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折々の絵はがき(51)

◆絵はがき〈長旅のはざまで〉上村淳之◆

〈長旅のはざまで〉
上村淳之 平成24年 京都文化博物館

 薄紅色に染まる世界はまるで夢の中のよう。散ったばかりの紅葉が美しいテキスタイルみたいに野へ彩りを添えています。季節は秋。鳥たちのそばでは赤とんぼが飛び、こおろぎや鈴虫など、季節の虫たちがのんびり過ごしているかもしれません。澄んだ空気に高い空、うろこ雲に、踏むとかさかさと音を立てる落ち葉など、この季節のささやかな楽しみが一年ぶりに思い起こされました。たった一枚の絵はがきがもたらしたそんな豊かなひとときがうれしくて、ますます季節の移り変わりを心待ちにしてしまいます。
 描かれた鳥は渡り鳥のセイタカシギに似ています。画題の《長旅のはざまで》は、きっと旅をする鳥たちのことを指しているのでしょう。自然にしたがい、地球を半周するとさえ言われる渡り鳥の旅の過酷さは想像すらできません。仲間同士、ようようたどり着いた地で憩いのひとときを過ごしているのならいいなと思いました。
 上村淳之は、現代花鳥画の礎を築き上げた日本画家です。祖母は美人画の大家・上村松園、父は日本画家・上村松篁という日本画家の家系で育ちました。彼は幼いころから父の飼う小鳥たちとともに過ごし、淳之にとって鳥達が身近にいることはごく自然なことだったそうです。この作品を描くにあたり、彼は春と秋の2回、日がな一日、あぜ道に座って彼らの行く末を思いながら眺めていたと記しています。誰に背中を押されるわけでなく、めぐる季節にうながされて旅立つ彼らの胸の内を想像せずにはいられません。

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