雨と月が邂逅する河
御伽噺です。
ある遠い夜のこと
雨は
解けてゆく雲の向こうに
三日月を見つけました
儚げなその三日月に
雨は恋しました
三日月もまた
雨に惹かれていました
互いの気持ちを確かめ合った
雨と三日月は
遠く離れた空を越えて
星に気付かれぬように逢瀬を繰り返しました
雨はある日決心しました
夜や空に叛いても三日月を守ろうと
あなたが居れば他は何も要らない
永久に共にあろう
これは約束された運命だよ
と
しかし三日月は言いました
雨と月がひとつの空にずっと居られる訳はないよ
月は星から
雨は雲から解き放たれることは無いんだよ
と
そして月は夜空の闇に消えてしまいました
月にも想いはあった筈
でも隠れてしまいました
雨は悲しんだ
月のことは忘れられない
諦めることなどできない
この出会いは無意味なものである筈がないと
三日月を想い
信じながらも嘆き
多くの雨を降らせました
雨はやがて河となりました
或る夏の夜
空の闇が晴れて三日月が現れました
緩やかな河の流れ
その水面に
白い三日月が映り
雨と月は邂逅することができたのです
雨の最後の雫が落ちたとき
水面にウォータークラウンが出来ました
雨は月への
変わらぬ気持ちの証として
約束された運命のしるしとして
その唯一の冠を捧げました
月は
冠を受け取ってくれました
雨は
三日月と
美しい夜を迎えることが出来たのです。
御伽噺のような恋のお話。
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