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リクライニング車椅子で家族から旅行のプレゼント。家族温泉旅行を民間救急で実現して喜ばれた話。

私が【民間救急】の仕事を通して特に感激した話。

とある病院からリハビリの病院への転院搬送を依頼された私。利用者さまは男性で、どうやら事故等による頸椎損傷(ほぼ全身麻痺状態)の方のようです。酸素も3リッター必要(要するに自分の呼吸だけでは体内に十分な酸素を取り込めない)で、気管切開もあります。痰も絡みやすいので吸引が必要で、搬送元の病院からドクターが同行してくれた搬送でした。

1,Yさまとの『出会い』

搬送元病院から約1時間かけてリハビリの病院へとお連れする事が出来たのですが、息も絶え絶えで寝たきりとなった患者さまを思うとなんともいえない気分でした。

それからのお付き合いとなったYさま。約一年後、自宅から病院へ、検査のために通院したいとの事で再びご依頼を頂きました。

「あれから無事に自宅へ帰ってこれたんだ!」

と、勝手に嬉しくなり私が担当する事に。自宅へお迎えに上がると、ベッドによこたわるYさまのお姿が。

「宜しくお願いします・・。」

かすれてはいるが確かに話が出来る様になってある。気管切開をしていてもコミュニケーションがとれるようになって良かった!そう思いながら、

「Yさん、こちらこそ宜しくお願い致します。」

と、ご挨拶をしました。

病院への移動手段は自分用にカスタマイズされた、リクライニング機能のついた車椅子です。これは便利で、ベッドから移動するときや体制を変えたいときには首の部分や足下がリクライニングして調整出来るのです。ベッドから移動する際もほぼ水平にリクライニングを倒してから移乗します。Yさまを少し抱えると、

「アイタタタ!」

と、悲鳴が。

脊髄損傷の後遺症で体の節々や指先は特に痛みがあるそうで、極力違和感の無い様な方法で移乗しなければお辛いようです。

「Yさん、ごめんなさいね。」

謝りつつ、一緒に駆けつけてくれ、診察に同行してくれる訪問看護師ステーションのMさんから要領を教えてもらい、やり直す事に。

家族さまとMさんと私でうまく移乗する事が出来ました。なんとか移動にも問題なく、無事に通院の往復送迎が終わりました。

奥さまより、「ありがとうございました。また今度お世話になりますね。」

なんとか継続して利用して下さるようで、そのお声が嬉しかったです。

2,初めての外出へ‼【博多座】で北島さぶちゃんを見に行った話。

「ねえ、徳久さん。今度博多座に北島三郎が来るっちゃけど主人が大ファンなんよ。博多座へ連れて行ってもらえる?」

「もちろん行けますよ!是非、行きましょう!」

すぐにご返事をして当日の準備に移りました。今度もいつも自宅でご利用の訪問看護ステーションからYさんお気に入りの看護師さんがお二人で付き添ってくれるそうです。この時既に酸素が不要になってましたが、気管切開してあるので吸引が必要です。吸引器はこちらでも準備できますが、いつも使い慣れているものを自宅から持参されました。

迎えた当日。博多座の方に誘導して頂きながら博多座前に駐車。Yさまを車から降ろすと、そこにはドデカい液晶画面に映し出された、

【北島サブちゃん】の姿が。

Yさんもきついながらもテンションマックスの様子で、とても楽しそうなお顔が目に映りました。エレベーターをあがり、入場口付近では親切なスタッフさんがご案内して下さいました。

今は【車椅子など障害をお持ちの方】にも便利な施設が多く、【博多座】もそうです。車椅子専用の観客席があり、そこから楽しむ事が出来ます!

「じゃあみなさん、楽しんできて下さいね!」

そう言って私の役目はひとまず終了です。あとはコンサートが終わるまで近場にて待機し、連絡を待ちます。

そんな中、待機しながら

「自分もエスコートしながら中に入りたいな~」なんて思ったりもしました。笑

予定時間より少しオーバーして奥さまよりご連絡が。すぐにお迎えにあがると、そこには別人の様に興奮冷めやらぬYさまのお姿が。

「Yさん、生サブちゃんはどうでしたか~?」私が聞くと、

「はああ~もう最高やった!!良かったああぁ」

こんな言葉を漏らしておられました。感動と興奮でリハビリしているよりも元気なお姿に、やはり好きな事が出来るって言う事は何よりのリハビリだし、これからを生きる為の楽しさにも繋がるんだと思いました。感動で涙も出ておいででした。

奥さまも、隣についていた訪問看護ステーションの看護師さんもそのお姿に嬉しそうでした。また来年も行きましょうね!と、皆で話しました。

3,故郷の大分県湯布院へ帰郷する、【想いを叶える旅行】の実現

それからしばらくはYさまと、お目にかかる機会がございませんでした。

が、私は沢山の利用者様との出会いで実現したいと思っていた事を2年がかりでスタート出来る事になりました。

それは何かというと・・・・

・・・

・・・

【寝たきりの方への温泉旅行サービス】 です!

