ショートショート 二時間
「君をこの二時間後、
二時間前に飛ばしてみせるからね」
と黒スーツの人に言われた僕は、
確かにその二時間後、
二時間前に飛ばされた。
時計は二時間前の時間になってるし、
間違いない。
僕は二時間後、二時間前に飛ばされたんだ。
正直なところ、
何を言ってるんだこの黒スーツは、
と怪しく思ってたんだけど、
見事その二時間後、
二時間前に飛ばされてしまったな。
とか思っていると、
「やぁ、言った通りだったろう?」
と白スーツの人に声を掛けられたので、
「ん?」
と思った僕は、
「あなたは誰だ」
と怪しい目で見ていく。
したらば、白スーツの人は、
「あーえっとね」
なんて答えてきて、
「黒スーツのあいつが言ったんだ」
なんて言い、
「二時間後、
二時間前に飛ばされる奴がここに現れるから、お前が会ってくれないか、ってね」
と、その事情を教えてくれた。
なので僕は、
「なぜ黒スーツの人が来ないんです?」
と聞いていく。
そう聞くと白スーツの人は、
「ああ、あいつは今、
お昼ご飯を食べているからね」
と、その理由を教えてくれた。
昼食中なのか。
なら来れないな。
と、ここで僕は
「なぜ僕を二時間後、
二時間前に飛ばしたんでしょうか?」
と聞いていく。
すると、白スーツの人は、
「実は」
なんて言ってきて、
「君が二時間後、
二時間前に飛ばされる前の二時間前、
黒スーツのあいつが言ったんだよ」
と言い、
「誰でもいいから二時間後、
二時間前に飛ばしてみよう、ってさ」
と、その訳を語ってくれた。
その訳に追加で、
「まぁ動機としては」
と語っていく白スーツの人は、
「だって俺は、なぜなら俺は、
二時間後、二時間前に飛ばせる能力を持っているのだから、その力を使いたいじゃないか、
との事さ」
と、その動機も語ってくれた。
僕が二時間後、二時間前に飛ばされる前の
二時間前にそんな話があったんだな。
誰でもいいからって言っていたから、
僕を二時間後、二時間前に飛ばした特別な理由はなかったみたいだ。
黒スーツの人が、ただただその能力を使いたいってだけの話だった。
まぁ、
それはそれでその力を使えてよかったな。
別に悪い力じゃないし、
どんどん使えばいいと思う。
いやでも、
二時間後、二時間前に飛ばせるって事は、
その二時間の間に悪い事をしても、
二時間前に戻っちゃえば、
その悪い事がなかった事になるのかな。
なるよな、多分。
そう考えると、
僕は二時間を無駄に過ごしてしまった。
にわかには信じがたい話だったから、
しょうがないと言えば
しょうがないんだけどね。
ただ、信じていれば僕はその二時間の間に、
いくらか犯行が出来た訳だから、
ちょっぴり残念に思う。
信じていれば、
僕は二時間を良い人で過ごさなくてよかった。
信じていれば、
二時間の間に僕は、
財布を拾ってあげたり、
コンタクトを一緒に探してあげたり、
引ったくり犯を捕まえたり、
はしなかっただろう。
って言うか、
その出来事も二時間前に戻ってきた訳だから、無かった事になったのか。
最悪だよ。
最悪すぎる。
もう一度、それらをする気はないぞ。
特に、
引ったくり犯を捕まえるのはしんどい。
下手したら、
今度は凶器でやられるかも知れないしな。
いやしかし、参ったよ。
良い行いが全て台無しになった……。
そう落ち込んだ僕は、
そう落ち込んだけど、
白スーツの人に、
とりあえず握手を求めていき、
「まぁその……彼によろしく言っといて」
と頼んだ。
そしたら白スーツの人は、
「ああ言っとくよ」
なんて了解し、
「この二時間後にね」
と約束してくれた。
爽やかなウインク付きでね。
って事で、
僕はじゃあ、
さっき過ごした二時間とは違う二時間を過ごそうと思います。
引ったくり犯!
今度は捕まらないように頑張れよ!
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