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【作品#39】『ウォーターゲーム』

こんにちは、三太です。
 
いよいよ学期末が近づいてきました。
3年生の卒業に向けて、各学年取組が進んでいます。
「たかが卒業、されど卒業」ということで人生の節目の一つをお祝いできればと思っている今日この頃です。
 
では、今回は『ウォーターゲーム』を読んでいきます。

初出年は2018年(5月)です。

幻冬舎文庫の『ウォーターゲーム』で読みました。


あらすじ

産業スパイ、AN通信エージェント・鷹野一彦シリーズの三部作目にして完結編。
福岡のダム爆破事件から始まり、日本、そして中央アジアの水道民営化を巡る企業・政界の攻防が描かれるエンタメ小説。
「昨日の敵は今日の友」といった状況で、利権を巡りスパイたちも含めて敵味方が激しく入り乱れます。
また、三部作目ということもあり、シリーズのこれまでの作品に出てきたあの人も再登場して、あの別れからの人生が語れられる場面は感動ものです。

吉田修一さんの公式HPの紹介文も載せておきます。

三部作シリーズ(いちおう)完結編!
ダムが決壊し、濁流が町を飲み込んだ。新聞記者の九条麻衣子は被害を取材するうちに、決壊が大規模な犯罪である可能性に気づき、その夜に町を抜け出した土木作業員の男を探し始める。一方、AN通信の鷹野一彦と部下の田岡は、ダム爆破阻止の依頼を受けて奔走していた。水道事業民営化の利権に群がる代議士や国内外の企業によるテロ計画!? 情報が錯綜するなか、九条が書いたスクープ記事がAN通信の秘密を白日の下に晒すことに……。
産業スパイ“鷹野一彦”シリーズ第3弾!

出てくる映画(ページ数)

①「愛人/ラマン」(pp.199-200) 

韓国の投資会社で働いていると自己紹介したデイビッドに、「私、アジアのことにはあまり興味がないのよ」と彼女は素っ気なかった。
「でも、一つくらいアジアについての良いイメージだってあるでしょ?」とデイビッドは食い下がった。
しばらく考え込んだマッグローがふと思い出したように応えたのが、マルグリット・デュラス原作の映画「愛人/ラマン」だった。
「ティーネイジャーの頃、古い映画館でリバイバル上映されている映画を見たの。ああいうのを心が奪われるっていうのかしら。何をしていても映画のいろんなシーンのことが浮かんで、枕元にはずっとデュラスの原作を置いてたわ」
懐かしそうに話す彼女に、デイビッドは冷えたシャンパンを渡した。
「でも、あの映画はベトナムに暮らす貧しいフランス人の少女が、裕福な華僑の青年に体を売る話じゃないですか。あなたの人生とはほど遠い」
「そうね。いつもメイドたちに囲まれて、リムジンで学校に通ってる女の子には未知の世界だったし、未知の感覚だった」
「でも、惹かれた?」
「ええ、そう」 

②「カサブランカ」(pp.240-241) 

ホテルの中庭では、月一で開催されているらしい「ワインと映画の夕べ」というイベントの真っ最中で、屋外のスクリーンに映し出されている映画の音声がプールサイドにも微かに聞こえてくる。
科白のなかにはなんとなく覚えているものもある。
鷹野はそばにいたボーイに、「今夜は何を上映しているのか?」と尋ねた。
「『カサブランカ』です」
「ハンフリー・ボガートの声か」
「ええ、それで今のがイングリッド・バーグマン」
「こっちで人気があるの?」
「この辺りに滞在している欧米人は、こういう映画が好きですよ」 

③「セブン」(pp.295-296) 

数年前に有名な建築家によって設計されたこの図書館は、宇宙船を模したような外観が評判となり、様々な媒体で紹介され、ヨーロッパの小さな建築賞も受賞している。
もちろん外観も一流なら、所蔵された書物も一流なのだが、なぜかいつも館内はがらんとしており、たまに学生たちの声が聞こえるかと思えば、外の暑さや寒さを避けてきただけで、本など読む者はいない。この図書館に来るたびに、田岡は子供の頃に見た「セブン」という映画を思い出す。映画のなかで、あるベテラン刑事が夜中に大学の図書館へ調べ物に向かう。たしかBGMで、バッハの「G線上のアリア」がかかっている。ベテラン刑事は夜勤の警備員たちに声をかける。
「諸君、なぜだね?この書籍と知識の山に囲まれて、君たちは一晩中ポーカーとは・・・」
この図書館に来るたびに、田岡は映画の中でそう嘆いたベテラン刑事の言葉を思い出す。 

今回は3作ありました。
「セブン」は既出なので、その他の2作を見ていこうと思います。 

 

感想

世界を舞台に鷹野たちが大活躍します!
タイ、カンボジア、香港、ロンドン、他にはアメリカのヨセミテ国立公園・・・。
鷹野たちとともに世界を旅している気分で読めるのが本書の大きな魅力の一つです。
やはりANA機内誌『翼の王国』で長年連載してきた吉田さんならではの作品に仕上がっていると思います。

クライマックスの緊迫感が凄まじく、本当にそこは自分も一気読みで駆け抜けました。
まさにここは痛快の一言です。

本書を読み終えて、これから鷹野たちの活躍が見られなくなる寂しさがあります。
けれども、今後のAN通信の動向や田岡と和光(彫師)の関係、真司やすみれはどうなっていくかなど、気になるところは残っているので、(いちおう)完結してしまいましたが、続編を期待したいです。(公式HPにも「いちおう」とあったので・・・)

うららかや海一面に僕一人

その他

・汗と風の描写は吉田さんの作品に特徴的。
「汗ばんだ頭を下流から上ってきた風が撫でる」(p.29 2行目)
「周囲の原生の椰子林を揺らしている風はお湯のようで、首筋を撫でられるたびに体中から汗が噴き出す」(p.358 2行目)

・風間の家にいるお手伝いさん、富美子は映画「流れる」に出てくるお手伝いさんのイメージに重なる。

以上で、『ウォーターゲーム』の紹介は終わります。
鷹野一彦シリーズ、(いちおう)の完結を見ました。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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