寝たきりなのにそんな事が出来るのか?出来るんです。私が民間救急をご利用頂いたお客様より希望されていたのが【旅行】でした。

詳細はこちらをご覧下さい↓↓

このサービスを始めた頃に、Yさまから搬送のご依頼を承りましたので、搬送を終えた最後に、

「Yさん。こんな企画出来ました。温泉旅行へお連れする事が出来るようになりましたよ!旅行へ行きたくなったら是非私にご相談下さいね!」

このように話をさせて頂いてました。

夏も終わろうとしている頃に、奥さまよりご相談が。

「主人がね~サブちゃんのコンサートが終わって燃え尽きたように元気がなくなったんよ。それでね、お手伝いしてもらいたい事があるんやけどお願い出来るかな?」

「いいですよ、何なりと仰って下さい。」

「主人の実家が湯布院にあるのよ。そこの近くのお寺の境内にある先祖のお墓参りと実家の仏壇に参りたいっていってるのよ。たしか、らかんさんはこの前に旅行に連れて行けるって行ってたよね。一泊二日で出来ますか?」

私の心:「おおー~また旅行へお連れできるチャンスが!!」

もちろん私のご返事は、

「湯布院ですね。じゃあ調べてみますので少しお時間下さいね。是非皆さんで行きましょう!」

それから湯布院をリサーチしました。大分県には、

【別府・大分バリアフリーツアーセンター】なるものがあり、お問い合わせになるとバリアフリー情報を親切に教えてくれます。こちらの代表・若杉様はご自身も車椅子利用者なので自身の目線でバリアフリーを開拓している頼もしい存在です。

そこから旅館情報を頂き、セレクトした旅館が、【梅園】さん。色々とYさんの身体状況をおはなしして宿泊可能か相談し、ご快諾して下さいました。早速奥さまにご報告してみると、

「おとうさん。らかんさんが湯布院に連れて行ってくれるってよ。良かったねぇ。これでお墓参り出来るよう。」

そうお伝えする奥さまも嬉しそうです。もちろんYさんも…と、言いたいところですが日常生活でも体の節々が時折痛むために、顔は痛い顔を向けながら、

「ありがとうございます」と。

私も、

「それじゃあ楽しみにしておいて下さいね。」

と、一旦引き上げて旅程を作成しました。

繰り返す様ですが、

Yさんは脊椎損傷による全身麻痺。喉に気管切開をしており、食事は胃瘻から。時に手足が痛む事多々ありますので、その辺りも考慮し、1日で沢山の事をしようとするのでは無く、

【一日一つの楽しみ実現】

というテーマを勝手に作りました!

1日目は、先祖のお寺の境内にあるお墓参りをする事。

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それを決めて出発です。途中でお昼ご飯を家族で頂きますが、Yさんはみんなとガヤガヤするのがとても好きな人。せっかくなので一緒に食堂へ入ってもらい楽しい会話でいつもより皆さん楽しそうです。

それから約1時間半かけてお寺へ到着しました。Yさん行きましょう、とリクライニング車椅子を押しました。Yさんのお墓の前に行くためには細い通路しかないので車椅子ごと通れるか心配でしたが看護師さんと2人で押しながら進めるとギリギリセーフで墓石の前まで行く事が出来ました!

「良かったねー今からお参りしよう。」そう言って皆さんでお参りしていると、お寺から和尚さんとその奥様、お母様が。

Yさんはこのお母さんの代の和尚さんとは長いお付き合いの様です。お母さんが懐かしく、語りかけました。

「まぁ、懐かしいですねぇ。Yさん本当にお久しぶりでね…」

Yさんまたもや涙を溜めて泣きだしました。

お母さんも感極まったのか、Yさんの両方を叩きながら、

「良かったねえ、良かったねえ」と、話しています。

通常であれば触られるだけでYさんの手足の痛みはとても辛い……はずなのに!

ナント、痛がる様子が無い!!

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ご家族さん皆ビックリです。お墓の前でワイワイ言ってる姿をご先祖さまもさぞ楽しそうに見守ってくれたでしょうね。

そして今日のお宿へ到着です。

ベッドのお部屋にはリクライニング車椅子のまま、入る事が出来る、

【バリアフリールーム】なので、

そのままベッドへ横付けし、自宅から持参したマットレスに電気を入れて整えます。このマットレスは耐圧分散が自動でなされる優れモノなのでこちらを備え付けのベッドの上に用意してから移乗しました。

「あぁ…疲れたぁあ。」と、ややぐったりのYさん。

体温を測ったり血圧や体の酸素濃度、脈拍などをチェックする、バイタルチェックが終わると少し休みましょうとの事に。

そこで、Yさんの体調に驚きの変化が!!

体内の血液中の酸素濃度を測定する、パルスオキシメーターにて測定すると、

・・・

・・・

なんと酸素濃度が100%!

