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Design&Art|デザインを覗く 〈01.線とリズム〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。


これまで6回にわたってデザインの視点をお伝えしてきた「デザインの眺め」シリーズは、今回から「デザインを覗く」とシリーズ名を変えての再スタートです。「デザインの眺め」では空の上から眺めるような、鳥の視点でフィンランドデザインを幅広くご紹介してきましたが、新たにスタートする「デザインを覗く」では、地表に目を凝らして、フィンランドのデザインエッセンスをのぞいてみたいと思います。

フィンランドの自然にひそむ、デザインの種をさがす旅に出かけてみませんか。きっと、フィンランドデザインのさらなる魅力を発見できるはずです。


さて、第1回目となる本コラムのテーマは「線とリズム」です。まずはこちらの写真をご覧ください。

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これは、ヘルシンキの自然公園ランマサーリ(Lammassaari)で撮影をした写真です。フィンランドでは、このような白樺の風景が日常にあり、デザインなどのモチーフとしても度々選ばれています。白樺の木はサウナで用いるヴィヒタ(枝葉を束ねたもの)に加工されたり、樹液はキシリトールの原料としても活用されることから、国民にはとても馴染みのある植物なのです。ぱっとこの写真を見ただけでも、なんとなくフィンランドらしさが感じられるのではないでしょうか。

では、このような森の風景から感じる「フィンランドっぽさ」とは、いったい何なのでしょう。

写真の中にある外形線を、ちょっとなぞってみます。

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写真が少し抽象化されて、どこか見覚えのあるようなパターンが見えてこないでしょうか。ただのシンプルな線の集まりに過ぎないのに、有機的で温かみが感じられます。

このように風景から線を取り出してみると、自然の持つ線の揺らぎとリズムをグラフィカルに表現することができます。そのナチュラルな線の装いと要素の反復=リズムはフィンランドデザインに隠されている大事なエッセンスのひとつなのです。

ラプアンカンクリの「KOIVU」シリーズも、白樺の風景をモチーフとしていますが、木々の縦線とリズミカルな木目が軽やかでとても美しいですよね。


この他にも、フィンランドの風景にひそむ線とリズムはたくさんあります。

例えば、白樺の枝と葉っぱが生み出す線とリズム。粒の小さな白樺の葉っぱは画面全体をリズミカルに埋め尽くし、枝は揺らぎながらものびのびとした線を描きます。

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ヒエタニエミ(Hietaniemi)の海岸線。波が描く地と海の境界線は滑らかで、真っ直ぐに伸びる水平線と調和します。

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雪と大地が生み出すやわらかな曲線は、雪国ならでは。

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水平に伸びる湖と森と輪郭線はのびやかで、多様な線が重なり合います。

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このように、風景の中には美しい線とリズムがたくさんひそんでいます。もちろん、それ自体はフィンランドに限ったことではありませんが、「自然の持つ線をデザインへと展開した」いう点はフィンランドならではと言えるのではないでしょうか。フィンランドデザインからは、自然を身近に感じていたいという人々の純粋な欲求と、自然への敬意の心が感じられます。

今の時代、コンピューターがあれば真っ直ぐな線も規則的なレイアウトも簡単に表現できてしまいます。事実、私たちの身の回りにある現代デザインのほとんどは、手書きではなくコンピューターで描かれた規則的な線から生まれたものです。しかし、だからこそ私たちは心のどこかで自然的なものに安らぎをを求めていて、フィンランドデザインのナチュラルな線に惹かれてしまうのかもしれません。プロダクトを通して作り手の手仕事や、モチーフとなった自然と繋がることができるのは、とても豊かな体験ですよね。

今回は、私たちが見てきたフィンランドの風景を紹介しながら、それらにひそむ線とリズムを紐解いてみました。これらの風景から、なにか連想されるフィンランドデザインはあったでしょうか。このコラムが少しでもフィンランドデザインのエッセンスを「のぞく」きっかけに繋がっていたら嬉しいです。

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instagram:@lumikka_official