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保育園で夫が園児に命を狙われた話

保育園には様々な個性を持った子供たちがいる。
我が息子「福太郎」はダウン症児であるため、保育園を選り好みする余裕がなかった。

私たち家族は田舎のわりに保育園の多い地域に住んでいるのだが、息子の受け入れを表明してくれた保育園はたった一つだった。

私も一応親なので暇なときにはインスタで、同じくダウン症を持った子供を育てているお母さんたちの投稿を眺めることもある。

インスタ内では、ダウン症の子供を保育園側に温かく受け入れてもらえたという投稿ばかりだったため私は「イケんじゃん」と、すっかり余裕ぶっこいてしまっていた。

ところがふたを開けて見れば受け入れを表明してくれた園は1つだけ。
おお…そうなんだ。若干困惑する私。
あれ?インスタではダウン症だからという理由で保育園に断られたエピソード聞いたことなかったけどな…

夫は呆れたように言った。
「たいたいちゃんのその情報源全部インスタでしょ。浅すぎ」
年に数回しか発動しない夫の知的モードON。
私には掛けてもいないメガネをくいっとするスマートな夫の幻が見えました。

まあ、田舎だし保育士さんサイドの人員の問題など色々な事情があるのだろう。
インスタを信じすぎていたため驚きはしたものの、一か所でも受け入れてくれるのであれば何の不満があろう。
我々夫婦は受け入れて下さった保育園にありがたく入園を決めた。

その保育園では年齢ごとの「クラス」という概念はあるものの、ほとんどの時間を全ての年齢の子供たちが一緒の空間で過ごすというスタイルをとっている。

息子はいつも年上のお兄ちゃんたちのお世話になっているようだ。
夫が迎えに行くと「福太郎君パパ!福太郎君の帰りの準備手伝ってあげるね!」と夫の顔をすっかり覚えた子供たちが我先にと飛びついてくるらしい。
さすが犬猫子供にはよくモテる我が夫。

保育士さんが言うには、特に自身に弟や妹がいない子供たちが、疑似弟として息子をとても可愛がってくれているらしい。
そんな話を聞くたびに「ありがたいねぇ」「優しい子供たちがいっぱいいるんだねぇ」と心が温かくなる。

その日夫がいつものように息子を迎えに行くと、年上のお兄ちゃんが息子の相手をしてくれていた。
微笑ましく見つめながら帰り支度をしていると、夫の目の前で息子がお兄ちゃんの顔に手を伸ばした。
「あ…っ!」
慌てる夫。

うちの息子には人の顔を触る癖がある。
時には悪気なく爪でひっかいてしまうことがあるため爪は常に短く切っておくようにしていた。

「あー!ごめんね!」
頬を触られた子供に夫が謝ると、その子は夫にこう言った。
「T君パパ!ごめんじゃないよ。福太郎君はこうやって遊んでいるんだよ」
感動で(内心)泣き崩れる夫。
その話を聞いて(内心)泣き崩れる私。

私は思わず、見ず知らずのその子が、この先永遠に幸せでありますようにと神に祈りを捧げた。

子供とはなんと美しく清らかな存在か。

保育園の先生方が普段から園児たちにそう説明してくれているんだなぁと、息子を取り巻くあたたかな環境を垣間見たような気がした。

また別のある日、夫がいつものように息子を迎えに行き、帰る準備をしていた時だ。

息子の着替えやおむつの整理をしようと夫がロッカーに近づくと、幼い声がした。
「誰だあいつ!」
「ダレダアイツ!」

えっ?と思い声のした方を見ると、ロッカーの隣に位置するトイレの中から夫を窺う眼光鋭い二人の男児の姿があった。
一人は5歳くらい、もう一人は2歳くらいだったという。

5歳児が言った。
「あいつ殺そうか?」
(何故だ?!何故そうなる?!)
ピヨピヨの2歳男児が頷いた。
「コロス!コロス!」

夫はほうほうの体で逃げ帰ってきた。
「保育園児怖えーよ」
話を聞いた私はもちろん大爆笑である。
2歳児の口から出る「コロス」は大人を恐怖と驚愕の谷底に突き落とす。

保育園にはかくも個性的な子供たちがいることよ。

天使も殺し屋も自然に共存しているこの場所で、息子には逞しく成長してほしいものである。

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