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Design & Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈15.ポルヴォーでの豊かな自然と絵画との出会い〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのアートにまつわるおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。

肌寒くなりはじめた9月上旬に、ポルヴォーへ小旅行に行ってきました。ヘルシンキからバスで1時間ほどで行くことができ、コンパクトで可愛らしいこの街は私のお気に入りの場所です。ムーミンの作者であるトーべ・ヤンソンは、ポルヴォー近くのクルーヴハル島にサマーハウスを持っていたことが知られています。程よい距離感からか、今もポルヴォーにはヘルシンキに住む人のサマーハウスが多くあるようです。


街を散歩していると、花が描かれた可愛らしいポスターが目に止まり、ポルヴォー美術館に寄ってみました。

そこでは、画家のヘルガ・ソンク=マジェフスキー(Helga Sonck-Majewski)の展示が行われていました。エストニアのタリン出身の彼女は、結婚と戦争による夫との死別を経験した後、1943年にポルヴォーに移り住み、薬剤師として働いていたそう。そのうちに、芸術家としての活動に魅力を感じ始めた彼女は、1950年にフィンランド芸術アカデミー校に入学します。表現主義、特にフィンセント・ファン・ゴッホやポール・ゴーギャンに興味を抱いていたようです。

ヘルガは、1956年にポルヴォーで最初の展覧会を開催しました。長年に渡る活動により、ポルヴォーの芸術分野において中心的存在となっていた彼女は、1966年のポルヴォー芸術協会設立にも関わっています。

Early Self Portrait (制作年不明)
Self Portrait (1950)

今回の展示作品は、ポルヴォー出身の画家、ヴィゴ・ヴァレンスコルド(Viggo Wallensköld)が2018年にポルヴォー美術館に寄贈したコレクションで、肖像画と花をテーマにした風景画で構成されています。彼女の描く柔らかい線の肖像画を見ると、20世紀に活躍したフィンランド人女性画家、ヘレン・シャルフベック(Helene Schjerfbeck)を彷彿とさせます。

Portrait of Carl Eric Sonck (1965)

こちらは、1965年に描かれた、彼女の親族であるカール・エリック・ソンク(Carl Eric Sonck)のカラフルな肖像画。カールの本業は皮膚科医ですが、それに加えて、タンポポを研究する植物学者でもありました。タンポポとその花を表すような黄色で描かれた肖像画を見ると、彼の研究へのリスペクトが見て取れます。美術の収集家でもあったカールは、ヘルガのパトロンでもあったそうです。

Orange Lily (制作年不明)

彼女の作品はどれも優しくもカラフルな色使い。花をモチーフにした作品には、自然を愛していたことが表れています。特にタンポポがお気に入りだったようで、こちらの作品にもタンポポの綿毛が描かれています。

Red Flowers in a Vase (1978)

ヘルガの初期の絵画は、落ち着いた色調のスタイルが特徴的でしたが、やがて彼女のパレットは明るくなり、色彩が輝きはじめました。肌寒くなった季節に、暖色で彩られた彼女の作品を見ていると心があたたまるようでした。


美術館の後は、1983年からあるカフェ、Tea and Coffeeroom Helmiでほっと一息。アンティークなもので囲まれたカフェで、ひょっとしたらヘルガも来ていたかも!と思うとタイムトリップしたような気持ちです。オレンジクリームムースケーキには黄色のパンジーのお花が載っていて、彼女の絵のような色合いでした。

18世紀に建てられた古い建物が並ぶポルヴォーの旧市街は、このような素敵なお店が軒を連ねています。Seiji Kokeguchiさんの記事では、ポルヴォーのクリスマスの街並みを見ることができますよ。


カフェの帰り道に川沿いを歩いていると、なんとカワウソ(のような動物)に出会いました。可愛くキョロキョロと何度も私たちを気にしている様子で、見ているととても癒されました。木の葉を顔につけながら忙しそうにしていたので、邪魔しないようにそっとその場を立ち去りました。

自然を描いたヘルガ・ソンク=マジェフスキーの絵画、秋めいてきたポルヴォーの景色とカワウソとの遭遇、豊かな自然に出会えた1日でした。


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