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日本の文化を通じて「ちょっとしたことをちゃんとやれる」日本人らしさを持って世界で活躍できる子どもたちを育む|いづる保育園大阪上本町園

全面畳張りの保育園…!? 子どもたちが保育者と楽しそうに過ごしている、そんな保育園ではよく見かけるの光景ひとつ。明らかに違っているのは、そこは一面畳が敷かれ、ふすまがあり、和紙や木など、日本古来から建築で使われる天然素材で溢れる『和の空間』であること。古き良き懐かしさを感じる空間の中で、子どもたちは畳の感触を味わうように寝転がったり、安心した表情で友だちや保育者と心を通わせているようだった。「幼少期から日本文化に触れることで、日本人としてのアイデンティティーを育めるように工夫している」と話すのは、代表の澤田修司さん。なぜ、日本文化をテーマにし、どのように実践しているのか、お話を伺ってきた。

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「丹精込めて作られる日本のモノに囲まれて育つ中で、そこにある丁寧さや『型』の大切さ、美しさを感じていた」

日本人として、日本文化を大切にしたい、その想いに共感を覚える一方で、湧き上がる疑問がある。なぜそれに着目し、どうして保育園という形で表現したのだろうか。
「私の実家が畳屋だったんです。幼い頃から日本古来のよいものや職人さんに囲まれて育ちました。そんな環境の中で、品質にこだわり、丹精込めて作られたものに触れることで、日本文化の魅力を肌で感じてきました。中学生の頃、ニュージーランドへ留学し、日本について聞かれることが多くありました。私自身は自分の体験から話し、改めて外から見る日本のよさを実感していました。グローバル社会において日本人としてのアイデンティティーを持つことが大切ですが、現代は和室のある家や、古来からある日本の文化に触れる機会が減っています。幼少期からそうした育みができないかと考えている中で、娘が生まれたこともきっかけとして、こうしたコンセプトの保育園を作ることを決めました」。

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海外経験があるからこそ、アイデンティティーの大切さを実感している澤田さん。日本文化の魅力は具体的にどんなところなのだろうか。
「ひとつは茶道や華道などのすべての『道』の中にある『型』です。私自身の好きな言葉でもある『守破離』の考え方のように、まずは基本の型が大切で、それは繰り返し繰り返し身に付けていくものです。子どもたちの発達、成長の中でも日々の反復が大切で、保育にも通じるところがあると感じています。もうひとつは日々の何気ないことの中にある『丁寧さ』です。美しく、丁寧な所作は日本文化、日本人としてのアイデンティティーだと思います。靴を揃える、服をきれいにたたむといった生活の中にもそれらは現れています。日本文化に触れる保育を通じて、子どもたちには『ちょっとしたことをきちんとできる』そんな大人になって欲しいですね」。


「本物の『和の空間』を実現するのはもちろんのこと、天井の和紙、板の間の栗の木の表面の加工など、子どもたちの健康や発達に配慮して空間を作っています」

保育室全面の畳は非常にキャッチーで目を引く一方で、保育者の衛生管理の視点からすると苦労が多そうだが、なぜ畳を選んだのだろうか。

「そもそも畳は四季によって気温湿度の変化の激しい日本の風土にあった素材です。適度に弾力があって、転んだ時にも安心。どうしても食べこぼしなどがある年齢なので、そこは独自の工夫しています。食べかすや飲み物をこぼしても中に入り込まないよう、通常のおよそ倍量のイグサを使って密度を高めています。畳の研究をされている先生にも協力いただいて、実証実験などを重ねて保育で使いやすい畳を開発しました」。

保育室を歩くとほかにも気になることが続々と。特に気になったのは板の間の表面が水平ではなく微妙に凹凸があること、そして天井の和紙の2箇所。

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「板の間は、足裏や足の指の感覚を養うためにわざと削り加工を入れています。天井の和紙は、照明が直接当たることがあまりよくなくて、日中の照明の浴びすぎが夜間の睡眠を妨げることを知って、間接照明のようにやわらかい光を届けようと、和紙をフィルターのように使っています。ほかの園も含めて照明は間接照明になるようにしています。」

ほかにも茶室があったり、書家の書いた書なども和の空間づくりを演出している。「日本文化に触れることは大切にしていますが、それを通して子どもたちの身体や経験に与える影響に配慮して空間づくりを行いました」。

