里帰りで元気になってもらいたい。訪問医と家族の願いを叶えるために民間救急でお墓参りとご自宅へ。
民間救急でいつもお世話になっている訪問医の先生からこんな相談を頂きました。
「お一人利用を考えている方がいます。Wさん(仮称)は現在ご高齢で息子様夫婦とご一緒に暮らしています。平成24年に心原性脳梗塞を発症し、それからは左半身麻痺があります。また、平成31年に転倒し、左大腿骨骨折してからは完全に寝たきりです。この時数ヶ月後に退院となりましたがこの時は重度の貧血があり状態も芳しくなかった為に息子さん夫婦の自宅での看取りをかんがえ連れて帰りました。しかし貧血の症状は改善されないもののそのままの状態で現在を迎えています。ただ、脳梗塞になって左半身麻痺となってからは悲観的な言葉が聞かれております。そこで故郷でもある本人の実家へ里帰り訪問をして元気になってもらおうと計画を立ててみました。」
この里帰り訪問の実現のために当社の民間救急を貸し切りたいとのご要望でした。息子さん夫婦の自宅は佐賀県唐津市浜玉町の自宅で、里帰り先は同じく唐津市七山の山奥の自宅です。当社からはスタッフとリクライニング車椅子を持参します。
この利用者様の為に一番骨を折って下さったのが訪問医の先生で、なんと最初から最後までお付き添い下さいました。
そして在宅へのケアとして看護に当たってる訪問看護ステーションの看護師様(管理者様とスタッフ様の2名)、
このような機会は初めての事だから向学のために参加したいと、ケアマネージャー様までお付き添いを希望して下さいました。
我々がお迎えに上がるとお嫁様がお出迎えになってくれました。少し早めに到着しましたが予定より早くからご挨拶するとバタバタするだろうからと庭で待機させてもらう事にしました。まもなく、ケアマネージャーさん、訪問看護師さんがお越しになり、続くように訪問医の先生がお越し下さいました。訪問医の先生は貫禄がある先生ですがとても繊細で患者さま思いのドクター。先生と一緒に寝室にいる利用者様を訪ねました。
「Wさん、今日はどげんね~(体調はいかがですか~の意です、多分。)やっと○○(集落名)へ行けるね」
Wさん「迷惑ばかけてすんません、申し訳なか~」
昔の人と言ったら語弊がありますがお元気な頃は働き者だったのでしょうね。人に介護をしてもらう事に申し訳ない気持ちでいっぱいの様です。
さあ、行きましょう!ベッドに横付けしたリクライニング車椅子をできるだけフラットな状態にしてからWさまを移乗しました。それから民間救急車両に乗り込み出発です。ここではお嫁様と先生、訪問看護師さんがご同乗されました。ケアマネージャーさん達は別車両にて随行です。天気は良好準備万端で出発です。
道のりは約20k程度の距離です。久しぶりの故郷への道のりを訪問医の先生が、「Wさん、今◇◇付近ば通りよるよ~分かるね~」こまめに案内をして下さいました。山道を登り、この集落でも高山のような雰囲気のポツリポツリ程度に家が見えるその集落に入った頃、
「実家に帰る前にお墓参りをしよう。ここをまっすぐ進んで下さい」と、先生から指示を頂きました。
そこには更に道から台地のような形状の土地に立派に建て替えされたWさまのお墓が建っていました。階段で8段位昇る様な立派なお墓です。
しかしタイミングが悪いことに突然土砂降りの雨が。。。えええっさっきまで晴れていたのに・・・・
すると先生から、「少し待ってみましょうか」とのお言葉。後続車も同じように停車して雨が治まるのを待つことに。
Wさんは、「気の毒かけん、もういいよ。。」と仰るのです。
「もう少し様子を見ましょう」とお声替えをすると、ちょうど雨雲と雨雲の途切れ目なのか、雨がやみました。ここで車両からWさまをお連れしてお墓の前まで来ます。ここでWさんの息子様が待っていて下さいました。
「ここから墓参りばしようか」とのお言葉に、私が
「ご主人、この人数でなら階段を上がっていけますよ。やりましょう。」
「ええっ。大丈夫ですか?」
間髪入れずに私がリードさせて頂きながら8段有る石で出来た階段を上りました。性格がカワイイWさん、「あらあ~申し訳なか~すみませんねえ」とまた申し訳なさそうな様子。
お嫁さん、「わあ~ばあちゃん良かったねえ。これでお墓の前でお参りが出来るよ」そして墓石の前まで車椅子を押していくと・・・
「ううっ ううっ」なにやら感極まって泣きながらお参りされている様子。
それをご覧になった訪問医の先生が、
「Wさんは何を思いながらま参りよるとやろかね~」笑
Wさまの感涙と、嬉しそうなお顔を初めて見せて下さいました。
次に念願の実家訪問です。お墓からメイン通りに戻って500m位の山間にその家は建っていました。空き家とは言え、まだ息子様がご退職後に農業をされたりでたまにお越しの様です。きれいに片付いた旧家の玄関に車両をバックで止めてWさまを玄関までお連れします。ここでもまさかリクライニング車椅子でお座敷まで上がっていけるとは予想外だった様で、お座敷まで階段介助で上がると昔の仏間の周りを見渡しながら、また涙・・・・
そしてサプライズです。元々この山岳地域もご同行下さっている先生が公民館にて巡回診療をなさっています。集落のお友達やご親戚の方が代わる代わるWさまを訪問し、懐かしい話で賑わっていました。
約1時間30分この地で過ごしながら先生や看護師さんが一つの心配事を私に語ってくれました。
「今日はこれで大成功のようで良かったのだけど、家に帰ってからまた落ち込まないか心配ですねえ。」このように話されていました。
私もリピーターとして民間救急をご利用下さった利用者さまで経験したことがありますが、目的を達成した時はとても嬉しい反面、終わった後にその反動で落ち込んでしまうこともある・・・
利用者さまの心境になってこの事を考えると難しい問題です。でも、今回このようにして実現出来たことは心のリハビリの第一歩。また次はお彼岸やお正月などの特別な日などに再訪するという目的を作ってあげることが出来たらいいなあと思いました。
何はともあれ訪問医の先生や訪問看護師、そしてご家族の皆さんと連携して実現出来たこの、「ふる里訪問」。とてもよいお時間を共有することが出来て私まで気分良くなることが出来ました。
福岡県糸島市で全国へ寝たきりの方の搬送を行っている私の民間救急はこちらです。↓
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