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Design&Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈04.ヘルシンキ・ビエンナーレへ〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。

フィンランド発、現代アートの国際展

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ヘルシンキ市の設立記念日(ヘルシンキ・デー)の6月12日から9月26日まで、現代アートの国際展『ヘルシンキ・ビエンナーレ』が開催されています。当初は2020年に予定されていましたが、1年延期され今年開催されました。

豊かな自然の中に歴史的な都市遺産が点在する旧軍用島のヴァッリサーリとヘルシンキ本土を舞台に、フィンランドをはじめ世界各国から、41組のアーティストが参加。サイトスペシフィックアート(特定の場所に帰属する作品、またはその性質のこと)やサーミ人アーティストの参加など、地政学的位置・文化的歴史・多様な環境に関連した作品やインスタレーションが展示されています。

テーマは「世界の海はひとつ(The Same Sea)」。この言葉には「あらゆる行為と森羅万象はつながっており全体を支えている」という相互依存の考えが込められているそうです。


島の自然とアートを巡る

1 会場へのフェリー

さっそく私も行ってきました。ヘルシンキの港からフェリーで20分。久しぶりの晴れということもあり、家族連れを中心に会場行きのフェリーは満杯。船内でトランプをしたり、おしゃべりを楽しんでいる家族を眺めながら波に揺られ、会場となるヴァッリサーリに着きました。

2 ヴァッリサーリ島

島ではあちこちに作品が展示されていて、時にはあまりにもさりげなくて気付かないことも。現在は屋内の作品を見るには人数制限がされているので、少し時間がかかりますが、その分作品を見る前にたっぷりと予習ができます。回るには5時間程あるとちょうど良い印象です。


画像13Janet Cardiff & George Bures Miller, FOREST(for a thousand years...)

森の中で、森が1000年の間で晒されてきた環境の音を体感する作品や、

画像14Dafna Maimon, Indigestibles

地下室を消化器官で形成した作品。

現代アートは取っ付き難いという人もいるかもしれませんが、ヘルシンキ・ビエンナーレは、自然豊かな島の景色を楽しみながら、ゆっくりとリラックスして鑑賞することができると思います。また、サイトスペシフィックな作品では、島の自然とアートの関わりを感じながら巡ることができます。


ここからは、ヘルシンキ・ビエンナーレで出会った、私のお気に入りのアーティストとその作品をご紹介します。

●Alicja Kwade(アリシア・クワデ)

画像13Alicja Kwade, Pars pro Toto, 2018

ポーランド出身で、現在はベルリンを拠点にするアーティスト。彼女の彫刻作品は感覚に疑問を投げかけ、私たちの身の回りの日常現象について理解することをテーマにしています。

ビエンナーレには2点の作品が展示されていて、1点は太陽系を石に見立てた「Pars pro Toto」。太陽系が収縮されて自分達が宇宙の一部であることを体感できます。多くの子供達がある石に乗ったり、寝そべったりして楽しんでいました。彼女の彫刻の表層にある模様は、木の年輪のように石が何万年も時間をかけて形を作ってきたことを映し出しています。

画像13Alicja Kwade, Big Be-Hide ,2019

2点目は石が鏡越しに向かい合っている「Big Be-Hide」。両面が鏡になっていて、そこに映り込む景色が似ているので、鏡を覗き込むとどちらの背景を見ているのか、鏡が透けているのか、わからなくなりました。

この彫刻は、ヴァッリサーリの石と人工的に作られたレプリカの2つの石を鏡の両側に配置していて、宇宙における私たちの立ち位置を問いかけ、自然界の絶え間ない変化に着目しています。感覚の錯覚に敏感になって、普段感じていることに注意を向けていこうという気持ちになりました。

画像7Alicja Kwade, Trans-For–Men (Fibonacci),2018

彼女の作品はEspoo Museum of Modern Art (EMMA)にもあり、以前から好きなアーティストです。EMMAの作品では、石が侵食されていき、形を変えていく様子が表現されていました。


●Hanna Tuulikki(ハンナ・トゥーリッキ)

画像9Hanna Tuulikki, Under Forest Cover, 2021

フィンランド人アーティスト。フィンランドの民間伝承にある、人が自然の中で行方不明になったり、場所が見慣れないものになったり、すべてが逆に動いたりする現象である 「metsänpeitto(森の覆い)」を取り上げています。

作品のある小さな洞窟に入ると、どこかとても居心地が悪く不安な気持ちになりました。幼い頃に、おばあちゃんの家の近くの山で遊んでいたら、昼は綺麗で親しみのある森が、日が暮れるにつれて違う顔を見せてその暗闇に飲み込まれそうになる、そんな感覚を思い出しました。大人になって忘れかけていた自然への脅威を静かに思い出した作品でした。


●ATTAKWAD

画像10ATTAKWAD, Hype, 2021

匿名アーティストユニット。2018年に森で出会った二人は一緒に作品を制作します。この森の白樺の木や松の木に生えているキノコの一種をモチーフにした作品。

森を散歩していると、よくこのキノコが杉の木についているのを見かけます。木に寄生するきのこは、医療用に育てられているものが多く、森のオーナーの許可なく採ったり食べたりすることができず、森の中ではブルーベリーや食用のキノコほど注目を集めません。この作品に出会い、キノコの美しい一面に目を向けようという気持ちになりました。


アートを通じて感じるサステイナブルマインド

私の通っているアアルト大学は戦略テーマのひとつに、サステイナブルを掲げています。環境保全をしようというだけではなく、経済、化学、アート、教育あらゆる視点から人と環境にとって持続可能なアイディアやサービス、製品をいかに作り出すかをテーマにしている授業が大学には多くあります。

ヘルシンキ・ビエンナーレでは、多くの作品が「自然と人間の繋がり」をテーマにしています。人間の存在・自然の脅威と同時に、お互いが依存しあっている関係をアートを通じて体感し、あらためて自分事と捉えることができました。そして、自然の小さな変化に目を向けるようになり、環境への意識がさらに高まりました。


ビエンナーレでは、デジタルやバーチャルのプログラムも用意されています。こちらでは、現地を訪れても見ることができない角度で作品を見ることができたり、アーティストのインタビューなどもあります。みなさんもぜひオンラインでお楽しみください。


スクリーンショット 2021-04-05 18.12.41のコピー

Instagram: ma10ri12co

https://note.com/finlandryugakuki/

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