また、取材でお邪魔した時間は全年齢の子どもたちを対象に英語での活動が行なわれていた。歌や運動の要素を混ぜながら、楽しく英語に触れる機会が作られていた。英語教育について澤田さんは尋ねると、

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「日本文化を大切にしている背景のひとつには、グローバル社会においてアイデンティティーが大切、という思想があります。世界とのつながりがより強くなる今の子どもたちにとって、英語に親しんでおくことは非常に重要だと考えています。当園に通う0~2歳の子どもたちの場合、完璧な英語教育というよりも、身近に感じるベースづくりとして、遊びのひとつとして親しみを感じてもらえたらと考えています」。


「『日本文化×保育』を身近なことから取り組んでいけるよう、プロジェクトチームを作って保育士目線で活動を充実させています」

掲げられたコンセプトは、保育園運営のひとつのネックともいえる職員採用の場面でも役立っているという。求人に対して保育者が圧倒的に足りていない保育業界にありながら、多くの応募を受け、採用ができているという。実際に働く3人の保育者の声を聞いてみた。

☆プレゼンテーション2

「他業種からの転職で、探していたときにこの『和風の保育園』に目が惹きつけられました。その上で日本文化を大切にする、というコンセプトは、文化が忘れられがちな現代において、とても大切だと感じています。実際に働く中で、自由な風土も園の魅力だと感じています」

「日本文化を大切にしつつ、色々な世界を知って欲しいと思っています。自分の文化を知ることは、他者との違いに気づくことにつながると感じていて、他者を認める心が育ち、他者と平等に関わることができる子どもたちの育ちにつながると思います」

「一般の家庭で畳のある家が減っている中で、日常的に触れる機会を作れるのはいいな、と思っています。さらに、『保育者の労働改革』というコンセプトも掲げられていて、休憩や勤務時間が守られていたり、持ち帰り仕事がないことで自分自身の生活にゆとりが生まれて、これまで以上に子どもたちと余裕を持って関わることができています」

一方、3人の共通の課題として聞かれたのが「日本文化を取り入れた保育の難しさ」だった。

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それに対して、澤田さんはよりよい園づくりのために、新しいプロジェクトをスタートさせた。
「日本文化と聞くと、茶道や華道、あるいは伝統芸能などが思い浮かべられます。それらをどう保育に盛り込むのか、という課題感が大きいことがわかってきました。ですが、『いただきます』の文化や日々の丁寧な生活というのも日本の世界に誇れる文化です。日本文化の魅力は何か、どのようにそれを大切にしていくのか、といった、日本文化の解釈を広げて、子どもたちの育ちを支援するためのツールとして使えるように、保育者だけのプロジェクトチームを作って、対話を行なっていくプロジェクトをスタートしました。この活動の中で『いづる保育園らしさ』を一人ひとりが考え、自分たちの仕事の目的や役割についても組織内の共通認識にしていきたいと思っています」。

プレゼンテーション9

園のコンセプトをどのように実践するのか、これは多くの保育園で語られる課題ではあるが、一人ひとりの職員がコンセプトをまず自分自身が解釈し、主体的に取り組める状態を目指すのは、ひとつの解決策といえそうだ。

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本文中では触れることができなかったものの、取材中印象的だったことのひとつが保育者と保護者とのコミュニケーションの場面。保育室の中で20分近く話をしていた。あとから何かじっくり話す必要があったのかと尋ねると、あくまで日常的なコミュニケーションだという。保育者の人数に余裕があり、保護者も時間に余裕がある限り、子どものことはもちろん、世間話なども含めて保護者の人となりを知り、保育者の人となりを知ってもらうことを大切にしているようだ。保育園が身近な存在としていることで、相談などもしやすくなる。この身近さは利用している保護者だけでなく、地域にも感じてもらえるよう、地域で一番あいさつする保育園を目指しているという。昔はご近所さんが子どもたちのことを知っていて、地域で子どもを育てる、という認識が根付いていた。そんな地域や人と人とのつながりを大切にすることも、ひとつの日本文化を大切にすることなのかもしれない。

<Visited DATA>

訪問先:いづる保育園 大阪上本町園
所在地:大阪市天王寺区石ヶ辻町 14-14 銭屋ビル東館1階
Webサイト:https://izuru-hoikuen.jp/

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