相談委員長の考えごと

相談委員長の考えごと 第9回~できることとできないこと~

私たちは、NPO法人京都自死・自殺相談センター Sottoです。
京都で「死にたいくらいつらい気持ちを持つ方の心の居場所づくり」をミッションとして掲げ活動しています。
HP: http://www.kyoto-jsc.jp/

Sottoが行っている活動は幅広く、根幹となる電話・メールによる相談受付に加え、対面の場での居場所づくり活動、広報・発信活動などがあります。
各活動は委員会ごとに別れ、日々の活動を行っています。
今回から、電話相談を担当する「相談委員会」の委員長である「ねこ」さん(もちろんあだ名です)の、Sottoの活動を通して考えることを月刊連載としてお届けします。

Sottoの立ち上げ当初から活動に関わり、Sottoの文化を形づくることに貢献し、現在は電話相談ボランティアの養成を担当しているねこさん。
そんな立場から、Sottoの活動や、死にたいという気持ち、人の話を聞くということなど、様々なことについて考えることを語ってもらいます。
この連載が、読んでくださる皆さんにとって新しい気づきを得たり、死にたいくらいつらい気持ちについて理解を深めたりするような、そんなきっかけになれば幸いです。

第1回はコチラ→相談委員長の考えごと 第1回~死にたい気持ちについて~
前回はコチラ→相談委員長の考えごと 第8回~何をわかろうとするか~

相談委員長の考えごと 第9回~できることとできないこと~


「世界を救うことはできなくても、俺の目の届く範囲では誰も死なせない…!!」

 少年漫画にありそうな、主人公の決め台詞のイメージです。私は成り行きでやってきたクチなので、自殺を減らすだとか、特定の誰かのためにというような大層な動機はありませんでしたが、相談員を志望する方の多くはやはり、自殺を止めたい、という思いをもってこられます。
止めるとか生かすという発想は結果的に邪魔になるわけですが、ここでは割愛します。

実際に、研修を受けた後、電話口の相手の支えになれることを知ると、日常生活や普段の人付き合いにおいても、何かできるように思えてきます。
しかし残念ながら、どれだけたくさんのトレーニングを積んでも、必ずしも身近な家族や友だちみんなを支えられるというわけではありません。

 もちろん、相手の立場で発想することや、わかってほしいだろう気持ちに注意を払うことによって、ほかの人が察しきれないようなことに気がつくことはあります。
ただ、相手との関係が親密であるほど良い相談相手でいることが難しくなるのも事実です。
相談員として、つまり第三者として接する場合と、そうでない、相手との関係性がある場合とで決定的に違ってくるのは、自分の都合の部分かと思います。

付き合いがあるということは、少なからず利害関係もあり、その人が元気でいてくれないと困るとか、以前の性格や振る舞いを知っているからこそまた元通りになってほしいとも思えてくることでしょう。
また、ボランティア活動であれば時間も決まっていて、自分がシフトに入っていなくても、別の仲間がその役割を担ってくれます。

しかし、プライベートな相談となると、昼夜問わず四六時中かかりきりになることもあれば、相手が目の前で自傷・自殺行為に及ぶ可能性もあります。さらに、相手の味方で居続けることは、すなわちその人の敵とは同じく敵対関係になることすらあります。
冷静にとは言わずとも、果たして自分の都合抜きに対応ができるでしょうか。

 さらに、関係者がみんな知り合いであるということは、こっちを立てればあっちが立たずということが容易に起こります。丸く収めようとしたり、立場などを考え出すと、100%相手の味方であることは難しいのです。
知らない相手には、無理もないですねとうなずけることでも、自分の身内には、どうしてそんなことを言うのかと反発してしまうのは、わがままや甘えでもあるのですが、そういうエゴはお互いにあり、話をややこしくするものでもあります。

また、身内だからこそ、線引きも難しく、過剰な期待に応えきれなくなることもあります。たとえそれが誤解やすれ違いであっても、裏切られたという印象を与えてしまったり、逆恨みされることすらあります。

 これだけいろいろネガティブなキャンペーンをすれば、まるで下手に関わるべきではないと言っているように見えるかもしれませんが、これはあくまでも、研修を受けたからと言って、自分なら何とかできる、悩む人をみんな救えると自惚れてはいけませんよという自戒を込めた記述です。
できることはたくさんありますが、同じくらいかそれ以上にできないこともたくさんあるのです。
だからできることを精一杯やり、できないことはできないと断るのもまた誠意です。
大切なのは自分の役割を履き違えないことと、それを発揮できる環境や条件があるという事実を知ることです。

相談委員長 ねこ

つづき⇒第10回「うまいとかへたとか
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