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檸檬読書記録 『書店主フィクリーのものがたり』

また、素敵な本に出会ってしまった。

ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』

この本は、最初の段階から興味をそそられた。
物語の初めに、枠組みがなされた中に書評のようなものがの書かれているのだが、
(最初、これは何なんだろうと疑問に思って首を傾げたくなるが、読み進めていくうちに意味が分かってくる)
そこで、ロアルド・ダールの本がのっていたのだ。1番最初に!
いや、最初は、ロアルド・ダールって誰だ?と思った。(自分は著者も題名も、基本的に何となーくで覚えているから、全然ピンとこなかった…)けれど紹介されてる本の内容で、直ぐに分かった。
『あなたに似た人』の作者ではないかと!

『あなたに似た人』は短編集で『書店主フィクリーのものがたり』では、その中の一遍が書かれている。
突飛な凶器を使って夫を殺した妻の話が。(その上凶器の隠し方が凄い)

まあ、内容はいいのだけれど…知っている作品が初めにのっていただけに、興味を一気に惹かれてしまった。
これは面白いに違いないな、と。
そして予想通り、面白かった。


話の内容は、
フェリーを使わないと行けない小さな島に、1軒だけ本屋があり、主人公・フィクリーはその店の店主だった。
彼は最近妻を亡くし、1人の殻にとじこもっていた。頑固で偏屈で、本の好みも偏りがあり、それ以外のものは頑として受け入れない、そんな性格だった。
けれどある日、そんな彼の元に1人の少女が現れる。その子は本屋の中で親に捨てられ、母親の手紙には本のあるところに置いて欲しいと書かれていた。
フィクリーは、自分と同じひとりぼっちの少女を見捨てられず、1人で育てる決意をする。
それから、彼の人生は一変し、色づき初め…。

といった感じで、最初から最後まで温かい気持ちに溢れた話だった。本愛にも溢れた作品だった。
最後の方は、胸が苦しくて目がヒリヒリした。
なんて素敵なんだろうと思わずにはいられなかった。
この先も読まれ続けて残ってほしい。本が好きな人には、是非に読んでほしい。
そう思える作品だった。


全てにおいて、フィクリーとその娘となるマヤのやりとりは微笑ましくて胸が温かくなるのだけれど、個人的に好きな場面がある。
マヤを引き取ると決める前、最後の時を2人で過ごす場面。

マヤはフィクリーに「うたって」と頼む。けれど彼は「うたいたくない」と拒むのだが、マヤはまた「うたって」と言う。
彼はなんだか可哀想になってきて、歌ってあげる。
マヤは喜び「ラブ、ユー」と言う。
「きみは、アカペラのパワーにちゃんと反応してるね」
マヤは頷く。「すき」
「ぼくが好きなの?ぼくのこと、なんにも知らないくせに」とフィクリーは言うのだ。
「お嬢ちゃん、好きなんて言葉をやたらふりまくもんじゃないよ」そう言って、フィクリーはマヤを抱きしめた。

沁みる…!
なんて素敵なんだろう。
切なくて、けれど温かい。こういうのに弱いから、かなり胸を突かれた。
マヤの可愛さにやられた。


そういえば、唐突にロアルド・ダールに話を戻して、この本を読んで、彼は『おばけ桃の冒険』の作者でもあることを知って、驚いた。同じ作者だったのかと、衝撃的だった。
『おばけ桃の冒険』は児童書で、両親を亡くした少年、しかも引き取ったおばさん2人は意地悪で苦しい生活を強いられてきた。
けれどそんな彼の前に不思議なおじさんが現れ、何か(確か薬?)をもらい、それが庭にあった桃の木に入って巨大な、家とおなじくらいのおばけ桃をつくる。
その桃の中には、人と同じくらいの虫たちがいて、桃を転がして虫たちと逃げ出し、外に出る。
その最中には色々な危険があって、けれど少年は知恵をしぼり虫たちと協力して難を逃れ、最後は彼らを受け入れてくれる場所にたどり着く。
といった感じの楽しくも明るい話なのだが、『あなたに似た人』はまるで違う。寧ろ正反対なのだ。
『あなたに似た人』は、どの話も最後はどこかゾッとするような、ほの暗さが残る後味で、余計に結びつかなくて驚いた。

それと調べてみたら、ロアルド・ダールは(自分は読んだことないけれど)映画にもなって有名な『チャーリーとチョコレート工場』の作者でもあった。びっくり。多彩だ。
天才なんじゃないだろうか。(ベタ褒め)


むむ、いやいや今回の本は『書店員フィクリーのものがたり』だった。なのに結局ロアルド・ダールの方が分量が多くなってしまったな…。
不思議だと首を傾げつつ、今回は閉じようと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは。


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