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タチアオイ

思い出していたのは
あなたの長い髪と、はにかむような笑顔
じーじーじーじー
懐古の隙間にあぶらぜみ
どうせなら波音がよかった
あなたがいつも言っていた
あの浜辺を探している

ふらつく足取り
あの日は千鳥足で
あなたが見たいと言い出して、ふたり
海までの下り坂
ひぐらしとタチアオイ
てのひらの熱
ぼくは今日、ひとりきり
てのひらはつめたい

じーじーじー
もはや耳鳴りと化したいのちの音に
現実に戻される、もどりたくない
さっきまでここにいたあなた
幻だったならそれでよかった
まぼろしだけを見て生きるほうが
こんな日々よりもきっと

少しやせたからだを抱きしめた
さいごに笑ったあなたの顔に
今ではもうあぶらぜみのノイズ
現実という塵芥
ぼくひとり、なんで生きている
ひぐらしとタチアオイ
あの微熱とはにかみ
ぼくはここにいる、さみしいんだ
まぼろしよ、どうか会いに来て

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