いつもはもっと数値が低いのに旅行先で100%が出たってものすごい事なんです。相当体調が良くなければ数値が好転する事はめったに無いのです。

「よっしゃ旅行がリハビリになっているかも!」私も嬉しさ100%です!

皆でひと喜びしたところでご家族さまも一休みする事に。後ほど食堂にて晩ご飯時に集まる事になりました。

「ふぅ〜なんとか今日の目的は達成できたかな。」

油断はできませんが一方でここまでの旅程を無事に終えた事に嬉しさと安心した私です。

夕食の時間となりましたので、再びYさんのお部屋を訪れました。

「さあ、お父ちゃん今からお兄さん達が来るよ。行こう!」

奥さまの声掛けで、食堂へ家族みんなで向かいました。

食堂は旅館スタッフさんの配慮により、私達ご一行に仕切りがされていました。そこにご家族様とご兄弟様ご夫婦がお見えになり、全員揃ったところでYさんよりご挨拶です。

またしてもYさん、久しぶりの家族団らんに感極まったのか、涙ながらに

「今日はお集まり頂き、ありがとうございます。・・・湿っぽい事は抜きで始めましょう!」

今泣いたカラスがもう笑う。そんなお顔を皆に見せながらいよいよ乾杯です。

もちろんYさんは、気管切開されてますから形式だけ・・・・

・・・と、思いきや。奥さまより、

「お父さん、今日は飲んでいいよ!」

奥さまよりビールを口に注ぎます!

「はぁぁあああああ」と、Yさん。

奥さまより、「美味しいね?」

Yさん、「に、苦い!」

どうやら久しぶりのビールは思いのほか苦かったようで、そこがまたウケました。笑

こうして楽しい夕食は終わり、ご兄弟の皆さんとロビーにて記念写真を撮りました。

明日はいよいよご実家にてお仏壇参りです。

4,2日目は足湯で温泉をあじわい、ご実家にてお仏壇参り。

2日目は、ご実家に行ってお仏壇にお参りをする事。

2日目を迎えた朝。Yさんのご様子を伺いにお伺いすると、さすがに疲れが出たのか、奥さまが、

「お父さんちょっと疲れたみたいやね。ここまでこれたのも不思議なくらいやけんね。まだチェックアウトまでの時間大丈夫かな?」

私、「はい、まだ大丈夫ですよ。ゆっくりしましょう。」

奥さま、「じゃあ、もう少ししてから着替えたりしようかね、お父さん。」

やっとお目覚めになり、着せ替えです。私はそのときにどうしてもしてあげたい事がありました。それは・・・

・・・

・・・

【温泉につかる】事です。

ここ、大分県湯布院の町はご存じ日本でも有名な温泉地帯です。こんな温泉に恵まれた場所に来ていながらお湯につかる事無く出発するのはとてももったいないと思ってました。Yさんは日常では定期的な訪問入浴介護を受けておいでですが、温泉につかるなんて『夢のまた夢』です。もちろん旅程には考えてもおられませんでした。が、

私足湯につかれるなる介助器具を密かに持参していました。お着替えが始まる頃に大浴場に走り、温泉を入れて再びYさんのお部屋を訪ねます。

「Yさん、足だけでも温泉に入った気分になりましょう!」

私が持参すると奥さまやご家族様も喜んでくださり、

「わあ!おとうさん良かったねえ。」

その様子をお孫さんが動画にとりながらインタビュー。

「じいちゃん、温泉はどうですか?」

Yさん「なんて?温泉? ああ、、、分からん」

「笑」

こんな会話がありました。正直すぎるYさんの言葉が面白く、そうだよね、足しか温泉にはいれないんだもの。でも、楽しそうなYさんとお孫さんの会話にほっこりさせられました。

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そうしてご実家へと車を走らせます。到着すると、本家のお兄様が出迎えてくれました。実家の周りの道は狭いのですが、入ると広いお庭が。

Yさんは、懐かしげに静かなひとときを過ごし、お兄様にご挨拶をしてから帰路につく事にしました。

5,後日談。Yさんとご家族様より。

こうしてなんとか目標である、

【お墓参り】と、

【実家に帰ってお仏壇参り】の

実現をお手伝い出来た事。本当に嬉しかったです。この旅行の後、Yさんはやや燃え尽きたようで、しばらく元気が無かったそうです。しかし、奥さまが、

「次もまたどこかへ連れて行ってもらおうよ。」と励ましておいででした。

私はいつもこうした旅行や外出支援を通して思う事があります。それは、利用者さまがこうしたい!と思う事を実現に向けて動く事が出来たら、それは何よりのリハビリになるんだと、強く感じます。

旅行をとおしてYさんは、

体を使うというリハビリ、

そうしたい、と思った事を実現しようとする心のリハビリ、

それによって【幸福】な時間を皆で過ごせたのならば、私も【幸福】を感じます。

私は、これからも【民間救急】を通してお身体の不自由な方への移送を沢山提供して行けたらと思います。無限の可能性を信じて。



もしもよろしければ皆さまのサポートを頂けたらとてもありがたいです。