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世界難民の日 2020: リビアの場合


こんにちは🕊
毎年6月20日は、世界難民の日
難民の保護や援助に関する関心を高めるほか、UNHCRやNGOをはじめとした支援機関による活動を支援するため、国連により制定されている日です。

今年はリビアの難民・移民について、みなさまと一緒に考えてみようと思います。

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ヘッダーはリビアの写真家、ヒバ・シャラビさんのもの。写っているのは地中海です。


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難民についての基礎情報

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難民とは人種、宗教、国籍や自分の持つ政治的意見などが原因で、母国にいると迫害を受ける恐れがあるため、出身国の外に非難している人びとのことを指します。

国連難民高等弁務官事務所 UNHCR によると、世界には現在、2,590万人の難民がいます。この数は毎年、増加傾向にあります。

しかし、この数には国内で避難を余儀なくされいている人や、難民申請をしている人は含まれません。これらの人びとを合わせると、世界で迫害や紛争などにより家を追われている人は7,800万人に及びます。

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世界でいちばん多くの難民を生み出している国はシリア。市民によるアサド政権に対する抗議運動が内戦へ発展し、政権とロシア軍による虐殺が続いている国です。660万人が難民として国がに逃れています。
これに続くのが370万人のベネズエラ、270万人のアフガニスタン、220万人の南スーダン、110万人のミャンマー。
全世界の難民の68%が5ヵ国の出身です。

難民と聞くと、欧州に殺到している様子を報道などで目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ですが実際には、その85%を受け入れているのは途上国です。


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難民と移民は、どのように違うのでしょうか。

UNHCRの見解をもとに整理すると、大きく3つの違いがあります。
1つ目は、移動する理由。難民は迫害や暴力から逃れてきた人びとを、移民は、主により良い生活のために移住をする人びとを表す言葉です。
2つ目は、受け入れ先でどのように扱われるか。難民は国際法で保護されることが決まっています。一方、移民をどのように受け入れるかは、各国の移民政策に委ねられています。
最後は、出身国へ帰ることができるかという点。難民は帰国すると身の危険がありますが、移民はそうではありません。ただし途上国の中には、政府が国民に対して十分な教育などを提供できない国もあります。

近年、移民と難民が同じような経路や手段で移動を行うケースが増加しています。そこでUNHCRなどは、こうした人びとの動きを指す総称として「混在移動 (mixed migration)」という言葉を使うことがあります。
リビアの場合も、難民と移民が混ざって移動しているケースが多く見られます。そのため今回は、両者が同国で置かれている状況について見てみます。


リビアの難民・移民

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リビアは北アフリカに位置する国です。アフリカ大陸で4番目に面積が広く、国土の9割を砂漠が占めます。
人口は約665万人。公用語はアラビア語です。

リビアでは2011年、40年以上続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。新たな政府樹立を巡り、衝突が続いてきました、
現在は首都トリポリを拠点とし、国連の仲介で2016年に樹立した国民合意政府 (GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府 (HoR) が分裂している構図です。どちらも政府としての役割を十分に果たすことができておらず、治安や経済など多くの課題に直面しています。

2019年4月、HoRが支持するハフタル将軍率いる勢力がトリポリへの侵攻を開始しました。GNA側の民兵組織らが応戦し、武力衝突に発展。GNAにはトルコ、ハフタル勢力にはUAEやロシアなどがつき、軍事支援などを行ってきました。戦闘や爆撃により、市民を含め千人規模の死者が出ています。
6月はじめにハフタル勢力は同地域より撤退。現在は停戦へ向けた協議が進んでいます。

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正確な数を把握することは難しいものの、リビアには現在、数千人規模の難民・移民がいると考えられています。
出身国としては、セネガル、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、南スーダン、エチオピア、ソマリア、イエメン、エリトリアなど。

こちらのウェブサイトに移民・難民のルートが詳細に紹介してあります。


トルコのコンサルティング企業がUNHCRと共同で2016年に出したレポートによると、経済的な理由で母国を出た人が多い一方、情勢不安や圧政から逃れた人もいるそうです。


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リビアにいる難民・移民のなかには国内で仕事を見つける人もいる一方、同国を経由して欧州を目指す人もいます。

多くが密入国ブローカーに高額なお金を払い、トラックでリビアまで移動。同国へ辿り着くまでにも拘束され、拷問を受けたり性暴力の被害にあうことがあるそうです。砂漠の暑さにも耐えなければなりません。

約半数が同国を経由して欧州を目指します。
地中海を渡るのに利用するのは、多くの場合、簡素なゴムボート。
ブローカーが多くの利益得るために、定員オーバーであることも珍しくないといいます。

経済的な困窮から、リビアを経由して欧州を目指した、ナイジェリアのマリーさんのお話です。移民・難民のなかには、同じような経験をしている人が少なくないことが聞き取りなどで分かっています。

地中海を渡ることは困難。難民や移民を乗せたボートが転覆する事故が相次いでいます。
2015年4月には、リビア沖で難民・移民700人以上を乗せたボートが転覆する事故が発生。ほぼ全員が死亡したとみられています。

移民(・難民) の転覆事故や死者数などを記録している国際移住機関(IOM)のウェブサイト Missing Migrants Project によると、2020年にリビアなどを経由して欧州を目指す「地中海中央ルート」で命を落とした人は、6月時点で227人

ピークの2016年には1年で2449人の死亡が確認されています。


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難民・移民はリビアで劣悪な環境に置かれていることも分かっています。

