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折々の絵はがき(58)

◆絵はがき〈散策〉 菊池契月◆
昭和9年 京都市美術館蔵

  

◆絵はがき〈散策〉 菊池契月◆

女性の美しい佇まいに、どこかですれ違ったらきっと振り返るだろうなと思いました。短い髪がふわり、春風に揺れています。のどかな陽ざしは午後でしょうか。鮮やかな橙色の着物があっさりとした顔立ちによく似合い、縞柄はすんなりとした手足をより長く見せています。桜には新芽が顔を出し、まだ大人の入り口に立ったばかりといった彼女の初々しさをそっと引き立てているよう。淡い色の瞳はわずかに異国の香りを漂わせ、一重まぶたと切りそろえた前髪に感じられるのは和の雰囲気です。
 2匹の犬は色違いの首輪をつけてもらい散歩を満喫しています。しかしリードがついているのはなぜか1匹だけ。その子はまだ子犬なのか「早く行こうよ」とでもいうようにリードをぐいとひっぱっています。一方、赤い首輪の子はおとなしく穏やかそのもの。もしかすると二匹は親子なのかもしれません。きっと長く飼われてきたのでしょう。いずれもどこか飼い主に通じる気品を漂わせています。
 菊池契月は古典に学んだ歴史上の人物画を得意としましたが、昭和期には現代の女性を画題とした作品も制作するようになりました。モデルの女性は菊池家にやってきた息子のお嫁さんだそうです。彼女のすこし緊張したような面持ちにはそんな秘密があったんですね。

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