見出し画像

なぜ、人間は「芸術」に生きるのか

記憶に新しい現代のデジタルアートから遠い昔、洞窟の壁に描かれた原始的な絵画に至るまで、人間の歴史は創作の歴史である。一般的に言えば、人間は他の動物に比べ、その存在をどのように表現するか、どのように外界とコミュニケーションを取るかといった課題に宿命的に取り組む生物である。でなければ、材料と道具、世界を理解するための言語や哲学の発明、そしてそれらを演繹する能力は、すべて不完全である。

創作とは何かと問われれば、「個人の内面を外界に発現させる試み」だと答えるだろう。単なる娯楽や治癒、人間社会におけるレクリエーション的な意味合いを持つだけでなく、創作は私たち自身を理解しようとする試みでもある。有限の命である私たちは、しばしば自らの存在を他の人々、そして後世へ持続させようとする願望に膨れ上がる。これはすなわち、創作活動を通じて自分自身をプロジェクションし、意図を伝達するという欲求である。

しかしこの私たちの、「他者に理解される」という宿命的な欲求が常に満たされるわけではない。私たちが日々直面するのは、自分自身の存在や人生を理解しようとする試みに対する、時には過酷な現実だ。そしてこの過酷な現実から目を逸らすための「薬」として、無意識に創作活動に走るのかもしれない。面白いことに、この考え方には似たような事例がある。かつての「労働」である。我々が現代において労働を考える場合、それはしばしば生活のため、金銭のためのものであると認識される。しかし、一方でアートと類似性を見出すこともできる。ブルネイの石絵画やラスコー洞窟の壁画など、古代の人々は労働を通じて苦行を積むだけでなく、自己表現としての芸術的な創作を行っていた。彼らにとって、労働は単に生計を立てるための手段でなく、むしろ彼らの日常生活や信仰を更に深めるための手段だった。

芸術を通じて我々は人間の内面、そしてそれが世界と交わる瞬間を体感する。古代の洞窟画や教会のステンドグラス、そして現代のデジタルアートなど、それぞれの時代において、芸術は人間態度の具現化でもある。芸術が非報酬性でありながら、我々が欲望を抑えられないのは、芸術こそが我々の人間態度に最も直結しているからだと言えるだろう。

したがって、創作活動とは、個々の人間が内面の思考や感情を外部化し、社会とシェアするための媒体であるという主張は、多くの人々が創作に邁進する妥当な説明の一つだ。それは、人間が人間らしく生きるための手段であると同時に、発散の手段でもある。対話、反映、そして変革の可能性を秘めた「人間固有の欲求」を、個々のアートワークは深く反映している。そしてそれが、芸術と創作活動の普遍的な存在を証明する。

ここで一つ、具体的な例として、今や日常生活に欠かせない要素となっているSNSCGMを挙げてみよう。SNSは、人々が日々の出来事、思考を表現するためのツールであり、その中で生まれる多くの「創作」は、ここで語られる物語を成り立たせている。また、CGM(Consumer Generated Media)という形で、消費者自身がコンテンツを制作し、それにより広範な「芸術」へと結びつく可能性を開拓する。その意味で、ここnoteも言わずもがなCGMの一つとして芸術への寄与を果たすと言える。こうした創作活動は、個々の人間が内面の思考や感情を外部化し、社会とシェアする手段となるだけでなく、それら全てが集約されることによって一つの「大きな物語」を生み出す。それは社会が進歩し、文化が進化し、人々が成長する原動力にほかならない。

このように、芸術というものは実際には人間の内面と社会を結びつける重要な役割を果たしている。さらに具体例を引いて考えてみよう。一つには、ジョン・レノンの"All You Need Is Love"やボブ・ディランの"Blowin' in the Wind"など、社会や人間の内面を深く掘り下げ、考えさせる作品だ。これらの楽曲は、社会の問題を提起し、人間の内面と強くつながりながら、多くの人々に影響を与えた。また、絵画の世界では、「叫び」のエドヴァルド・ムンクや「ゲルニカ」のピカソなど、社会の状況を色彩豊かに描き出し、人々の内面に強く訴えかける作品が生まれている。さらに、映画やドラマでは、人間の感情や思考を描き出し、また社会のあり方について問いかける作品が多数存在する。これらは、創作者の内面が外部化され、その作品を通じて社会や他人とつながりを持つことができる例だ。こうして我々は、創作の意義である「個人の内面を外界に発現させる試み」を果たしていく。

以上の具体例を通じて、芸術、そして創作活動が人間の内面と社会をつなぎ、さらに「大きな物語」を生むプラットフォームとして機能していることがわかる。この「大きな物語」は、その時々の社会や人間の思考、感情に深く影響を与える。それゆえ、人間は芸術を通じて自らの内面を表現し、その結果として創造される物語により、自己を見つめ直すと同時に、社会全体を見つめ直すことができる。それが「なぜ人間は芸術に生きるのか」という問いへの一つの答えと言えよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?