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短夜のトキメキ


夜風の心地よい季節になった。

夜のお散歩に心が弾む。


一人暮らしを始めた3年前から、夏夜の散歩の虜になった。圧倒的自由を手に入れた私の、毎年恒例の楽しみのひとつ。なんだか夜のお散歩って、ちょっぴり悪いことをしている気になるのは私だけだろうか。


「夏」ってところも、きっとミソ。他の季節じゃだめなんだ。夏の夜の空気って独特、夏の匂いがする。暑さを手放す、僅か数時間だけの、刹那を堪能するのに最適なのがお散歩だと思っている。


部屋着でこっそり抜け出して、あてもなく歩く。

一人暮らしなんだから、こそこそする必要なんてないのに、それでもこっそりと。


夜風にあたって月を眺める。

流星群の知らせを聞けば夜中繰り出す。

コンビニにアイスを買いに行く。


公園のブランコに揺られる。


夏のプレイリストを聴きながら、誰かと通話しながら、ただただ歩く。


別に特別なことをしているわけではない、のに、心が躍る。変に背徳感を抱いてちょっぴりそわそわするけど、どこか心地いいあの感覚が堪らない。もういい大人なのにね。

それを共有できる人が隣にいたら、なお素敵で。


3年前、友達だと思っていた人とよく散歩した。

共通項が多い人だった。公園のブランコに揺られながら好きなバンドの話をしたり、仕事の泣き言を聞いてもらったり、恋人の相談にのってもらったりした。

でも。ひとつ季節が移ったとき、友達だと思っていたのは私だけだったことが判明した。相手の気持ちに応えられなかったあの日から、関係はゼロになった。今ではどこで何をしているのか、互いに知らない。どうしてるかな、げんきかな。


2年前の夏は、当時の恋人との散歩に心をときめかせていた。

手を繋いでコンビニに行って、彼は決まってガリガリ君かチョコミント味のアイスを買った。たまにパピコを半分こした。手持ち花火を片手に公園に行った。無邪気な笑顔にきゅんとして、線香花火に儚さを抱いた。永遠があると思っていたのに、次の夏は来なかった。やっと思い出になった、夏の刹那。


去年の夏は、まだ失恋から立ち直れなくて、ずっと思い苦しんでいた。

何人かの異性と散歩することもあったけれど恋心は抱けなかった。応えることのできない一方通行に受ける恋心が、それまた苦しかった。利用していたつもりは全くなかったけれど、結果的に傷つけることもあって最低だな私、って思うことも幾度となくあった。


こう書き起こしてみると、私の夏の夜には異性が切り離せないものになっている感じがして、少し嫌だなと思ったり。


まあ、いいや。切り替えよう。



そして季節は巡り、今年も夏が始まろうとしている。

今年の夏の夜はどんなものにしようかな。


できることならば、恋人と愛しの夜を生み出したい。

一緒に肩を並べあってお散歩をしたい。手繋いでくれるかな、暑いって逃げられたら袖でも掴んでやろう。手持ち花火だってしたいし、ベランダでお酒を片手にああでもないこうでもないって言いながら夜に溶け込んでみたい。打ち上げ花火、見られるといいな。


今の恋人と迎える初めての夏。

こころときめく瞬間で溢れかえらせたい。


夏が始まった合図がした。









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