うさぎが、トランスフォームして、かめにリベンジした話

「パシッ」

今のうさぎは、勢いよく『うさぎとかめ』を閉じた。

大きく息を吐き、過去の過ちを胸に刻んだその姿は、
近代兵器に身を包み、トランスフォーマーさながらである。

今日こそ雪辱を果たす時折。

誓いを胸に身震いする傍ら、今も変わらぬかめは静かに首を伸ばした。

「ドーン」

号砲とともに、うさぎはバックのジェットを最大噴射させ、豪快にスタートダッシュした。

爆風を受け一回転して起き上がったかめも、ズシリと一歩を踏み出した。

サングラスをかけ、音速でとばすうさぎは、
野花を踏みにじり、木々を倒し、他の生き物達を吹き飛ばして、
一切を顧みず、一直線に突き進んだ。

かめが、焦げ付いた甲羅を小川に浸した時、
既にうさぎはゴールの見える小高い丘の上にいた。

後ろを振り返ることもなく、満足げな表情を浮かべ、一歩を踏み出したその時...。

「パキッ」

足元の小枝が折れた。

思わず両手を地についた瞬間、自らの過ちを悟った。

手の方が足より短い分、少しの下り坂でも一度転べば止まれない。

ましてや体に重機を纏った姿では、なす術もなかった。

一瞬の出来事。

あっという間にうさぎは自由を失い、ゆっくりと、だがだんだんとスピードを上げながら転げ落ちていった。

その先にあるのは真っ暗な、そして底の見えない深い谷であった。

「ドシッ」

舞い上がった砂鉾が静かに風に流された頃、うさぎは意識を取り戻した。

地面の懐かしいぬくもりを感じ、軽くなった身を起こした。

燦々と煌めく太陽が眩しい。

ふと、辺りを見渡すと、どうやら動いているようだ。

節々の痛みをこらえて立ち上がった刹那、息を飲む光景を目の当たりにした。

そこは、とてつもなく大きな、まるで大地のごとく雄大なかめのあたまの上だったのだ...。

「パシッ」

私は静かに絵本を閉じた。

ちっぽけな競争に勝つことにこだわり、多くを犠牲にしてきた過去を振り返った。

未来を考える今を大切にしよう...。

私も、かめの背中に住む生き物の一員なのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?