仮面ディーラー 【心象】
心の奥深くに潜る。深度を増すごとに光が届かなくなり、深海のごとく暗くなっていく。
闇に三つの白い物体が浮かんでいた。揺蕩うことなく、貼り付けられているかのように、じっと。
喜びの仮面、怒りの仮面、哀しみの仮面……なのだろう、きっと。逆三角形に配置され、時折消えては無作為に入れ替わっていた。
そうだ、感情とはこうして目まぐるしく入れ替わるものだった。
闇が意地悪そうに問いかけてきた。
── さあどれを被る?
── 果たしてうまく掴めるかな?
カジノディーラーにでもなったつもりか。人の声真似なんぞして、本当に趣味が悪い。
思い返してみた。正確には、取り巻く闇の遥か遠くに、浮かぶものたちに想いを馳せた。喜びの場面や、怒りの記録や、哀しみの記憶や。
「わたしが被る仮面はこれだ!」
手を伸ばし、闇を根こそぎ掴んだ。それを思い切り引きちぎって、自らの顔に擦りつけた。
裂けた空間の先に、光の世界が開けていた。
天国でもない、極楽浄土でもない。
そこは見慣れた部屋、見慣れた駅、見慣れた町並み。
闇は隈になる、染みになる、皺になる。
さあ行こうか。また感情をこねくり回して。
すべての顔を請け負って。
#詩 #ポエム #ショートショート
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