京都便利堂

美しいものを美しく再現する。私たち京都便利堂は美術分野一筋に130余年間歩み続けた蓄積…

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美しいものを美しく再現する。私たち京都便利堂は美術分野一筋に130余年間歩み続けた蓄積を未来へと繋ぎます。 オフィシャルオンラインショップ:www.kyotobenrido.com/

マガジン

  • 京都便利堂ものづくりインタビュー

    手ごろな商品を通じて美術をより身近に親しんでいただきたい――。 それぞれの作品世界を大切に生かし、本当の良さを伝えられるもの そして日常のシーンで楽しくご使用いただけるものをと考え 便利堂は企画・デザインから制作まで妥協のない姿勢で商品づくりに取り組んでいます。普段は表に出ることのない便利堂の商品づくりの裏側をたずさわるつくり手の声をご紹介していきたいと思います。 京都便利堂ニュースレターで掲載している「京都便利堂ものづくりインタビュー」のバックナンバーです。ニュースレターへの登録はこちらからhttps://bit.ly/3bGN2l8

  • 折々の絵はがき

    好きな作品を手のひらの上で気軽に鑑賞できる「絵はがき」。 ゆっくり眺めていると、いままで気が付かなかったあらたな作品の魅力に出会えるかもしれません。1枚の絵はがきを取り上げ、みなさんと一緒に作品世界に入り込んでみたいと思います。 京都便利堂ニュースレターで掲載している「折々の絵はがき」のバックナンバーです。ニュースレターへの登録はこちらからhttps://bit.ly/3bGN2l8

最近の記事

便利堂ものづくりインタビュー 第17回

第17回:ハリバンアワード クリスティン・ポッターさん 聞き手・社長室 前田 ハリバンアワード2023最優秀賞を受賞されたクリスティン・ポッターさんにコロタイプとの出会い、ものづくり体験などについてお話を伺ってきました。 ―――ハリバンアワード2023の最優秀賞受賞、おめでとうございます!  本当に素晴らしい賞に選んでいただいてありがとう。私がこうして日本に来るのは2回目、25年ぶりということもあり、今回の滞在をものすごく楽しみにしていました。お招きいただきありがとうござ

    • 折々の絵はがき(58)

      ◆絵はがき〈散策〉 菊池契月◆ 昭和9年 京都市美術館蔵    女性の美しい佇まいに、どこかですれ違ったらきっと振り返るだろうなと思いました。短い髪がふわり、春風に揺れています。のどかな陽ざしは午後でしょうか。鮮やかな橙色の着物があっさりとした顔立ちによく似合い、縞柄はすんなりとした手足をより長く見せています。桜には新芽が顔を出し、まだ大人の入り口に立ったばかりといった彼女の初々しさをそっと引き立てているよう。淡い色の瞳はわずかに異国の香りを漂わせ、一重まぶたと切りそろえ

      • 便利堂ものづくりインタビュー 第16回

        第16回:山本修さん 聞き手・社長室 前田 長年の経験と地道な研究で挑んだ、コロタイプのエコロジー化についてコロタイプ研究所所長の山本修さんにお話を伺ってきました。 ―――「便利堂コロタイプ研究所」では、コロタイプマイスターである山本さんが、所長として日々研究に取り組まれています。この研究所とは、どのような役割を担っているのでしょう?  研究所には3つの役割があります。ひとつは、皆さんにコロタイプを知っていただく、学んでいただく場としての「コロタイプアカデミー」。次に、コ

        • 折々の絵はがき(57)

          ◆〈竹〉福田平八郎◆ 昭和16年頃 京都国立近代美術館蔵  どこかの竹林でしょうか。竹は競い合うように空へとその背を伸ばしています。姿は凛々しく、しっかりと広く張った根が思い浮かびました。描かれた7つの竹は色や太さもそれぞれ微妙に違います。ひんやりと冷たく固い肌に浮かび上がる模様。つるりとしていたりざらざらだったり、そっと触れるときっと手触りも違うのでしょう。  京都には随所に竹林があり、中にはうっそうと生い茂る竹藪も多くあります。そっと足を踏み入れるとそこには思いのほか冷

        便利堂ものづくりインタビュー 第17回

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        • 京都便利堂ものづくりインタビュー
          20本
        • 折々の絵はがき
          57本