GNA政府や武装勢力などに捕まり、収容施設へと送られることがあります。
収容施設では生きるために必要なものへのアクセスも絶たれ、外へ助けを求めることもできない状態。難民・移民から金銭を巻き上げるために、脅しが行われたり、リビア人による暴行や性暴力も行われています

衛生環境も劣悪。収容施設には治療の必要な人や病人及びけが人のほか、心のケアの必要な人などがたくさんいると見られています。

2015年の動画ですが、現在も環境は大きく変わっていません。


ハフタル勢力による軍事侵攻が2019年4月に始まったことも、難民・移民に大きな影響を与えています。
トリポリ郊外では昨年7月、移民・難民の収容されている施設が爆撃を受け、少なくとも44人が死亡する事件が起きました。
国連はハフタル勢力を支援するUAEによるものとして捜査を進めています

2019年4月から現在までで、一度に最も多くの死者が出たできごとでした。


欧州の対応

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問題はそれだけではありません。
欧州諸国はリビアで難民・移民どのような状況に置かれているかを知っていながら、同国にこれらの人びとを留めおくよう求めています

2000年代より欧州は、リビアなどの北アフリカ諸国に対して、国境管理を手伝うよう求めてきました。自らでは防げない数の移民・難民の流入が続いたためです。
具体的にはリビアの警察へトレーニングを実施したり、資金や警備船などを提供しています。イタリア政府はリビアに対して2003年の1年間で、国境警備のために550万ユーロ以上の投資を行っていることも判明しています。


カダフィ体制の崩壊後、情勢不安に伴い、リビアには多くの密輸業者が現れます。同国を経由する難民・移民が急増しました。
こうしたなか、国連の仲介により2016年にGNA政府が樹立すると、欧州は再びリビアに接近。GNAや同政府のリビア沿岸警備隊に対して、難民・移民が地中海を渡ることを防ぐよう求めました。

EUでは、アフリカへの開発投資よりも多くの額が国境管理のために使われるとの予算案まで出されました。
2018年の報道によると、欧州委員会の予算案では2021〜27年までの7年間で、サブサハラアフリカ諸国への開発投資には283億ユーロ、国境管理のための予算は308億ユーロがあてられていたとのことです。

2020年までの7年間の3倍の予算が、難民・移民を阻止するために使われることになります。


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難民・移民を取り巻く状況は、新型コロナウイルスによりさらに悪化しています。

イタリア政府は4月、新型コロナの影響で、移民・難民を乗せた船の受け入れを少なくとも7月31日まで停止すると発表。新型コロナ感染拡大のため、安全を確保できないとしています。

パンデミックを「口実」として今後、欧州諸国が移民・難民の規制を強める政策へ向かっているのではないか指摘する人もいます。

一方、難民・移民は情勢に関係なく移動を続けています。
リビアから5月には1000人以上の難民・移民が地中海を渡ることを試み、同国の沿岸警備隊により連れ戻されています


情勢不安や紛争により医療体制が不十分なリビアでは、病気に感染しても治療を受けられる保障は全くありません。収容施設では、ソーシャルディスタンシングも不可能です。

まさに難民・移民が行き場を失っている状態です。


国際社会はリビアの人びとについて沈黙してきた

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2017 年11 月、米国のTV局であるCNNが一本の動画を公開しました。
動画には、リビアで移民が競売にかけられている様子が映されていました。報道はすぐに拡散。移民に対する卑劣な扱いに、国際社会から非難の声が集まりました。


パリなどの都市では、リビア大使館の前で抗議運動も行われました。

さらに11月末には、アフリカ連盟とEUがリビアにいる移民を避難させる措置を取ることで合意。リビアのGNA政府も実態の捜査を公式に行うことを発表しています。

リビア出身の人からも、同国の移民・難民の置かれた状況について訴える声が上がっています。


一方、リビアの人たちからはこのような声も聞きます。
国際社会は難民・移民のことばかり取り上げるけれど、リビアの人びとについて沈黙してきた
2011年から9年以上続く混乱のなか、国際社会ができたことは多くありません。リビアの人びとの中には、世界が自らが直面してきた困難に対して見て見ぬ振りをしたり、加担してきたと感じている人もいます。

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国際連合人道問題調整事務所 OCHAによると、リビアでは現在、89万人が人道的な支援を必要としている状態にあります。
国内には多くの避難民もいます。昨年始まった軍事侵攻では、20万人が避難を余儀なくされました

戦闘が落ち着いた場所にも建物が破壊されていたり、地雷や不発弾が残っていることがあります。
多くの人びとが「日常」を取り戻すことができない状態です。


難民・移民を守るために十分な措置を取ってこなかったGNA政府、暴力や搾取を行っている武装勢力、こうした状況に加担している欧州など、それぞれに問われるべき責任があります
問題の解決には、それぞれの責任を明確にすること、そしてその責任がきちんと問われることが必要です。


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まとめ
1. リビアには数千人規模の難民・移民がおり、暴力や人権侵害にあっている
2. 欧州諸国はこうした実情を知りながら、リビアに難民・移民を留めおくよう求めている
3. 難民・移民は新型コロナと紛争により、さらに困難な状態に置かれている


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Also read:

リビアの新型コロナの状況をまとめました。
パンデミックでより大きな打撃を受けるのは、弱い立場にある人びと。
専門家から市民、政治家まで、たくさん耳にする言葉があります。
「連帯が必要」、「脅威は変革のチャンス」

ですが、実際にリビアなどの紛争地の報道や人びとの声などを追ってみると、新型コロナについてあまり大きな話題になっていないように感じていました。
なぜなのか。少し考えてみました。



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