こどもに向き合うフラットなパートナーとしての保育士さん×保護者のおはなし/イベントレポート
金曜夜のお仕事終わりに軽食をつまみながら、事前に読んできていただいた本をテーマにお話する〈おはなしnight〉。
今回は『0・1・2歳児保育「あたりまえ」を見直したら保育はもっとよくなる!―足立区立園の保育の質が上がってきた理由』 (Gakken保育Books) という本を題材に、保育・幼児教育に関わるお仕事をされている・いた方4人と、普段お世話になっている保護者側の3人、+インターンとしてきてくれている武庫川女子大学経営学部生のお2人にも参加いただき、開催しました。
ゆるめの読書会のようなイメージで企画した会だったのですが、当日は本に出てきたエピソードの話からどんどん広がり、保護者としてずっと保育士さんたちにお世話になってきた身としては「なるほど、そんなことを考えて普段子どもをみてくれていたのか…!」となるお話がたくさん。中でも特に盛り上がったお話を3つほど、ご紹介します。
1 「本当はもっとこうしたいけど…」子ども一人一人の個性・気持ちの尊重と、安全な集団生活と社会性を育むこととの間の、葛藤。
たくさんの子どもたちがみんなでちゃんと靴を履いて移動できたり、ご飯前の手洗いを済ませることができたり、スムーズに園の1日を送る上で大切な、保育士さん同士の連携。もちろん、その連携がスムーズに行われることで、子どもたちが安全に移動できたり、トラブルなく予定通り1日を送ることにつながったり、といういいところもたくさんあるけれど、子ども一人一人が何を感じてそのとき行動しているかを本当はもっと大事にしてあげたいと思うとこれでいいのかなと感じることも。とはいえ、たくさんの子どもたちを同時に、安全にみる上でスムーズな連携が大切という側面もあり、難しく感じるところ。
好き嫌いをしない、残さず食べる、などの食のマナーを育むことも大切な一方で、嫌がってる子どもに無理やり食べさせるのは保育士さんたちだって心苦しい。とはいえ、おうちでは食べる機会のなかったものを園で食べることで食べられるようになったりという「食の出会い」も、保育園が提供できることの一つでもある。家庭でバランスの取れた食事を取れていないこともあるときに、園でバランスの取れた食事を食べられるようにすることだって大事。一人一人のペースで食べさせてあげたい気持ちと、例えばアレルギーのある子に誤食をさせてしまわないようきっちり食事時間や順番を管理する必要性など、毎日の「食」の場面でもたくさんの葛藤があったり。
今回の本にも取り上げられていた、何かおもちゃなどを子ども同士で取り合いになったときのお決まりの「貸して」「いいよ」のくだり。大人だって何かを使いたい、誰かに貸したくない時もあるはずなのに、子どもには「貸して」と言われたら形式的に「いいよ」と言わせることは、本当に正解?保育士さん自身も自分が母親になってから、自分の子どもが好きなおもちゃに集中しているときに、それを言うかな?と考えるようになったというお話も。感情を出せる子もいれば、引っ込めてしまう子もいて、そんな子が自分の感情を大切にできるように寄り添ってあげたい気持ちと、とはいえ集団生活の中で身につけるお互いに気持ちに折り合いをつける社会性も大切で、そのバランスのむずかしさのこと。
あれだけたくさんの子どもたちに向き合う中でも、保育士さんたちが日々細かいところに葛藤しながら接してくださっているのかということがよくわかるエピソードが他にもたくさん。おうちで自分の子ども一人と接しているだけでも「なんて言ってあげるのがよかったかな」「もっとこうしたほうがよかったかもしれない」と反省したり迷ったりすることが多いのに、たくさんの子どもたちを同時にみてくれている保育士さんたちがこんなにも細かいところまで日々考えながら向き合ってくれているのか、、!と思うと、個人的にはますます頭が上がらないなと感じました。いやあ、やっぱりすごいよ、保育士さん。
2 子どもに向き合うプロとしての保育士さんが考える「逃げ場」について。穏やかな気持ちで過ごすのに大切な要素って、なんだろう?
