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古道具は全て誰かの「居心地」を提案しているのだと思う。



先週の何気ない平日。
涼しげな風が吹く気持ちのいい日で、平日だというのに祝日と同様の来店があった。来店が多かったことは特別珍しいことではなく、旅行で岡山に来ていた人もいれば仕事が休みだった人、たまたまいろんな人たちの日程が重なり、たまたまキミドリへ行こうと思ってくれた日だったのかもしれない。「今日はこういう日か」とワクワクした。

レジ回りでお皿を洗って値付けの用意をしていたところ、入口前に人影が見えた。スラっとした佇まいで珍しそうな顔で古道具をじっと見ていた。

どうやら日本人ではなさそうだ。
立ち止まった二人は英語を話していたようだが、訛りが入っているようでうまく聞き取れない。(聞けたからってわかるってことでもないけど)映画で見て聞いたような、あくまで感覚的ではあるけどブリティッシュイングリッシュを話していたと思う。(クセみたいなのがあったから多分そう)。

透き通るような目をした「透明感のある」と表現したい女性と、「紳士」という言葉が似合いすぎてしまう男性だった。二人はTシャツにハーフパンツといったラフな格好だったが、こういう人たちが着ているラフはラフではない(見えない)。そう感じてしまうほどオシャレで、とても謙虚な姿勢。僕は「 Can I help you?」と学生時代に覚えたカタコトイングリッシュで話しかけると、二人は手を合わせながら「Thank you arigatougozaimasu!」とカタコトの日本語で答えた。”ちょいと失礼しますね”と言わんばかりの低い姿勢で店内へ入る姿が妙にTHE日本人という印象を受けた。

他のお客様とすれ違う時は、何度も会釈をしながら「Sorry」と言って前を通る。なんというか、郷に入っては郷に従へというか。日本人よりも日本人な姿を見せる美男美女。これはこれで尊い気持ちになった。



広瀬店は路面側から入ると奥の店舗に気付きにくい、だから手前の店舗だけをぐるっと見て帰ってしまうことが多いのだ。そんな経験がたまにあった僕は「奥にもお店があるんだよ」とどうしても伝えたかったので、これはあってるのか?と思いながら「There is another store in the back」と伝えたら「Oh,cool thank you」と言われた。これは通じたのか…気になって翻訳し直したら一応言いたい内容は伝えれていたらしくひとまず安心した。二人はそのまま奥の蔵へ入っていたのだが、入口前のリアクションを見る限りちゃんと案内できてよかったと思った。

この日はワンオペの日だったため、奥でお客様の様子をずっと見ているわけにはいかず、しばらくレジ内でできる作業をしていた。すると、1時間弱経ったタイミングで奥から二人が戻ってきて何やらテンションが上がっている様子。会話が早口すぎて何も聞き取ることができなかったが、人が好きな事を語っている時のそれで、相当満足したのだろう。

路面側の店舗へ帰ってくるや否や、食器をじっくりと見始めた。ものの数分で欲しいものをたくさん見つけ、途中「買いたい商品を吟味したいから、どこか1箇所に集めたい」と言い出し、たまたまイベント準備で開けていた下駄箱があったので、「あそこに集めていいよ」と伝えた。

どんどんどんどんお皿や花瓶が集まってくる。幅2メートルもある下駄箱の天板はあっという間にモノで埋め尽くされ完全にレイアウトされた。二人のための個展になっていたのが面白くて、選んでは並べて、一歩引いて顎に手をあて考える人になる。僕は何も話しかけずただひたすら見物していた、二人がこの一連の動きを同じように何回も繰り返す様はシュールで面白くて、嬉しくなった。

そういえば、いつかのロシア人老夫婦が来店してきた時もこんな事あったっけかな。その老夫婦が選んだモノと今目の前で下駄箱に集められたモノがほぼ似ていたのだ。その偶然もまた面白かったのだが、この人たちは日本の道具をどう見ているのだろう、どんなデザインとどんなモノに惹かれているのだろう、「価値」をどう見ているのか気になって仕方なかった。

僕が悶々と気になることを考えているうちに、二人は「よしこれでOKだな」とお互いに相槌したのが見えたので、多分この質問するかも、と用意していた例文をそのまま読み上げた「Would you like to buy them all?」「OF COURSE! let's take it! really enough haha」二人の満足そうな顔を見た時は僕も嬉しくて「来てくれて本当にありがとう」と伝えた。

ちなみに、彼女はしっかりと値切ってきたので「そういうところはちゃっかりしてるのね」とそれもそれで面白かった。

なかなかの爆買いをしてくれたので商品を包むのに、少し時間が必要だった、どうせなら少し質問してみようと思って翻訳をアプリを開いた。相手も(ほとんど聞き取れなかったから)翻訳アプリを使ってくれた。



今回は旅行で雑貨屋さんをたまたま見つけたのだった。お土産がてら色々みていたら欲しいものが止まらなくなってしまったそうで選びすぎたと。
デザインがユニークで面白い、使うことに喜びを感じるとかなんとか。


日本の「つくり」という技術は高級ブランドのような扱い、その素晴らしさを自国に持ち帰る。モノが日本のフィルターのような役割となって家族や友達へ伝えられていく。この「つくり」を「伝えて」異国の地で「使う」ことは心地が良いのだとか。誰かがキミドリへ届けてくれたモノたちが、海を超えることだってある。素敵な話じゃないですか。

今日もどこかで誰かの暮らしに日本の古道具は寄り添っているのだろう。この機会を通して思ったことは、僕らは「古道具」というモノを販売しているけれど、それはきっと「その人にとっての居心地」を提案しているのだと思った。「この湯呑みにお茶を注いで、陶器の温かみを感じながら楽しみたい、日本のスタイルに少しでも寄り添ってみたい」これらは全て、道具から派生され「居心地」に変化したのだと思った。



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