「お掃除屋さんは見た！家の裏側はミステリー」第７話〜G様宅〜
本日のお客様はG様。
G様のご依頼メニューは、引越し先のクリーニング。
通常、賃貸物件には入居前にお掃除を入れますが、もっとキレイにしてほしいとのご希望でした。
現場に伺うと玄関にクリーニング済みの紙も敷かれていて、ざっと室内を見たところ、住むには困らないように思えます。
でも、G様は……
「このままだと荷物が入れられない」
そうおっしゃいます。
「どのあたりが気になりますか？」
G様にお聞きすると……
・押入れの角にホコリがある
・靴箱の棚板がザラザラする
・窓サッシの上部に汚れがある
・換気扇カバーがベタベタする
・お風呂のパッキンがカビで変色している
・トイレタンクの中が汚れている
・柱をウェットティッシュで拭くと黒くなる
などなど。
たくさん出てくる箇所をメモして、作業開始！
G様自身、「潔癖症なんです」とおっしゃられていましたが、綺麗レベルの基準がとても高い方なのですね。
これはお掃除屋さんとして、腕がなる案件です。
一度クリーニングはされていますが……
窓や棚板など外せるものはぜんぶ外して洗い、ネジ１本１本もブラシ類でこすり、水回りはピカピカ光るように磨き上げました。
最初の段階でも十分だと思いましたが、ひいき目で見てもキレイになっています。
「いかがでしょうか？」
G様にご確認いただくと、
「プロの方に頼んで良かったです！」
ニコニコ喜んでいます。
私もがんばった甲斐があったな〜と、満足して帰りました。
でも後日……
「キレイになってないところがある」
再度、G様よりご連絡いただきました。
内心、「え？あんなにキレイにしたのに？」
そう思いましたが、現場に伺って確認。
すると……
「洗面台のスキマにホコリがある」
洗面台と洗濯機置き場のスキマはキレイにしたはず……
一緒に確認すると、G様は歯医者さんが使うデンタルミラーを取り出して突っ張り棒の先に取り付けて、洗面台の裏をのぞいています。
その小さなミラーには、確かに洗面台の裏のホコリが写っていました。
そこは……盲点でした。
というか、洗面台は取り外せないので、通常は見えるところだけのクリーニングで対応しています。
「こういうところのホコリが後で出てくるとイヤ！」
G様が頑なにそうおっしゃるので……
高いところを掃除する時に使う、角度を自由に変えられるフレキシブルな静電気ホコリ取りを使って、洗面台の裏をフキフキ。
再度デンタルミラーで確認したG様になんとかOKをいただき、その日は帰りました。
しかし、またまたG様よりご連絡があり……
「畳の裏に髪の毛がある」
とのことで、６畳の畳をパートさんと一緒になんとか持ち上げ、その下の床を掃除機とコロコロでキレイにして帰りました。
（※通常は畳の上だけのお掃除です）
さすがにもう連絡が来ることはないだろう。
そう思っていましたが……
二度あることは三度あるもの。
またまた呼ばれた私は、その日一緒に仕事をしていたお掃除仲間も一緒に、G様宅に伺いました。
「いかがなさいましたか？」
作り笑顔で、G様にご挨拶。
「ちょっとこれ見てよ！」
G様が指差したところは、壁にある室内電気のスイッチ。
そこは中性洗剤も使ってキレイに拭いたはず……
近づいてみても、どこが汚れているかわかりません。
お掃除仲間が「スイッチですか？壁ですか？」
と汚れの箇所を確認してくれました。
「わからないの？コレよコレ！」
G様が指摘したのは……
スイッチカバーに刻まれている、電気メーカーの社名部分のへこみにある汚れでした。
サイズにして、0.1mmほどの茶色い点。
（ミクロの汚れにこんなに大騒ぎするなんて！）
心の中でため息をつきながら、
「失礼いたしました。すぐに落とします」
スイッチカバーに細く刻まれた社名。
ウエス（ぞうきん）では汚れに届かなかったので、私は車にブラシを取りに戻りました。
するとお掃除仲間が追いかけてきて、
「このお客さんはきっとまた細かいことで呼び出す。クリーニング代を返して手を引いた方がいい」
そうアドバイスしてくれました。
持っている一番細いブラシでも汚れに届かず。
車に常備している裁縫セットの針の先でようやくミクロの汚れを取り除き、納得していただきました。
そして、お掃除仲間のアドバイス通り、
「私たちにはG様の望むレベルのお掃除はできません」
そうお伝えし、クリーニング代を返金したいと申し出ました。
「全額は受け取れない」
というG様と相談して、料金の半額を受け取っていただき、敗北感を感じながら帰りました。
去り際、
「また年末大掃除の時にお願いします」
そうG様に言われましたが、もう私たちが引き受けることはないでしょう。
スイッチカバーを見ると思い出す。
私の記憶に刻まれた、ミクロの汚れ。
「お願いだから、もう呼ばないで〜〜〜」
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