見出し画像

Design&Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈08.雪景色とサーミ博物館〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。

1 飛行機からの景色

先日、フィンランド北部の都市・イナリ(Inari)に行ってきました。イナリはノルウェーとの国境近くに位置し、フィンランドの観光都市としては最北と言われています。

3 イナリ川

こちらはお昼の12時に撮った写真です。ヘルシンキとは異なり、一面が雪で覆われていました。歩くと雪のサクサクという音だけが静寂の中に広がります。「深々と」というのはまさにこういうことを言うのでしょう。マイナス10度から20度ほどで冷凍庫並みに寒いのですが、雪があるとどこか暖かく感じるのが不思議です。


雪景色に想う絵画

4 ペッカハロネン

そんなイナリの雪景色を見ていたら、ペッカ・ハロネン(Pekka Halonen)の『Winter Landscape』という作品を思い出しました。ペッカ・ハロネンは、以前ご紹介したガッレン・カレラなどと並び、19世紀後半から20世紀前半のフィンランドアートの黄金期を代表する画家と言われています。フィンランド北西部の町・キナミ(Kinahmi)の雪景色を描いたこの絵からは、パウダースノーの柔らかな質感や雪が放つぬくもりが伝わってきます。マイナス27度の中で描いたと言われているこの作品、防寒具が発展した現代でも寒いのに、当時はどのように寒さに耐えていたのかとても気になってしまいました。作品は今、アテネウム美術館に収蔵されています。

画像5出典:https://media.thisisgallery.com/works/maruyamaokyo_02

ペッカ・ハロネンが雪景色を描くより100年以上前の日本では、円山応挙が『雪松図』に雪で覆われた松の木を描いています。19世紀後半のヨーロッパでは「ジャポニスム」とも呼ばれる日本芸術ブームの流れがあり、フィンランドにも日本の浮世絵や絵画に影響を受けたアーティストが多くいました。ペッカ・ハロネンもその一人と言われています。積雪に耐える木の逞しさがどちらの絵からも感じ取れて、ふとこの『雪松図』を参考にしたのかなと想像しました。

6 ジャポニズム


サーミ博物館へ

8 サーミ語分布

そんなイナリの雪景色の中を歩き、サーミ博物館・SIIDA(シーダ)へ行ってきました。サーミ族はノルウェー・スウェーデン・フィンランド・ロシアの北部に住んでいる先住民で、それぞれの地域ごとにサーミ語があります。

9 サーミ博物館

10 サーミ博物館

サーミ博物館では、彼らの昔の暮らしを再現しています。私が訪れた日は博物館が改装中で展示が全て外にあり、住居やサウナ、トナカイを匿うテント、熊を獲るための罠などがありました。午後1時に訪れたのですが、他に滞在者はおらず、暗がりの住居の中に展示してあった蝋人形に驚いてしまいました。

11 サーミ衣装

現在もイナリにはサーミ族が住んでいて、トナカイの肉や皮を売ったり、観光業を営んだり、様々な商いをして暮らしています。私が泊まったホテルはサーミ族の家族が経営していて、伝統的な衣装が飾られていました。サーミ族は、あらゆる自然のものに精霊が宿っていると信じていると言われています。日本でも樹齢の長い木を祀ったり、神が宿るとして石と祀ったりすることを思い、ここからも日本とフィンランドの共通点を感じました。

12 トナカイのカップル

車で走っていると、所々にフェンスが見えましたが、それはサーミ族が飼っているトナカイが別の場所に行かないように管理するためのものだとか。途中でトナカイのつがいを見つけました。彼らは雪の下にある苔を食べているようで、あちこちにその跡があります。2頭のうち1頭は白いトナカイで、運転手さんが「白いトナカイを見れると幸運が訪れるよ!」と教えてくれました。


日本とフィンランド、自然
のつながり

13 ヒンメリ

ある日、学校でグループワークを一緒にしていたフィンランド人の友達に、「どうして日本人とフィンランド人ってこんなにお互いの文化に興味があるんだろうね」と聞かれました。なんと、グループ4人中全員が日本語をかつて勉強していたことがあったのです。日本人とフィンランド人は、シンプルさに魅力を感じるデザイン嗜好やシャイな人柄なども共通していると思いますが、今回の旅をきっかけに、「自然と人間は繋がっている」という考えも共通して根底にあるのかなと思いました。雪景色の中でアートや先住民の文化に思いを馳せ、日本とフィンランドのつながりをあらためて感じた旅でした。

スクリーンショット 2021-04-05 18.12.41のコピー

Instagram:@ ma10ri12co
https://note.com/finlandryugakuki/

この記事が参加している募集