虚無日記 2023/3/15
昨日はホワイトデーだった。
同時に、彼女の誕生日でもあった。
以前、誕生日とホワイトデーが一緒だとちょっと損かもね、なんて僕が言うと、彼女は「プレゼントも2つ用意してくれていいんですよ?」と悪戯っぽく笑ったっけ。
ホワイトデーは恋人たちにとって特別な日だ。
でも、特別な日だろうと社会人にとっては仕事のある平日に変わりない。
だからこそ、誕生日プレゼントは毎年ホワイトデー前の休日に一緒に選ぶようにしていた。僕だけで選ぶと変なモノ渡してくるからってさ。信用ないよな、全く。でもそんな彼女のハッキリとした物言いが僕は好ましかった。
出勤中。「今日は早く帰ってきてくださいね」なんていう彼女からのラインに、「善処します」と文字を打ってから、「帰り遅くなるかもだからご飯は先に食べておいてね」と付け加える。
会社につけばホワイトデーらしく、女性社員にバレンタインのお返しとして雑貨や茶葉、チョコレートを渡していく。でもそれ以外はいつもどおり。今日も歯車の一つとして、周りの回転に急かされながら与えられた役割を熟す。上司くんから先日と真逆の指示を出されて内心ブチギレながら修正したり、退勤後に仕事振られてブチギレながら会社戻って仕事したりしてる内に、気付けば時刻は22時過ぎ。いつもならまだ仕事しているところだが、ホワイトデーなんだしと覚悟を決めて今度こそ退勤する。今から仕事の連絡が来ても全部無視しよう。
ほんとに退勤後に上司くんからスカイプでお仕事の依頼が来たが、既読無視した。
23時過ぎ家につき、ダイニングに向かう。テーブルにはサランラップのかかった夕飯と彼女が待っていた。手つかずの夕飯を見て、「先に食べてて良かったのに」と僕が笑うと、彼女はむつけたように「誕生日くらい……一緒にご飯食べたかったんです」と唇を尖らせる。どんなにしっかりしていても、まだまだ子供だな。そう微笑ましく思いながらも、彼女を待たせてしまったことに申し訳無さを覚える。
ジャケットを脱ぎ部屋着に着替え、彼女とともに食事を摂る。初めて出会った頃から何かと世話を焼いてくれた彼女だが、まさか料理まで作ってもらうようになるとは、当時の僕は想像もしてなかっただろうなぁ。
僕の会社での代わり映えの無い出来事と、彼女の学校での掛け替えのない青春の出来事を交換し、大切な時間は過ぎてゆく。
そして食事も終わって一息ついたところで、僕は彼女に渡すもう一つのプレゼントを取り出した。なんてことない、コンビニでも買えるような品物だ。でも今日という日を少しでも特別にしたくて、帰り道で買ってきたんだ。
そう言って僕が手渡すと、彼女は――ユウカは少し驚いた顔をして、その後喜色を湛えて微笑んだ。先生も、気が利くようになったんですね、って。
俺「感謝の気持としては不十分かもしれないけど……受け取って欲しいんだ」
ユウカ(CV:俺)「もう、こんなことしてもお小遣いは増やしませんからね」
俺「あはは、こりゃ手痛いな。そんなつもりじゃないよ。ユウカには本当にいつも助けられてるしね」
ユウカ(CV:俺)「そうですよ。だから、先生には私がついてないとダメなんです。……これからもずっと」
俺「それって……」
ユウカ(CV:俺)「次は結婚指輪、期待してますからね」
俺「は、はい……///」
やれやれ。来年は誕生日にホワイトデーだけじゃなく、婚約記念日まで重なっちゃうな(笑)
ユウカ、これからは二人の悲しみも喜びも……全部因数分解していこうな!
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