        記事

          折々の絵はがき(56)

          ◆〈花卉図画帖 桃〉中村芳中◆ 細見美術館蔵  一年でもっとも寒い二月。ダウンコートを着こみ手袋をはめ、白い息を吐く日々はもうしばらく続きそうです。とはいえ暦の上では立春を迎えました。立春。この二文字を見るとどんなに寒くとも「…そうか、春か」と少し先の未来に目を細めるような気持ちになるのが不思議です。冷たい空気の中、木々には生まれたての新芽が顔を出しています。草木の芽生えに気が付くと自然の営みにわけもなくじんとして、愛おしさにおのずと笑みが広がります。  この一枝には桃の花

          折々の絵はがき(56)

          便利堂ものづくりインタビュー 第15回

          第15回:写真工房 山内崇誠さん 聞き手・社長室 前田 明治時代に開設された〈便利堂写真工房〉は、今も続く文化財撮影専門のスタジオとしては、日本で最も古いもののひとつです。伝統の撮影技術で写された写真は、便利堂商品にも生かされています。職人技を受け継ぐ撮影技師、山内崇誠(たかあき)さんにお話を伺ってきました。 撮影しているのは便利堂の「タネ」 ―――山内さんには、本誌の最初の見開き記事〈アートのある暮らし〉で、毎号すてきな「美術商品のある風景」を撮っていただいています。

          便利堂ものづくりインタビュー 第15回

          折々の絵はがき(55)

          ◆〈雪に白鷺〉小原古邨◆ 昭和2年 ボストン美術館蔵  曇り空からこぼれるように降る雪は、どこか白鷺たちのかけらのようにも見えます。凍てつく寒さのなか、鳥は何を思うのでしょう。澄み切った空気は、わずかに立てる羽音さえ運んできそうです。遠く離れた場所から彼らを見つめた古邨は、佇まいの美しさに見とれ、雪が降り出すとその美しさがいっそう際立ったことに、一人息を呑んだに違いありません。  画題の「雪に白鷺」は「闇夜に烏」などと同様に「見分けがつかないこと、また目立たないことのたとえ

          折々の絵はがき(55)

          折々の絵はがき(54)

          ◆美術干支年賀 《富士に龍図》◆  波がしぶきを立ててうねり砕ける荒れ狂った海の中から、一匹の龍が姿を現し、身をくねらせながら空をぐんぐん昇ってゆきます。雲を突き抜けた彼の視線の先には霊峰富士が屹立しています。巨大な龍に掛け軸はさぞかし窮屈なことでしょう、不思議なことに描かれた黒雲は富士山の方へとゆっくり流れだし、その雲と共に龍は画面をするりと抜け出ようとしています。  その昔、龍は「龍神」と呼ばれ、水を司る神とされました。寺院の天井などに描かれるのは堂宇を火災から守る意味

          折々の絵はがき(54)

          折々の絵はがき(53)

          ◆〈雪に暮るる寺島村〉川瀬巴水◆  雪はまだ日のあるうちに降り出したのか、あたりの景色を一変させました。絵はがきから伝わってくるのは怖いくらいの静けさです。こんな日に一人で外を歩いていると、通り過ぎる家々にともる灯りがいっそう暖かく目に映ります。早く帰ろうと気が急くものの、雪に慣れていない足元はゆっくりとしか進むことができません。さぞかしもどかしいはずですが、遠くから見ると、この雪景色をこんな風に独り占めしている贅沢さを少しうらやましく感じました。  空を見上げると、雪はま

          折々の絵はがき(53)

          便利堂ものづくりインタビュー 第14回

          第14回:便利堂本店 安野店長 聞き手・社長室 前田 美術とものづくりをこよなく愛し、便利堂の幅広い商品を知り尽くす心強い店長。居心地のよいお店づくりの秘密はどこにあるのでしょうか。 ものづくりの現場が好き ―――安野店長は長い間、京都文化博物館便利堂ミュージアムショップにお勤めでした。 ミュージアムショップの求人をそれまで見たことがなかったので「なんだかおもしろそうだな」と思い応募しました。去年の春に閉店するまでおよそ6年間、勤務していました。 ―――博物館でのお仕

