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詩作習作

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#創作

緑深く突き刺さる軟足

吐き、飽きが違えて鳴く空の
夏季、呼気が途絶えて明く空の
絞り絞れて千切れるほどに
筋は違えど血の色深し

新緑もまた新緑の
溶けぬ声こそぼとりと落ちて
不格好な手足をバタバタさせて、目が
くらくらするほど若い山。

絶え絶えなる息をするほどばらばらと、結びの管は解かれて

汗と脂と糞の流れ出たる、からだ、体が溶け出して

指の先、足の先、一つ一つの管が窒息で泣いて、破れて割れて流れ出す。

ひっ

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夜凪の旅路

20平米もない
小さな居間に一人分の布団を敷いて
高くはない天井をじっと見つめるように
二人の体が横たわる

雨戸越しに、虫の声が聞こえてくる

絡み合う指先の
柔らかな冷たさに
ただ二人当てもない静かな夜の海を
板戸の上で漂っているかのような
底のない心細さを思わされる

オレンジ色の暗い明かりが
四方の壁を鈍い灰色に照らすのを見ると
誰もいなくなった暗い暗い夜の海を
二人箱舟で彷徨っているかの

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ヴォージュヤンヌと白い犬

ヴォージュヤンヌと白い犬

テーブルクロスを庭先で払うとき、
白、
緑、
白、
灰、
と視界の色が互い違いに変わる。

明るい灰色の霧に覆われた山間の村で、
年の瀬の気配を感じる冷たく湿気った週末。

昼食の後の気だるい体を霙を吐き出す冷気が纏い、背中に感じる部屋の暖気に思わず身震いする。

視界の端には、白く愛くるしい姿のミヌ、犬のことだが、が落ち着かなく縦に横に揺れるテーブルクロスの端を、興味深げに眺めていた。

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バーバヤーガの夕暮れ

深く差し込んだ橙色の光が、
濃い群青の砂漠の空を執拗に照らしている。

西の丘はその背後に背負った橙色の光に焼かれて、真っ黒な影を砂漠に落とす。

群青色と橙色とが争って、濃厚な卵白のごとく浮かぶ雲を一つ二つと染め上げる。
暗い暗い夜がやってくるのを知りながら、
今一時はその迫り来る孤独を忘れて
回り続ける地球を見ている。

シンとした、うるさいほどの沈黙。
騒がしいほど無口な黄昏の色。

その手

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枯渇

何を食べても満たされない
空腹が怖い
空いた胃袋はそのままわたしの脳みその空白になる
どんなものを食べても本質的に
満たされない

***

蛍光灯が埃っぽさを殊の外引き立てる改札を抜ける。
我が家は歩いて1分の至近にあるアパート。
ひとしきり一人で飲んで、食べて、六千円払って帰ってきたのだ。
居酒屋のメニューを前菜からメイン、シメまで一通りなめて、まあ大したことない味だからそのままかきこむように

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河童淵

河童淵

暗い橋の下に、いつも河童がいた。

他府県から流れてくる支流が合流して、海へと流れていく大きな大きな河。

いくつもの鉄橋が横たわり、時には鉄道を、ときには自動車を、右へ左へと流していく。

その橋の下。

葦やススキが鬱蒼と生い茂り、年がら年中乾くことのないケチな湿地。

河童は、迷い込んでくるウミネコや百合鴎を日がな一日見つめていたり、天気のいい日にはコンクリートの堤防に物を干している時もあっ

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藤の蜜蜂

5月の風が、高いところを過ぎて行く。
目の前の水面に照りつける、お天道様の煌めき。

その下をタガメが泳いで行く。

気楽なもんだなぁ…

セツは痛くなった首を少し上に向けた。
水の煌めき、泥、タガメ、カエル、
そして、恐ろしいほど澄んだ青。

セツの視線に映るものはずっと変わらない。
ここは静かだ、家族の声も蛙の声もすごく喧しいのに、
ここはとても静かだ、と思った。

指先を泥の中に突っ込んで、

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