見出し画像

拝啓 ストックホルムより

 日本在住の知人からちらほらと、こちらの日常を案ずる連絡を戴き始めた。朝方の四時に携帯メッセージで起こされたこともある。時刻はともかく心配して下さる思慮は有難い。

本日付のストックホルム市からの案内

-現段階においては、スウェーデンが武力攻撃を受ける可能性は低い。
-スウェーデンも避難民を多く受け入れる準備をしている。
-個人的な寄付、ボランティア活動は赤十字を通して行える。
-流言飛語が出回っている可能性も多いため、信頼できる情報源を選ぶ。
 -子供、青少年、大人のための各種心のケアラインが開設されている。

 
 「食料に関しては現在のところそれほど心配することはない」、とある政治家が発表されていた。

 「買置きは推奨しますが、買占めは止めましょう」、などの呼びかけがあちらこちらのメディアで見掛けられるようになった。買置きと買占めの違いを、私が理解出来るように説明できる人は私のまわりにはいない。

 ということは、スーパーマーケットは、パンデミック初期の頃のようになっているであろうと案じ、昨晩、様子を伺いに行ってみた。

 「心配することはない」、とはいっても食料に言及されたこと自体が民衆の焦燥意識を煽る。


冷戦時代に国民に配布された小冊子「戦争が始まった場合」、爆風から身を守る方法等。
以前の従軍医師団の設備


 食料品においては、上質の小麦粉、肉と豆の缶詰が品薄であった。しかしパンデミック勃発時期の状態の比ではない(街中の全ての店を廻ったわけではない)。

 人間本来のサバイバル心理であるとは理解出来るものの、品薄の缶詰棚を目の当たりにしてしまうと、失望感は否めない。

   

もと軍事施設であった軍事博物館 
軍事博物館 ストックホルムでも地価が一番高い地区にて広大な土地を構えている


 しかしこの国にも、自らの危険さえも顧みず、第二次世界大戦中に多くの人々を救出した方がいる。

 有名な銀行家にて生まれており、成績優秀、商売にも長けており、その気になれば、何一つ不自由なく暮らせていたであろう青年である。彼の人類、人道に対する功績貢献は世界中で評価されている。彼が救出した人々の数は十万人以上である。

 その青年とは、ラウル・グスタフ・ワレンバーグ氏である。

 同氏は、スウェーデン名義の保護証書というものを作成し、窮地に立たされていた人たちをスウェーデン政府の庇護のもとに置こうと試みた。そしてその試みはかなりの割合で成功した。

 ラウル氏の人となり、功績に関しては、ご興味がおありであれば、Alex Kershaw著の「The Envoy」という書がお薦めである。

 ラウル氏の悲劇的な最期に関してはここでは触れないが、彼が、人々を救出するために、日夜座って働いていたその机と古びたトレンチコートだけはそのまま残っている。

 (おそらく)34年間の、短く大変密度の濃い人生を、平和への情熱のなかで燃焼された方であった。



 同じく功績を残された方の中には日本人外交官の杉原 千畝氏と、ドイツ人ビジネスマンのオスカー・シンドラー氏が有名である。彼らも危険を冒して、大戦中に多くの人々を救出した。

 シンドラー氏の功績に関しては映画「シンドラーのリスト」にも描写されている。この映画を鑑賞したあとも清々しい気分にはならないが、非常に意義深い映画である。 

大昔の爆弾工場

 
 戦争が勃発した時に私が訪れた場所は、過去記事にて言及させていただいた軍事博物館である。ここには銃の試し持ちが出来るコーナーがある。

 そして、このコーナーにはつねに人が並んでいた。

 人は何故、銃を持ちたがるのであろうか。


 
 この博物館にも夥しい数の銃剣、拳銃、ライフル、銃刀が展示されている。富豪の収集のためのものではない。

 この国における国防費は米国、中国、日本の比ではない。しかし、そのような小国でさえこれほどのものを保有している。この国には以前、徴兵制度が存在していた。そのため、現在45歳以上ぐらいの男性は、大抵、銃を扱ったことがある。

 2017年に、2010年から廃止されていた徴兵制が復活した。

 それにより、高校を卒業した生徒たちは男女問わず(試験を通過すれば)徴兵されることになった。しかし、パンデミックの影響でその政策は、現在は一時的に変更されている。

 兵役に関心を持っている生徒であればよいが、そうでない場合は、赤紙を受け取ったような悲観を感じるのではなかろうか。

徴兵された青少年たちの宿舎
以前の調理車

 何故、戦争をしなければならないのか、と答えを見つけようと戦争心理の本を読み漁っていた時期もあったが、読んだあとは決して清々しい心情にはならない。

 同様に、軍事博物館の中を二時間も一人で廻っていたら気分が徐々に消沈して来た。この博物館にはリアルな蝋人形も多く、砲撃の轟音が絶えず館内に響き渡っている。床には髑髏が転がっている展示室もある。

  

ベルリン壁崩壊時の模倣


 偽物だとわかっている砲撃音の中に二時間佇んでいただけで、気分が悪くなるのだ。本物の砲撃の中にて数時間、数日間、数週間、晒されるということが、如何なる心理トラウマを強いられることであるかは想像も付かない。

 パンデミック蔓延時には、この国では、不安な青少年達のために、心の相談室のようなものが開設された。心のケアは非常に重要な要素である。

 戦地においても、軍事支援、物資、食料のみだけではなく、心のケアが受けられることを祈る。

 館の外に出て、街の喧騒を感じた時は安堵した。久々に顔を出した太陽の温かみを享受したかった。

 ストックホルムは非常に美しい街である。
 訪問したことはないが、写真で見る限り、キエフも非常に壮麗な街である、いつか訪問を出来る日までその壮麗さを保持して欲しかった。


ご訪問を頂き有難う御座いました。

海外にお住いの皆さま、パスポート、滞在許可書等の期限にはまだ余裕がありますか?

こちらもようやく明るくなってきました。
このまま世界に春が訪れると良いですね。

免責事項