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Libya Updates 番外編: リビアと新型コロナ

こんにちは🕊

4月から毎週金曜日、リビア情勢のアップデート記事を出しています。

世界がパンデミックに直面するなか、同国では紛争が続き、現在は停戦に向けた交渉が進められています。
今回はアップデート記事の番外編として、リビアの新型コロナの状況について少し整理してみました。

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ヘッダーの写真はリビアの写真家、ヒバ・シャラビさんのものです。


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基本情報

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リビアでは2011年、40年以上続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。新たな政府樹立を巡り、衝突が続いてきた。
現在は首都トリポリを拠点とし、国連の仲介で2016年に樹立した国民合意政府 (GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府 (HoR) が分裂している構図。どちらも政府としての役割を十分に果たすことができておらず、治安や経済など多くの課題に直面している。

HoRが支持するハフタル将軍率いる勢力は2019年4月、トリポリへの侵攻を開始。GNA側の民兵組織らが応戦し、武力衝突に発展した。GNAにはトルコ、ハフタル勢力にはUAEやロシアなどがつき、軍事支援などを実施。戦闘や爆撃により、1年で市民を含む千人規模の犠牲が出ているほか、20万人以上が国内で避難を余儀なくされている。
6月はじめにGNA勢力がトリポリを奪還し、ハフタル勢力は同地域より撤退。現在は停戦へ向けた協議が進んでいる。

新型コロナの感染拡大状況

リビアでは16日(現地時間)時点で、累計467名の新型コロナ感染者が確認されいている。死者は10名


同国で最初に感染者が確認されたのは3月24日。4月から5月にかけては1週間の新規感染者数がゼロになる週もあるなど、感染拡大ペースは早くなかった。
だが6月に入り、1週間の新規感染者数が大幅に増加する状態が続いている。

20200612_リビアの新型コロナ感染者数の推移_modified


新型コロナへの対応

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パンデミックをうけ、トリポリのGNA政府は4月17日から10日間のロックダウンを宣言するなどの動きを見せている。


しかしリビアでは医療施設や検査体制などあらゆるものが不足している。
同国を専門とする政治のアナリストであり研究者のタレク・メゲリシ氏は「リビアの医療保険制度は新型コロナの流行以前より崩壊していた」と話す。


医療の現場は混乱している。
トリポリの病院で働くモハメド医師は、3人の新型コロナ感染者の対応に立ち会ってきた経験を振り返り「ほとんどの医療関係者は感染症の対応について全く訓練を受けていないため、みんなパニック状態に陥っている」と話す。「どうしたら良いか誰も分からないために、みんな勘を使い、自分たちが正しいと思うことをやるしかない」

感染防止のための装備の不足も深刻だ。医師の働くトリポリ病院では、病院ではN95マスクやゴーグル、フェイスシールド、全身を覆う防護服の支給はないという。
「誰かの誕生日が来たら、その人のためにN95を探してプレゼントするんだ」


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4月から5月にかけて、医療施設への攻撃が多発した。
リビアでは今年に入ってから、20回近い数の医療施設への攻撃が起きている
国連リビア特別ミッションなどによると、同国では2019年4月以降、医療施設が30回以上、攻撃の被害に遭っている。うち半分以上が今年起きたことになる。

以下はパンデミック中に起きた、医療施設への攻撃の一部。






国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのハナン・サラー氏は5月の記事で、「戦争を続ける勢力がリビアのわずかに機能が残っている医療や公共保健システムを破壊し続ける限りは、いくらマスクがあっても役に立たない」と指摘している。


紛争の影響

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新型コロナの感染拡大を受け、対立するGNA政府とハフタル勢力は
紛争が新型コロナの感染拡大に与える影響は他にもある。

トリポリでは4月7日から8日にかけて、断水と停電が起こった。タクシー運転手で、3人の子どもの父親でもあるナデル・モハメドさんは「わたしたちはいま、戦争だけでなくウイルスにも苦しんでいる。もしも感染が広まったら、どうなるかは神のみぞ知るところ」と話している。

