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RIPPLE〔詩〕

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2022年9月の記事一覧

即興短詩集

即興短詩集

陽光の螺旋ほどいて柳散る

コスモスの花弁コスモの綻びか

謂われなき罪過をどうぞ黒葡萄



枯れ向日葵の一群の

ひとひらのイエローほどの

不幸があるかと問い始めた子

きみの朝顔どこにいったの



無形の雲すら責め立てて

雨下を追いかけ続ける男は

先にある背と自らの背が

かけ離れるごとにほくそ笑む

殴る人は失せ

可愛らしげに

 裾を掴む人もいなくなった

その歩みを止める

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焦寧 【詩】

そこにさざめく葉の一群に
かの詩集を読ませてあげたい

あなた方もわたしと同じで
哀しみを言葉にできないのだから

余計なお世話だと言わんばかりに
狼の声が月にこだました

ひと吠え にも 遠く及ばない 虚しさ

大いなるものよ なぜ わたしには
哀しみの声を宿してくださらなかったのか

濡れた葉は朝になれば 煌めかされて
写真家が切り取り美の額縁に飾る

老夫婦が散歩の途中 朗らかな顔で
露の先

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仮面ディーラー 【心象】

心の奥深くに潜る。深度を増すごとに光が届かなくなり、深海のごとく暗くなっていく。

闇に三つの白い物体が浮かんでいた。揺蕩うことなく、貼り付けられているかのように、じっと。

喜びの仮面、怒りの仮面、哀しみの仮面……なのだろう、きっと。逆三角形に配置され、時折消えては無作為に入れ替わっていた。

そうだ、感情とはこうして目まぐるしく入れ替わるものだった。

闇が意地悪そうに問いかけてきた。
──

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残兵の唄 【詩】

残兵の唄 【詩】

黒雲の帯が銀河でした
きらめきなどは見えません
下手くそな比喩は時世のせいです
飾りつけのない
誰もそれを望まなかった
無欲な強欲だけが
夜ごと流れていきましたから

どうしようもなく
夢中で雲を抱いたのです
透明な巨人の腹に
這いつくばるようにして
隆起と陰影だけを頼りに
かろうじて許された仮初めのアートを
隠れて何度もなぞった日々

明朝には戦地に赴く
歩兵部隊のテントの内で盗み見た
愚鈍に剣

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