私的解題-7「軍爭篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら

「7 軍爭篇」プロジェクトの動きに関しての部分です。
ちなみに、有名な「風林火山」は、ここから引用されています。

さて、解題に入ります。
まず、
「プロジェクトは、計画を立てて、メンバーやリソースを集め、方針を示し、理解してもらい、メンバーが一丸となって動くようになるまでの立ち上げのプロセスが最も難しい部分になります。」
→ 「メンバーが一丸となって動くようになるまで」が、記述のとおり難しい部分になります。ただ、ここを超えれば組織的慣性が効き始めるので、経験的にも、ずいぶん楽にものが進むようになります。

続いて
「特に、必要なメンバーやリソースを集めるには時間がかかるので、手持ちの少ないメンバーとリソースで、小さく弱いが身軽な組織をうまく使って、短期間でプロジェクトを立ち上げ、動かすことができれば利を生むことになります。ただ、このように少人数で立ち上げたプロジェクトが、うまくいかなかった場合には、後々の結果に響くリスクを抱え込むことになるので、自らの組織の力量の評価が重要になります。」
→ まず、「必要なメンバーやリソースを集めるには時間がかかる」ので、主要メンバーがある程度揃えばスタートする方法があります。
このような「小さく弱いが身軽な組織」でさっとプロジェクトを動かし、順次補強していく方法をとれば、身軽な分だけコストもかからず、問題が発生しても組織が小さい分、エスカレーションルール等のマニュアルの整備や教育が不備でもなんとかなり、また、層が薄いのでコミュニケーションコストもあまりかからず、伝達対応も簡易にできるので「利を生む」=メリットがありますと言っています。
しかし、このような組織で、現有メンバーのスキルだけでは対応できないような事態が発生し、メンバー全員がその問題にかかりきりになるようなことが起こると、人数が少ない分だけ、並列でプロジェクトを進めることができないため、プロジェクト全体の進捗が止まってしまい、プロジェクトの遅延につながってしまいます。
遅延=過ぎ去った時間=何もしないにも関わらず払ったコストは戻ってこないので(今日、ホテルの空き室が出たからと言って、明日100%以上の稼働を見込むことができないのと同じです)「後々の結果に響くリスクを抱え込む」となります。そのため、「小さく弱いが身軽な組織をうまく使」う場合は、「自らの組織の力量の評価が重要になります」と言っているわけです。

そして、
「リーダがサブリーダやステークホルダーがプロジェクトに参加することで、何の利益を得たいのかを知らなければ、プロジェクトをうまくまとめることはできません。リーダがプロジェクトの対象や範囲をよく理解していなければ、メンバーに適切な動きを指示するはできません。取り組むべきテーマをよく理解しているメンバーがいたとしても、リーダがそのメンバーをうまく活用できなければ、プロジェクトをうまく進めることもできません。」
→ 「リーダがサブリーダやステークホルダーがプロジェクトに参加することで、何の利益を得たいのかを知らなければ、プロジェクトをうまくまとめることはできません。」とは、プロジェクトに参加するメンバーやステークホルダーにはそれぞれの思いがあります。それはスキルアップだったりキャリアアップだったりするわけです。もしかしたら何らかの悪意の意図がある参画かもしれません。
これら、メンバーやステークホルダーの「利益」をリーダーがわかって、彼らが求める利益とプロジェクトの方向性を理解してメンバーを投入しないと、プロジェクトを取りまとめて前に進めることはできませんよ。と言っています。(もちろん「悪意の意図」が潜んでいる場合は、どこかのタイミングで、その「悪意の意図」うまく使って切り離す必要がありますが…)
そして、メンバーを投入するにしても「リーダがプロジェクトの対象や範囲をよく理解していなければ」なりません。でないと「メンバーに適切な動きを指示することはできません。」と言い、「取り組むべきテーマをよく理解しているメンバーがいたとしても、リーダがそのメンバーをうまく活用できなければ、プロジェクトをうまく進めることもでき」ないと言っています。
このくだりは当たり前の話ですが、『参加者の「利益」』に関しては、特に大切なところでなので、意識していただけるとありがたいです。メンバーやステークホルダーがプロジェクトから得ようとする「利益」は、みんな同じ内容や向きを持っているわけではなく、プロジェクトの意思に沿うものばかりとはかぎらなのです。

続いて
「ですので、良いプロジェクトチームとは、無駄な動きをせず、プロジェクトの目標に到達するための利に従って動き、状況に応じてダイナミックに編成を変えることのできるチームともいえます。」
→ いきなり総括的な文言が出てきましたが「孫氏の兵法」によくあるパタンで、前の文章と事後の文章の先取りをしたまとめの部分になりますので、このまま次に進みます。

