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檸檬読書記録 『神薙虚無最後の事件』

今日の本は
紺野天龍『神薙虚無最後の事件』

大学生の瀬々良木と彼の隣の部屋に住む女子大生・来栖は、路上で倒れている女性に遭遇した。
助けて事情を聞いてみると、彼女は20年前に話題になった『神薙虚無最後の事件』の著者・御剣大の娘だった。
『神薙虚無』シリーズは、実在する人物と実際の活躍が記されたもので、『最後の事件』でもって完結していた。
ただ問題は最終巻である『最後の事件』。
これには様々な謎が詰まっていて、未だに解かれてはいなかった。
御剣大の娘・唯は、その謎を解き明かしたく、名探偵を探しているという。
そして丁度いいことに瀬々良木には、凄腕名探偵の知り合いがいて、紹介するのことに。
巻き込まれるように、名探偵・金剛寺と共に、瀬々良木ともう1人「名探偵倶楽部」のメンバー・雲雀が加わり、推理発表会をすることになる。
果たして、神薙虚無は存在するのか?彼のライバルであった怪盗王・久遠寺写楽が残した「久遠寺オルゴール」の中身とは?
そして、長年未解決であった神薙虚無最後の事件の真相とは?
謎が全て明かされた時、もたらされるのは、不幸な結末か、それとも幸せな結末か…。


といった話。
いやー、凄く楽しめた作品だった。
本筋『神薙虚無最後の事件』の謎を解く場面の他に、本の中では『神薙虚無最後の事件』の内容も記されていて、2冊分読めたようで、2倍楽しめた。

アンソニー・ホロビッツの
『カササギ殺人事件』(上・下巻)
『ヨルガオ殺人事件』(上・下巻)

もそうだけれど、本筋の話の他に物語が含んでいる本は、凄くお得感がある気がする。個人的にはおまけのお菓子みたいで嬉しい。
他にも

森見登美彦『熱帯』
江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』
芹沢政信『絶対小説』
藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』

とかも、本筋以外に物語があって、楽しい。


大分逸れてしまったけれど、神薙虚無に戻って、
この本は冒頭から惹き込んでくる。

「--誰かを不幸にするだけの名探偵なんて必要ないと思うんですよ」

「(省略)名探偵というのはただそこにいるだけで謎を解き明かしてしまう宿命を背負った存在。たとえその結果誰かが不幸になってしまうとしても、謎を解かざる得ないんです。ならば--」

「そんな傍迷惑な名探偵なんて、必要ないと思いませんか?」

最初から名探偵を否定する辛辣さ、痺れる。
確かに往々にして、解き明かされた真実は、幸せをもたらすとは限らない。
だからこそ、この本の着地点がより一層気になったのだが。

謎も勿論複雑でよかったのだけど、それ以上に何度も覆される多重解決形式なのが興味深かった。こうでもないああでもないと、覆される様にワクワクした。
個人的に多重解決ミステリー好きだから、余計にこの作品は刺さった。
多重解決ミステリーといえば

井上真偽『その可能性はすでに考えた』

とかも、いい。
今回の本もそうだけれど、2転3転と転がって、真実はこうとしかありえないと思わせといての逆転が、かっこいい。

ただ『神薙虚無最後の事件』は、少しだけライトな感じはある。キャラクターもそれぞれ個性が際立っていて、個人的にはよかったのだけど、好みが分かれそうな作品でもある、かも。
けれど作中のあらゆる所でミステリー愛がヒシヒシと伝わってきて、ミステリー好きには是非にも読んでほしい作品ではある。


物語自体はきちんと終わっているけど、なんだか続きが出そうな雰囲気で、続編が出たら読みたいなと期待しつつ、今回は閉じようと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは。



紺野天龍は、他にもこんな作品もあります。↓
よろしければ…。


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