「なんで何回も言ってるのに同じことするの?!」「いい加減にしなさい!」コロナで休園休校になり子どもとのおうち時間が増えた時期、ついつい怒ってしまいすぎて子どもとの関係がギクシャクしかけては反省を繰り返していた方も多いのではないでしょうか(少なくとも私はそうでした…)。
感情的に怒るのはよくない、冷静に話したいと思いながらも子どもに怒ってしまう、このあたりの感情のコントロールの部分について、たくさんの子どもを日々みている保育士さんはどうやって怒鳴ったりせずに、穏やかに向き合われているんだろう…?というお話。
当日はお子さんのいる保育士さんも数人参加してくださっていたのですが、みなさん「園だから、仕事だから、できますよね」と。おうちでは感情的に怒ってしまって反省することもふつうにあるそう。ではなんで園ではそれができるの?ということをお話していると出てきたのが、プロとして仕事として、というところもまずはあるものの、もしかしたら「逃げ場」があるからかもしれない、というお話に。エネルギーが一人だけに向かうわけじゃなくて、たくさんの子どもがいる園という場所だからこそ、一人の子に怒りの感情を感じても、違う子にも目線を配る必要があったり、必然的に感情の向かう先が分散される環境だから、落ち着いて向き合える部分はあるのかもということや、先生同士で困ったときにヘルプを求めたりパスを出したりし合える環境ができているときはより理想的だというお話もありました。
たくさんの子どもたちをにこにこ笑顔でみてくれている保育士さんたちを見て「この人たちは仏様かな…?」と思うこともありましたが、そんな保育士さんたちもお家に帰って親として自分の子どもに向き合うときに感情のコントロールの難しさを感じることもあるとお聞きして、自分だけが鬼というわけじゃなかったのかと少し安心すると同時に(笑)、家庭でも(現実的に難しい部分もあるけれど)「逃げ場」をつくるように意識することはできるかもしれないなと感じた部分でした。
3 上下の関係でも、人質(!)でもない、一緒に子どもに向き合うパートナーとしての、保育者と保護者のフラットなコミュニケーション
いろんなテーマのお話をする中随所で出てきたのが、こういう話を保育士さんと保護者が普段する機会がないよね、もっとあったらいいのに!という声でした。普段からお世話になっている手前、仮に保育園で少し「あれ?」と感じることがあっても、保育士さんのおかげで安心して仕事にいけているんだしまあいいや、と特に伝えることがなかったり、モンスターペアレントみたいに思われたら嫌だなという遠慮もありますよね、という声も(笑)
一方で保育士さんたちからも「誰のおかげであなたたち仕事があるの?」というような態度の保護者もいないわけではないことや(逆のパターンもありますよね)、そこまで極端な方は少ないにしても、お母さんの考えを聞きたいなと思うことがあってもなかなかじっくり話をする機会がなく、園での過ごし方の報告だけのコミュニケーションになってしまいもどかしく感じられることもあるそう。
同じ子どもに向き合うパートナーとして、上下でも人質でもない対等な関係で、もっとフラットに会話できる機会があるといいね、というお話に。この子にとって今何が必要かなということについて、保育士さんが園で見ている目線と、保護者が家で見ている目線とを合わせればきっともっとよくなるのに、というところに、うんうんと深く頷かれている方がとても多かったです。
また、保育士さん同士が職場でフラットに保育について話す場が少ないと感じられている方もおられたり、職場を離れるからこそ、保育士さん同士も、はたまた保育士さんと保護者も、話せることもあるかもしれないね、そういう場がもう少しあるといいね、というお話にもなりました。
さいごに
保育・幼児教育に関わるお仕事をされている方たち同士があるテーマについて自由におはなしできる場を、という趣旨での企画だったのですが、実際にやってみると、特に後半は保育に関わるみなさんと、企画者である私たちはじめ保護者側の人がおはなしをする場になっていました。
お世話になっている保護者の身からすると、保育士さんたちはプロだし、保護者の意見を伝えられても迷惑かもしれない、と遠慮を感じる部分もあったのですが、参加いただいた保育者のみなさんからも、子どもにとってより良い環境をつくっていきたいと願うパートナーとして、もっとフラットに話せる機会があるといいねというご意見をいただいたのがとても印象的でした。
もちろん、普段子どもが通っている園で先生とフラットに話ができるといいなと思うと同時に、そうはいってもなかなかバタバタとお迎えに行っていると機会が少なかったり、遠慮する部分があったりするのも本音。
預かってもらっているという関係性を離れた場で、保育士さんがどんなことを考えて日々子どもを見てくれているんだろう、ということに触れることで、実際に自分の子どもがお世話になっている先生の考えていることにも寄り添いやすくなることにつながるかもしれない、と感じました。
参加してくれていたインターンの大学生の方からの「保育園の先生にご迷惑おかけしてたんだなと感じました」というコメントにみんなでほっこりした場面も(笑)保育者でもない、親でもないポジションでそこにいて、ふと発言してくれることでつくられる空気もあったり。
子どもの育つ環境がより良いものになることを願う同士として、フラットに意見を交わらせる(おはなしする、ぐらいのライトな温度感がほどよい言葉かもしれません)場がもっとあるといいな、つくっていきたいなとあらためて感じた1日でした。
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