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残兵の唄 【詩】

黒雲の帯が銀河でした
きらめきなどは見えません
下手くそな比喩は時世のせいです
飾りつけのない
誰もそれを望まなかった
無欲な強欲だけが
夜ごと流れていきましたから

どうしようもなく
夢中で雲を抱いたのです
透明な巨人の腹に
這いつくばるようにして
隆起と陰影だけを頼りに
かろうじて許された仮初めのアートを
隠れて何度もなぞった日々

明朝には戦地に赴く
歩兵部隊のテントの内で盗み見た
愚鈍に剣を研ぐ人の横顔
私は幸運にも字が書けましたが
葦ペンも紙も投げ捨てて
縋るような想いで頭を預け
その夜も
巨人の肌に横たわったのです

「敵は恐怖だ!」
「敵は己の内にある!」

復唱 求められれば従順に
脳と口の間に聳える
幾重もの山脈を切り崩しました
生得の立派な金剛山もありましたが
一瞬のことでした
それくらい人は孤独に脆かった

今宵
本当は愛を唄いたかったのに
誰のおもても浮かびません

銀河は
地球よりも人類よりも先に
見上げれば
蕩々とうとうと流れているはずだったのでは



#詩  #ポエム

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