詩 「ルルヴェ」
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砂埃の舞う荒廃した街並みに
初老の男が訪れる。
( この街もずいぶんさびれたな。)
もうかれこれ60年が経つ
まだ少年だった頃の
かつての学舎は
廃校となっていた
古びた校舎の片隅にある
相合傘の落書きを
そっと指先でなぞってみる
深く眼を閉じて
瞼の裏側に浮かぶ
遠い少年だった頃が蘇る__
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un, deux, trois. . .
つま先で水面を滑るように踊る
少女の姿に見惚れていた
シフォン巻きのスカート揺れる
凪いだ水面に彩葉が落ちて
波紋が広がるように
少年の頃の恋心はさざめいて__
まとめ髪から美しく伸びる
少女の白いうなじ
少し汗ばむほつれた濡れ髪から
ヒースの薫りが華やぐ
荒涼だった少年の心に
春風が駈け抜ける
少女への思慕で満たされた
若葉の頃を想い出す
ふたりきりのフロア
つま先立ちの接吻に
軽い眩暈を覚えた
rouge à pointes__
微かに震えたルルヴェで立つ君の
かつて愛した幻影を追う
un, deux, trois. . .
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かつての少女は
わたしの妻となり
やがて天国へと旅立っていった
ひとり取り残され
過ぎ去りし日々を重ねて
年老いた心には風もない
透き通る水面の上
想い出は水鳥のシルエット
過去は永遠に立ち尽くしている__
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Photograph:Tomoyo Harada
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