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#237 「栃木労働基準監督署長事件」東京地裁

2009年7月8日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第237号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【栃木労働基準監督署長(以下、T労基署長)事件・東京地裁判決】(2008年10月16日)

▽ <主な争点>
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症に業務起因性はあるか否か等

1.事件の概要は?

本件は、K社の工場において勤務していたXが、同工場における業務の遂行等に際して上司から精神的・肉体的な暴力を多数回にわたって受けたこと等により、心的外傷後ストレス障害(PTSD)* を発症したとし(なお、Xは本訴において、予備的に統合失調症** との主張を付加している)、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づく障害補償給付の支給を請求したが、T労基署長からこれを不支給とする決定(以下「本件処分」という)をされたことから、その取り消しを求めたもの。

* 心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、心に加えられた衝撃的な傷が元となり、後になって様々なストレス障害を引き起こす疾患のこと。

** 統合失調症とは、妄想や幻覚などの多様な症状を示す、精神疾患の一つ。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびK社について>

★ X(昭和42年生)は、平成4年8月、K社の入社試験を受験し、同年10月に採用内定を受け、翌5年4月に同社に入社した。

★ K社は、東京都に本社を置き、建設機械の製造等の事業を営む建設機械メーカーの大手であり、平成5年当時、小山工場のほか、粟津、氷見、大阪および川崎に工場を有していた。

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<Xの入社後から、解雇に至った経緯等について>

▼ XはK社に入社した後、新入社員研修等を受けた後、5年8月、配属希望等を調査するための面接において、「何でもやります」と述べるなどし、小山工場の油機製造部油機工作課(以下「本件部署」という)に配属されることとなった。

▼ Xは同年9月から油機製造部と協力企業の製造の納期、進度管理および在庫管理等を担当する部署である管理工程グループに所属し、A主任の指導のもと、加工ラインでの実作業実習や納期管理の基本実習を行い、加工設備、加工方法の理解や部品名等の理解を深める作業に従事していた。

▼ Xは抑うつ状態、精神不安定の症状が現れ、精神障害を発症し、6年3月中旬より欠勤していたところ、同月下旬、小山工場に出社し、病名について「抑うつ状態(頭痛・食欲不振を伴う)」と記載された医師作成の診断書を提出した。Xはその後勤務をしたものの、同年6月以降は出社せず、自宅で休養した。

▼ Xは同年9月、職場復帰をし、以後、図面の見方、書き方を習得するためCAD操作や改善業務の補助などの作業に従事していたが、同年12月、母親との電話中に意識不明の状態となり、市民病院に緊急入院した。

▼ Xは7年2月、職場復帰し、K社の完全子会社であるT社に出向し、以後、特許関係の資料整理、ワープロによる資料作成の作業に従事した。ところが、Xは10年3月頃から度々欠勤するようになり、11年12月に休職を命じられ、13年12月、休職期間満了により解雇処分とされた。

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<本件処分および処分後の経緯等について>

▼ Xは12年2月、精神障害の発症が業務に因るものであるとし、T労基署長に対し、労災保険法に基づく障害補償給付の支給を請求したが、同労基署長は13年10月、Xの精神障害が業務上の事由による疾病とは認められないとし、これを不支給とする決定(本件処分)をした。

▼ Xは本件処分を不服とし、同年11月、栃木労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、同審査官は14年8月、当該審査請求を棄却する旨の決定をした。

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