次の文章は有名な「風林火山」を含む文章になります。
「プロジェクトは 風 → 風の様に素早く、林 → 林の様に静かに乱れることなく、火 → 動き始めれば火のように一気に、陰 → 忍んで不用意に姿を現すことなく、山 → 山のように動ずることなく、雷 → 雷のように、ひとたび現れれば周りを震撼させ、そして、面を確保し、ポイントを押さえ、先を読んで動く事ができないといけません。そして、これらの動きでプロジェクトをどう動かせば、短時間で成果を出せるかを知っているリーダだけが、間違いなくプロジェクトの成果を出すことができます。」
→ 皆さんが耳にしたことある「風林火山」ですね。実際は「風林火陰山雷」だったわけですが…。
短縮形になった理由を調べることがこの解題の目的ではないので、話を進めます。
「風林火陰山雷」はプロジェクトの各々の態を表しているわけですね。「風林火山」は言うまでもないので「陰」と「雷」についてですが、「陰」に関しては今までの解題で何度か出てきたように、必要もなく派手に動き回るな。と言っているわけですね。「雷」に関しては次の文言に掛かっていて、時が来たと見えれば、一気呵成に姿を現し、「面を確保し、ポイントを押さえ」て、次に現れるものの「先を読んで動」け、言っているわけですね。
ある意味、今はやりのフレームワーク、OODAループ[Observe(観察)、Orient(方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取った略称]の先取りのようにも読めますね。ただ、OODAループの有効性がもっと発揮できるのは、味方の損失を無視して、敵に囲い込まれた中を一点集中突破の連続で抜ける(戦術の)ときしか有効ではないと思っています。孫氏の兵法で言っている「面を確保し」といった陣を確定するようなイメージはもっていません。ですので、ただ単にフレームが似ているだけで、本質は違うのだろうと思っています。
OODAで(ウ~ダ、ウ~ダと(笑))話はそれましたが、「そして、これらの動きでプロジェクトをどう動かせば、短時間で成果を出せるかを知っているリーダだけが、間違いなくプロジェクトの成果を出す」に続きます。「これらの動き」とは、「風林火陰山雷」の態と「面を確保し、ポイントを押さえ」「先を読んで動く」ことですね。あとの文言はその通りなので、解題は省略します。

そして補足事項として
「なお、さまざまなタスクに対するコミュニケーションやエスカレーションのルール、役割などのルールが必要なのは、ルールがあることでチームがブレることなく一丸となって課題や障害に対応できるからです。
ルールがあれば、障害や課題が発生したときに、チームはやみくもに突き進んだり、ひるんだりすることなく、ルールに従い一歩一歩確実に歩を進めて対応することができます。」
→ ここは簡単ですね。各種「ルール」があるから「チームがブレることなく一丸となって課題や障害に対応できる」といってますね。逆に読むと「孫氏の兵法」ではスーパープレイヤーに頼るチームではなく、メンバー個々人が活躍できるチームを目指しているわけですね。そのために「ルール」があり、「ルール」によって束ねられた強固な組織ができていれば「チームはやみくもに突き進んだり、ひるんだりすることなく、ルールに従い一歩一歩確実に歩を進めて対応することができ」ると言っています。
そして、
「また、自らの動きによって相手の出方をコントロールできるのものが、プロジェクトの内外をコントロールすることが出来き、無駄なくゴールにたどり着くことが出来るのです。そして、状況の変化を読み取り、自らの行動をコントロールできるものだけが、プロジェクトが進むことで発生する変化をコントロールすることが出来るのです。」
→ 「また、自らの動きによって相手の出方をコントロールできるのものが、プロジェクトの内外をコントロールすることが出来き、無駄なくゴールにたどり着くことが出来るのです。」を言いかえると「無駄なくゴールにたどり着くことが出来る」リーダーは、自らのプロジェクト内部コントロールの影響で、抵抗勢力がプロジェクトに動きを合わせざるを得なくしている=「プロジェクトの内外をコントロールすることが出来き」る者ということになります。
「そして、状況の変化を読み取り、自らの行動をコントロールできるものだけが、プロジェクトが進むことで発生する変化をコントロールすることが出来るのです。」は、「状況の変化を読み取り、自らの行動をコントロールできるものだけが」=環境に合わせて自らを変化させることができるものだけが、「プロジェクトが進むことで発生する変化を」、変化に自らを合わすことなく、変化を自らに沿わして「コントロールすることが出来る」と言っています。
そして、これが「自らの動き」の部分に立ち返り「無駄なくゴールにたどり着くことが出来るのです」に収束していきます。

そして、ここで先に出た「良いプロジェクトチームとは、無駄な動きをせず、プロジェクトの目標に到達するための利に従って動き、状況に応じてダイナミックに編成を変えることのできるチームともいえます」へと立ちかえります。

余談ですが、一般的にプロジェクトはキリスト教的なリニアな時間軸でゴールに向かって、フェーズとステージを突き抜けていくようにイメージされますが、「孫氏の兵法」からみると「太極」の陰陽が決して途切れることなく回り続けるように、そして、永劫回帰のように円環状に同じところに戻ってくるのではなく、毎回違う変奏でフェーズをめぐりながら、次々と違うステージの階梯を昇りつめ昇華していく東洋的な思考のイメージがありますので、そういうイメージを意識して読んでいただければ、ありがたいかなと思っています。

さて、折り返し地点を超えました。これからも頑張っていきます。
よろしくお願いします。

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