後に皮内投与です。
皮内投与は表皮から1-2 mmまでのごく浅い部分を狙って注射する方法です。

皮膚へ10°ほどとなるよう可能な限り針を傾けて、ほぼ皮膚と水平になるよう注射技術が求められる技です。

その利点は高い免疫獲得能力にあり、筋肉注射や皮下注射などの他の方法と比較して高いワクチンの効果が挙げられます。

皮内とは表皮層と真皮層はそれぞれ合わせても体表からわずか1-2 mm以内のごく浅い範囲のことを指しますが、皮内には極めて多くの免疫細胞が集中していることが知られています。
このため、皮内に投与されたワクチンは他の注射方法と比較して極めて高い免疫獲得効果を示すことが知られています。

その効果はなんとインフルエンザワクチンや狂犬病ワクチン、B型肝炎ワクチン等の幅広いワクチンで皮内注射により筋肉注射の1/5量で同等の効果、帯状疱疹ワクチンなど一部ワクチンに至っては皮内注射により筋肉注射の実に1/27量でも同等の効果が示唆されています。

更に筋肉注射と異なり、血管が筋肉よりも皮内の方が少ないためワクチンが血流に循環しにくく、全身に広がるような副反応が現れにくい点も利点です。

更に更に、筋肉注射ではワクチンが効かなかった体質の方※ でも皮内注射に切り替えると効果が認められることが示唆されるなど、今後も多くの研究が期待される方法です。
(※ HIVに罹患するとB型肝炎ワクチンが効きにくい等。専門的には「ノンレスポンダー群」と呼ばれます)

デメリットはやはりその技術的な難しさであり、多くのメリットが知られる皮内ながら、実施可能な医療従事者が限られる点がボトルネックとなっています。

ライトニックスが目指したい皮内投与デバイスと、実現していきたい未来とは

医療従事者にトレーニングが必要なことから、普及のボトルネックとなっている皮内投与。
それは言を返せばつまり、トレーニングが不要でどなたでも投与可能な皮内注射の方法があれば、世界的な普及は爆発的に広がっていけるということでもあります。

そのため弊社ライトニックスでは、誰でも・何時でも・何処でも皮内投与が可能なデバイスの開発を目指しています。

開発中のワクチン皮内投与デバイス。ライトニックスは「誰でも・何時でも・何処でも皮内投与が可能なデバイス」の開発を目指しています。

これまでの方法では、医療従事者は注射針を皮膚とほぼ水平に傾けて、ごく皮膚のごく浅い部分にのみワクチンが留まるように細心の注意を払って実施してきました。
医療従事者の方にはトレーニングコストや投与ごとの労力的な負担など、負荷の高さが課題です。

これを解決するため、弊社ではハンコのように皮膚に押し付けるだけでワクチンが自動的に皮内のごく浅くに注入される製品の開発を目指しています。

皮内注射では従来の注射法と比較して1/5~1/27量で同等の効果を発揮することから、同じ製造量のワクチンでも皮内投与に切り替えるだけで、単純計算ですが5~27倍もの人口にワクチンを届かせられることも夢ではありません。

世界のワクチン不足を弊社技術で解決できるのです。

皮内注射による最大のメリット。同じ製造量のワクチンでも筋肉注射から皮内注射に切り替えるだけで5~27倍もの人口にワクチンを届けることが可能になることが期待されます。

また、医療機関の体制が十分でなくワクチン接種が行き渡りにくい途上国などで、将来的には医療機関から各家庭へ配布して、各家庭で自己投与が可能な未来の実現をも夢見て、社会実装を目指して尽力してまいりたいと考えています。

ライトニックスは今後も世界のワクチン問題を解決するため、開発を続けて参ります。

(ご質問・ご意見・応援のお便りはこちらまで。)
株式会社ライトニックス
広報担当宛先: 技術企画部 部長 伊純明寛
info@lightnix.jp


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