見出し画像

詩「monochrome」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

一風変わり者の少年が居た

世俗から四方八方を
少なくとも十里ほど離れて孤立していた

この現実の
おびただしい絶望が渦巻いた世界を眺めるたび
心を失ってしまうのだと云ふ

ゆえに少年は
上瞼と涙袋を頑なに縫い合わせている

その胸に秘めた純真な色彩を護るため
心の周囲に城砦を築き鉄条網を張り巡らせて
この世の魑魅魍魎ちみもうりょうから遮断している


ある朝__
少年は縫い合わせた瞼を
ばっさりと断ち切っていた

久しぶりに見る現実世界の青空は
こんなにも晴れ渡っているのに
少年のこめかみや掌から
ポリグラフ検査のエナメル線が絡らまって
検出計の針が虚しく動揺している

上辺だけの薄っぺらな現実世界は
いたずらに感情をかき乱す

ふたたび少年は両瞼を閉じて
痛々しいほどの手つきで瞼を縫い合わせる
その瞼の傷痕からは
ドクドクと血の涙を流している

monochromeモノクロームのまゝでいい。」
と呟いた

少年の心は
あまりにも深い溝で隔てられている

大人のたれもが
愛で埋めて尽くす架け橋を
与えてやれなかったのだろうか

所詮は漫然と俗世を生きる凡夫心の
瘡蓋かさぶたに覆われ過ぎた心では
少年の痛みを感じることさえも
出来なくなってしまっているのだろうか

ただひたすら
暗闇の中で心の灯火ともしびを見つめる
少年の夢を見た

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

画像: Anton Corbijn

この記事が参加している募集

スキしてみて

ほろ酔い文学

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?