筆者もトリポリに暮らしている人に状況を確認した。その人の場合、断水中は井戸水を使うなどして対応していたという。


ソーシャルディスタンシングも困難な状況にある人びともいる。
2019年4月に始まった軍事侵攻により、リビアでは20万人の国内避難民が生まれている。多くが親戚のもとに逃れたり、仮住まいに暮らしている。
だが避難先では、多くの人が密集している場合も珍しくない。


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リビアにいる移民・難民も困難に直面している。
主な出身国は、サブサハラ諸国など。経済的な機会を求めて来る人もいれば、紛争から逃れてきた人もいる。

一方、同国では移民・難民の安全が守られていないことが知られている。
特に収容施設の衛生環境は劣悪で、最低限必要なものへのアクセスも絶たれる状態だ。多くが収容施設の職員などによる暴力を経験しているという。
5月末には、密輸業者の家族が襲撃事件を起こし、移民30名が死亡、11名が負傷する事件も起きている

こうしたなか、移民・難民が必要な医療へのアクセスが許されていないことが問題となっている。

国際司法裁判所の中東・北アフリカ地域担当、ケイト・ヴィネスワラン氏は、移民や難民を収容しているのはGNA政府だけではなく、様々な非公式の勢力でもあると説明。このことが対応を難しくさせている一因だという。


移民・難民のなかには、欧州と目指す人たちも少なくない。しかし欧州は、これらの人びとの受け入れを停止している。
イタリア政府は4月、新型コロナの影響で、移民・難民を乗せた船の受け入れを少なくとも7月31日まで停止すると発表している。


移民・難民の多くがリビアの沿岸警備隊により、同国へ連れ戻されている実態もある。5月にはリビアから1,000人が送り返されたという。

まさに移民・難民は行き場を失っている状態だ。

国際社会の動き

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国連はパンデミックを受け停戦を呼びかけているが、実現はしていない
グテーレス国連事務総長は3月、声明を発表し、全世界での停戦を求めた。「私たちの世界はCOVID-19という共通の敵に直面している」


UNSMILも3月、欧州諸国などとともに、パンデミックに合わせたリビアでの停戦を呼びかけている。

3月中旬にはGNA、ハフタル勢力は一度、パンデミックを受け停戦に合意。だが、すぐに爆撃や戦闘が再開した。

OCHAや国際移住機関IOMは合同で5月、声明を発表。紛争とパンデミックが人びとの命を大きく脅かしていると訴えた。

声明では特に国内避難民、移民・難民、女性や子どもが困難な状況に置かれていることを指摘。紛争に関わる全ての当事者に対して停戦を求めると同時に、国際社会に沈黙しないよう求めた。

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リビアに関与してきた国は、紛争への支援を続けてきた。

トルコはリビアをはじめとした人道危機が起きている地域などに、国旗のついたマスクや防護服などを送っている。同国はパンデミックのなか、世界で3番目の援助国になっているとの試算もある。

その一方、トルコはGNA政府を支援するために軍事支援を行ってきたほか、未成年を含むシリア人の傭兵を派遣していたことも分かっている

対するハフタル勢力を支援するロシアやUAEなども同様に、パンデミックが続く間も武器や傭兵などを送っている。


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リビアでは新型コロナよりも、紛争で亡くなる人の方が多い状態にあります
停戦交渉も行われていますが、現場では戦闘や地雷による被害が続いています。死者・負傷者のほか、非難を余儀されている人も多数います。
こうした中で、日本や米国などからは少し遅れて感染拡大が進んでいます。今後も注視が必要です。


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Also read:

パンデミックでより大きな打撃を受けるのは、弱い立場にある人びと。
専門家から市民、政治家まで、たくさん耳にする言葉があります。
「連帯が必要」、「脅威は変革のチャンス」

ですが、実際にリビアなどの紛争地の報道や人びとの声などを追ってみると、新型コロナについてあまり大きな話題になっていないように感じていました。
なぜなのか。少し考えてみました。
毎週金曜日、1週間のリビアをめぐる動きを整理しています。



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