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怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 二話①:のろわれた定期の怪【連作短編】
一話①:傘と女の怪(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
https://note.com/light_clam8523/n/n1a79233d7142
一話⑤:傘と女の怪(前話)
あらすじ:先輩が傘の役割と女の正体を教えてくれます。
https://note.com/light_clam8523/n/nb092bbe36d76
大学構内にある食堂のトイレ。その化粧室の一角で、峰城と友人の桃井は昼食後の身支度を整えていた。午後の授業が始まることもあり、食堂を含め人はまばらだ。
桃井の前にはフルメイクができそうな大きさのポーチがあり、いくつか道具を出すと手際よくメイクを直していた。そのポーチを見ていると、中高生の頃に使っていたマーカーや何色ものペンを収めていた筆箱を思い出す。
「そういえばシロちゃんって、オカ研だったよね」
さきほどまで話していた課題の話に区切りがつくと、桃井は峰城の所属サークルであるオカルト研究会に話題を切り替えた。いつもは峰城が愚痴を聞いてもらっているが、桃井から話題に出るのは珍しい。
「うん。といっても、あまりオカルトには詳しくないんだけどね」
峰城の場合は零れた後ろ髪を拾って結びなおし、色付きリップクリームで唇に色を乗せるだけ。ほとんど桃井の付き添いなので、あとは彼女の化粧直しを眺めていた。サークルの話となると、すかさず食えない先輩の仲條が頭に浮かび白けた顔になる。
「いっつも先輩に振り回されてばっかり」
普段からふくれ面で文句を言っている峰城を知っているからか、桃井は苦笑気味に「大変そうだね」とポーチから櫛を取り出すと前髪を整え始める。
「ところでオカルト研究会が管理してる『秘密の掲示板』があるってホント?」
「……なにそれ」
「あれ、先輩から聞いたことない? 幽霊が出る噂とか変なことがあったときに相談できるって聞いたんだけど」
桃井は峰城の反応に意外そうな表情を浮かべ、前髪を整える手を止めた。彼女が言うには、この大学のオカルト研究会には噂や怪異で困った人が書き込む、秘密の掲示板サイトがあるらしい。
サークルに所属してない彼女がどこから情報を得たのかも気になるが、仲條も後輩のやる気のなさを知ってか、怖い話を聞かせたり、噂の現場に連れまわしたりする以外は詳しい活動を説明したことがないので存在すら初耳だった。
「なにか困ったことでもあったの?」
「んーん、私じゃなくて高校のときの先輩がちょっとね」
仕上げのリップを塗り、顔に角度をつけて光沢を確認すると桃井は満足気にポーチを道具を仕舞う。キツそうなポーチのチャックを見るとメイク道具を使い切るのが先か、ポーチのチャックが壊れるのが先か、といつも思う。
最後まで中身の半分以上を見ることなく役目を終えたポーチを見つめていると、桃井からトイレから出ようと促されて後に続いた。
「もし本当にあるなら先輩に伝えておこうかなってだけ。掲示板サイトを使うには合言葉とサイトのURLが必要だって言うし」
「えっ、サイトのURLも秘密なの?」
静かな食堂の席に戻ると「何て面倒なシステムだろう」と座る途中の腰を一瞬止めて聞き返す。思い出すように目線を上に向けながら、桃井は人差し指を光る唇に寄せた。
「うん。いたずら防止と、書き込まれた内容の信憑性を上げるためだって聞いたよ」
そう理由づけられてしまえば、面倒な仕組みにも頷くしかない。
席近くにある備え付けのウォーターサーバーの水で喉を潤すと、桃井は掲示板の利用方法を教えてくれた。
噂によると掲示板を使いたい場合は、大学構内の林にある寂れた祠に名前を書いた紙を添える。それが掲示板を利用したいという合図になるのだという。
その合図を示すと、三日以内に祠に掲示板のURLと秘密の合言葉が名前の紙と変わって添えられる。手に入れたURLでサイトに接続し、HNを入力するとようやくオカルト研究会の掲示板にたどり着けるらしい。
「このネット社会の時代に紙でやり取りって……面倒だね」
「それくらい困ってる人とか、熱意のある人じゃないとダメってことじゃない?」
紙でのやり取りというと、「雨が降ったらどうするんだろう」とか「三日なんて、待ってる間に怪異に襲われそう」とか考えてしまう。掲示板はデジタルなのに、その前段階でアナログを使うところがなんだかちぐはぐだ。
「というわけでシロちゃん、先輩に聞いてみてよ」
話が急旋回し、峰城が仲條に確認を取る話になっている。そんな面倒なことをせずとも、直接聞きに行くか相談したい相手を連れて、あの小屋を訪れれば良いことなのに。
「えぇ……」
「だって、サークルもそうだけどオカルト研究会がある林ってってちょっと近寄りがたいし……今度ジュース奢るから! ね?」
「ん……わかった」
咄嗟に渋った声を出したが拝むように頼まれると断りにくい。「そのサークルに入っている自分は近寄りがたくないのか」と矛盾を指摘したい気持ちを抑えて、調子のいい桃井の条件に峰城は頷いた。
飲み物だけで手を打つとは我ながら簡単だ。どちらにせよ今日はバイトがない。元々サークルの活動場所である小屋には顔を出すつもりだったので、棚から牡丹餅だと思えば悪くない。
*
その日の授業が終わると、峰城は桃井と別れていつものように掘立て小屋に向かう。明るい時間でも太陽光を塞ぐ木々のせいで林は薄暗く、風で揺れる度に聞こえる音は気分をザワつかせた。
悪い想像をする前に先日の幽霊騒ぎのあと、小屋の鍵を返却しに行ったときのことを思い出して拳を強く握る。
二話②:のろわれた定期の怪 (次話)※準備中
一話はこちらから↓
一話①:傘と女の怪(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
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