詩「monochrome」
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一風変わり者の少年が居た
世俗から四方八方を
少なくとも十里ほど離れて孤立していた
この現実の
夥しい絶望が渦巻いた世界を眺めるたび
心を失ってしまうのだと云ふ
ゆえに少年は
上瞼と涙袋を頑なに縫い合わせている
その胸に秘めた純真な色彩を護るため
心の周囲に城砦を築き鉄条網を張り巡らせて
この世の魑魅魍魎から遮断している
ある朝__
少年は縫い合わせた瞼を
ばっさりと断ち切っていた
久しぶりに見る現実世界の青空は
こんなにも晴れ渡っているのに
少年のこめかみや掌から
ポリグラフ検査のエナメル線が絡らまって
検出計の針が虚しく動揺している
上辺だけの薄っぺらな現実世界は
徒に感情をかき乱す
ふたたび少年は両瞼を閉じて
痛々しいほどの手つきで瞼を縫い合わせる
その瞼の傷痕からは
ドクドクと血の涙を流している
「monochromeのまゝでいい。」
と呟いた
少年の心は
あまりにも深い溝で隔てられている
大人のたれもが
愛で埋めて尽くす架け橋を
与えてやれなかったのだろうか
所詮は漫然と俗世を生きる凡夫心の
瘡蓋に覆われ過ぎた心では
少年の痛みを感じることさえも
出来なくなってしまっているのだろうか
ただひたすら
暗闇の中で心の灯火を見つめる
少年の夢を見た
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画像: Anton Corbijn
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