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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第4話〜D様宅〜

本日のお客様はD様。

D様はもうすぐ88歳。
米寿のお祝いにお掃除のプレゼントをしたいと、お孫さんからご依頼を受けクリーニングに伺いました。

D様宅は昔ながらの日本家屋。
4部屋をつなぐ長い縁側から見るお庭には、お手入れが行き届いた木々やこけら落としもあり、とても素敵な雰囲気。

「掃除なんか、自分でできるのになぁ」

ムッとしたように言いつつ、お孫さんからお預かりした手書きのお祝いメッセージをお渡しすると、顔がほころぶD様。

「優しいお孫さんですね」

D様は嬉しくなったのか、9人いるというお孫さんたち一人一人のお話を、30分ほど聞かせてくださいました。

お孫さんからご依頼があったのは、1日まるごとプラン。

事前に内容を決めず、お掃除屋さんを1日(約8時間)貸し切り、気になるところを次々にキレイにしていくお掃除メニューです。

なので、どの部分のお掃除を頼まれても大丈夫なように、床を洗浄するポリッシャーからエアコンクリーニングに使う高圧洗浄機まで、お掃除道具をいろいろ用意して伺いました。

D様に案内していただいたお部屋は、台所以外はぜんぶ和室。
毎日ほうきと雑巾掛けをしているとのことで、床はとてもキレイでした。

汚れが気になっているところをお伺いすると、
「天井とお風呂場の掃除がなかなか……」

お風呂場を見せていただくと、タイル目地に生えたカビが目につきます。
まずはお風呂場全体に漂白剤を塗り、浸透させている間に天井や壁のホコリ取り。

脚立に乗ったついでに、チカチカしていた電球の取り替えなども行い、D様に喜んでいただきました。

喜んでいただけるのは嬉しいのですが……
時間内にテキパキお掃除したいのに、作業中ずっとD様がそばにいらっしゃって、話しかけてきます。

ひとつ作業を終えるごとに、
「お茶を飲まんね?お菓子を食べんね?」
次々に差し入れようとしてくださいます。

「お気遣いありがとうございます。でも、お掃除の時間が少なくなってしまうので、お昼休憩の時にいただきますね」

やんわりお断りしつつ作業を続行する私。

それでもお茶を勧めてくるD様に根負けして、一旦、休憩することに。

ぽかぽか陽の当たる縁側でいただいたお茶は、まったくエグみがなくスッキリとした味わい。

「このお茶、とても美味しいです!」

「これ、じいさんが裏の畑で作ったお茶でなぁ。手摘みで収穫した最後のお茶なんだべ。収穫した後…ひとりで逝っちまってなぁ……」

「そうだったのですね……そんな貴重なお茶をありがとうございます」

それからD様は、マシンガントークで昔の思い出を語り始め……
気がついたらお昼を知らせる鐘がなっていました。

「お昼も用意してあっからさぁ」

ほとんど作業をしていないのに、ご馳走になってばかり。

申し訳ないので、
「せめてお皿は洗わせてください」
そう言って、お盆に食器をまとめて台所へ。

長い回廊の廊下をぐるりと周り台所へ入ると、テーブルで食事をしている男性がいます。

(D様以外、誰も住んでいないはずなのに!)

「すみません、どちらさまですか?」
おそるおそる尋ねた私。

その男性は驚いた様子で立ち上がり、
「あんたこそ…誰ね?」
ぶっきらぼうな声で聞いてきました。

「私はD様のお孫さんにお掃除を頼まれて……」

「ばぁさん、ボケてるからのぉ。いつもワシが掃除しとるんじゃ」

(えっ…D様の旦那様?亡くなられたのでは……!?)

混乱する私に、男性が続けて言いました。

「ばぁさん、ワシが死んだと思い込んどって話しかけても知らんぷりや。この通り、畑仕事もまだまだしとる」

男性は左腕のシワシワの力こぶを見せながら、話を続けます。
裏の畑で作業した後、台所の勝手口からお昼を食べに入って来たそう。

念のため、お孫さんへ電話をかけ確認しました。

「え〜!またいるんですか?」
電話越しにお孫さんの大きなため息が聞こえます。

「その人、20年前に浮気して出て行ったおじいちゃんなんです。今は近くのグループホームに住んでいますが、ボケて時々おばあちゃん家に来るんです。」

お孫さんからグループホームへ連絡していただき、迎えにきた職員の方にD様の元旦那様を引き渡しました。

D様は元旦那様が浮気したショックで『おじいさんは病気で亡くなった』と記憶を塗り替えてしまわれたそうです。

人間の記憶ってしっかりしているようで曖昧なもの。

自分を守るために都合のいいように記憶を変換することもあるのだなぁと思いつつ……
無事にお掃除を終え、D様宅を後にしました。

それにしても……
私が縁側で美味しくいただいたあのお茶は……

20年前に収穫したお茶ってこと!?

今となっては確認しようもありませんが、お茶が美味しかったことだけを記憶に残そうと思います。


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