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昔も今も、人はラブレターを書いている

インターネットを通じて、パソコン画面越しに男女が恋をする映画が、深津絵里主演・森田芳光監督の『(ハル)』(1996年)である。

これは、今からすると出会い系サイト、もしくはマッチングアプリによる恋愛を描いた作品といえるが、当時、パソコンを通じた恋愛というのは新鮮だった。

この作品以前であれば、恋の想いを伝えるのはラブレター(手紙)だった。つまり『(ハル)』は、恋の想いを伝えるというニーズに対し、その手段が手紙からパソコンに代替した、もしくは代替し得ることを示した映画でもある。

人のニーズは変わっていない

このような、同じニーズを満たす他の製品のことを、マーケティングにおいては「代替財」と呼ぶ。産業や商品カテゴリーにおいて、変化や変革が起きる時、この「代替財」によって引き起こされることが多い。

「洗濯したい」というニーズは洗濯板から洗濯機に変わり、「お米を炊きたい」は釜から炊飯器である。「音楽を聴きたい」は、ステレオコンポやラジカセからウォークマン、そしてiPodやスマホに変わった。

これらは、別の言い方をすれば、人の本質的なニーズは変わっていないということになる。人のニーズを満たす手段が変わっているだけである。

「恋の想いを伝える」ラブレターにしても、平安貴族は短歌でそれを伝え、その後、手渡しの手紙となり、明治以降、郵便で伝えることも可能となった。そして、Eメールで伝えるようになり、今は、LINEやInstagramで伝えることができる。

大昔から、ラブレターという人のニーズは変わっていないのである。

ブルー・オーシャン戦略と本質的ニーズ

ブルー・オーシャン戦略と呼ばれる経営戦略論は、競争市場を脱却して新しい市場を切り開く戦略とされる。しかし、それだけだとブルー・オーシャン戦略の説明としては不十分である。

ブルー・オーシャン戦略の要は、人の本質的ニーズを捉えることだからだ。

ブルー・オーシャン戦略では、戦略キャンバスとアクション・マトリックスという二つのツールが用意されている。これらは、既存の事業や製品の要素を、「減らす」「取り除く」「増やす」「付け加える」ことで、新しい価値を作るためのツールとなる。

この「減らす」「取り除く」「増やす」「付け加える」上で重要なのは、事業や製品における顧客の本質的ニーズを理解することである。

1000円カットのQBハウスは、「髪を切りたい」という本質的なニーズを突き詰め、短時間・低価格を実現したし、格安航空LCCは、「遠くへ速く移動したい」ニーズを突き詰めたサービスとなる。

ブルー・オーシャン戦略において、まず重要なのは、この本質的ニーズを捉える作業であり、これを間違うと、戦略キャンバスやアクション・マトリックスを使って戦略を描いても、間違った答えを導く可能性がある。

顧客が求める具体的手段「ウォンツ」を、さらに深堀りし、本質的なニーズを探っていく。

本質的ニーズを捉える作業を行えば、あとは、そのニーズに応えるため、あれこれと形や手段を変えて考えるアイデア勝負である。

「ペットを育てたい」というウォンツを「育成する喜びを得たい」というニーズに深掘りし、小型ゲーム機で応えたのがたまごっちであり、「野菜を採りたい」というウォンツを突き詰め「野菜の栄養素で健康になりたい」というニーズに応えたのがサプリメントである。

本質的ニーズを捉えるという作業は、このようなヒット商品に限らず、日常業務や生活でも有効である。

何か企画案を考えなければいけない時。今の業務を改善しようとする時。家事作業をもっと便利にできないかと考える時。そのような時、あれがあればよいんじゃないか、こういう機能を加えればよいんじゃないか、といきなりアイデア勝負をするより、そもそものニーズを突き詰めると、新しい発見につながる場合がある。

真っ白な紙の上にいきなり設計図を書いていっても、新しい何かは生まれづらい。

本質的なニーズは何か。

これを突き詰めて考えることで、新しい何かを生み出すきっかけとなる。

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