          便利堂ものづくりインタビュー 第14回

          折々の絵はがき(52)

          ◆絵はがき〈重文砧蒔絵硯箱〉(部分)◆  思わず息を飲む、繊細巧緻な蒔絵の技法。そっと触れてみたいと叶わないことを考えました。これは秋の夜、夫婦が「砧打ち」をしているところです。砧打ちは冬支度のひとつで、反物を「砧」と呼ばれる台に乗せ、槌でたたいて繊維をほぐす行為のこと。この作業は秋の風物詩として能の題材にされたり、和歌に詠まれたりしました。月明りの届く軒先近くに腰を下ろした二人は静かに言葉を交わしているのでしょう。息を合わせて手を動かす様子は仲睦まじそうで、こんな秋の夜の

          折々の絵はがき(52)

          折々の絵はがき(51)

          ◆絵はがき〈長旅のはざまで〉上村淳之◆  薄紅色に染まる世界はまるで夢の中のよう。散ったばかりの紅葉が美しいテキスタイルみたいに野へ彩りを添えています。季節は秋。鳥たちのそばでは赤とんぼが飛び、こおろぎや鈴虫など、季節の虫たちがのんびり過ごしているかもしれません。澄んだ空気に高い空、うろこ雲に、踏むとかさかさと音を立てる落ち葉など、この季節のささやかな楽しみが一年ぶりに思い起こされました。たった一枚の絵はがきがもたらしたそんな豊かなひとときがうれしくて、ますます季節の移り変

          折々の絵はがき(51)

          折々の絵はがき(50)

          ◆絵はがき〈梨木通〉長谷川良雄◆  京都御所の東に位置する梨木神社。その名前は旧町名の梨木町に由来しています。梨木通は、今出川通りのひとつ北の通りから神社までをつなぐ南北の短い通りで、寺町通の一本西に京都御所に沿って通っています。この通りはその昔、朝夕参内する公卿たちの参内道として使われていたのだとか。描かれているのは、おそらく梨木通の今出川を上がったあたり、北のつきあたりに幸神社(さいのかみのやしろ)が見える路地でしょうか。眺めていると、目でスケッチをするようにゆっくりと

          折々の絵はがき(50)

          折々の絵はがき(49)

          ◆絵はがき〈新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図〉月岡芳年◆  夜中、なにやらいつもと違う気配に「…ん?」と目を覚まし、背後にこんな風体の生き物?がいた日には…! 怖い、怖すぎる。もはや叫ぶことすらできず腰を抜かしてその場から動けなくなりそうです。しかもかなりの接近戦。こんなトラウマは一生消えそうにありません。というか誰?そしてなぜ?いったいどこから?聞きたいことは山のようにありますが果たして言葉は伝わるのでしょうか?  しかし、絵の中で今まさに刀を抜こうとしている源頼光

          折々の絵はがき(49)

          折々の絵はがき(48)

          ◆コロタイプ絵はがき〈季趣五題 なつさかり 旅みやげ第一集 房州岩井の浜〉川瀬巴水◆  海は凪いでいます。しかし山の向こうにはもくもくと入道雲が立ち上り、夏の気配が色濃く伝わってきます。まだ朝の早い時間なのでしょうか。にぎやかなはずの夏の海には人気がなく、ただただおだやかな時間が流れています。砂浜はきっともう温かいのでしょう。素足に触れる細かい砂のなめらかさを思い出しました。  場所は房州。現在の千葉県南部にあたり、岩井海岸は房総半島の南に位置しています。この辺りは浦賀水

          折々の絵はがき(48)

          折々の絵はがき(47)

          ◆絵はがき〈いでゆ〉小林古径◆  立ち込める湯気、その瑞々しい粒子の一粒ひとつぶが髪や肌を包んで、二人を静かに輝かせています。「気持ちいいね」と湯舟で漏らした声はしっとりと湿度を含み、いつもとは違う音で二人の耳に届いたでしょう。何もかもをぼんやりした輪郭に仕立てる湯気が、この光景をどこか夢のように見せています。「いでゆ」とは温泉のこと。女は肌だけでなく眼からもお湯を味わうかのように、沈めた腕を眺めています。  ふと目をやると、大きく切り取られた窓の向こうには新緑が広がって

          折々の絵はがき(47)