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〔ショートショート〕休みの日に妖精はいらない

 今朝のアパートの窓からは、雪が舞っているのが見える。向かい合って並ぶアパートの駐車場で、風が空中に円を描いている。それは、雪が踊るようだった。これなら、妖精がくるりと不規則な動きをすると思うのは仕方ないなと思う。停車する車の上にべっとりと積もる雪が、休日のお出かけを億劫なものに変えたがっていた。

 むかし、ばあさんが言ってたっけ。「祭りの白粉おしろいは子供を獣に変えるためだよ」って。祭りでは獣となって神のもとに、そして、それは日常とは違う。だから、非日常を日常に持ち込まないために化粧をするんだって。確かに、駐車所で雪化粧した車たちは非日常にいるように見えた。そして出かけるには、その鼻筋に塗った白粉を取ってからじゃないといけない。雪かき棒で除雪する自分を想像すると、それだけで面倒臭さが前借でやってくる。こうやって、雪の日の休日はなかなか始まらないのだ。
 とりあえずは、珈琲を入れるためのお湯を沸かす。窓の外を見ていても、昨日の世界にいるままだから。
 伸びをする。パジャマの隙間から、指を入れて背中を掻いた。
 我が家のキッチンは、いつもと変わらない。だから、こんな風に背中を掻きながら伸びたり縮んだりしていれば、お湯は沸く。
 珈琲の入った紙フィルターをお湯が潜り抜けると、もう眠気が飛んだような気がした。そんな珈琲の匂いがするキッチンは肌寒いけど、ちょっぴり気持ちよかった。
 それから、あたまの中で浮かんだお気に入りの曲を検索して、ループ再生した。

 さて、わたしはお化粧して準備しなくちゃ。
 退屈な日常から出ていくために。

 ——少し目を離した隙に、妖精たちは姿を消す。嘘みたいに眩しい太陽が、こちらを伺っていた。

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